第75話 主人公はみんなの主人公
(ふう……。やっぱり慣れない着物で動くと疲れるな)
自宅に帰りついた俺は、速攻で和装を脱ぎ捨て、小さく息を吐き出す。
あの後は、つきたての餅をうまうました後、たまちゃんたちと絡んで、おみくじの結果が云々、羽根つきで罰ゲームが云々、どのお守りを買うか迷っちゃうな云々などの定番イベントをこなしただけなのに。
まあ、他愛のない日常パートとはいえ、俺としては仕事の挨拶回りか、取引先をゴルフ接待するような感覚に近い。気苦労がある。
「マスター。お着物をお預かりします。こちら、部屋着です」
部下の中東系の女の子が、着物を回収し、着替えを置いていく。彼女は、残念ながら、戦闘適正も事務職の適性もなかった子たちの内の一人で、今は俺の身の回りの世話を任せている。まあ、ぶっちゃけ、みかちゃんフラグ緩和要員だ。無論、特定の女の子とフラグが立たないように、3人くらいでの当番制にしてある。
「ありがとう。あ、それと、これ、現場組の子にはもう渡したんだけど、これ、お年玉――代わりのプレゼント」
パンツ一丁の俺は、台所下の収納スペースから箱を取り出した。
「あ、ありがとうございます。その、開けても?」
「もちろん」
モブ娘は子どもらしく箱のギフトラッピングをビリビリにする――こともなく、手刀でスパっと開封してみせた。
戦闘要員じゃなくてもナチュラルでこれくらいはできるという、ママンの研究の業の深さよ。
「わあ、かわいい! サボテンですか?」
モブ娘は箱の中身を見て破顔する。
モブかわ。
「うん。みか姉から、君は樹や花に興味があるって聞いてね。そのサボテン、綺麗な花が咲くらしいよ。上手く育てれば、君の寿命よりも長生きすると思う」
ちなみに、「お花は綺麗だけど、冬になると枯れちゃうから悲しいね」というモブ娘同士の日常会話を小耳に挟んだ上でのこの選定である。
モブ娘一人にこの念の入れよう。
緻密な情報収集と細やかな気遣いが、ギャルゲー主人公を主人公たらしめているのです。
伝説の樹の下で告白はしないけど、絶対「悪い噂」なんて流させたりはしないんだからねっ!
「ありがとうございます! マスター、大切にします」
「それほど大した物でもないけど、いつもありがとうね」
俺は大げさになりすぎないように、さりげなく言った。
言うまでもなく、これは「ママンと違って、俺はちゃんとあなたたちを個人として尊重してますよ」というアピールである。
お年玉といえば普通は現ナマだが、彼女たちにはすでに給料を払ってるし、お金を直接渡しても、印象が薄い。というか、そもそもこの田舎だと現金を使うところが限られすぎてるんだよな。ネット通販もあるにはあるけど、まだまだ発達途上の段階だし。
あと、みかちゃん経由ではなく、俺が直接プレゼントを渡すのは、彼女たちに俺個人への感謝の念と忠誠心を植え付けるためです(ゲス顔)。
なお、定番のプレゼントイベントであるクリスマスは、宗教上の理由( ガチ)により、この村では行われません。
「はい、あの、ご入浴されるならお背中をお流し致しますが」
「……みか姉から聞いたのかな? 気持ちは嬉しいけど、女の子と一緒に入るのは恥ずかしいよ。俺もそろそろ小三だしさ。」
『昔はよく一緒にお風呂に入ったよね』は幼馴染限定フラグなので、軽々しく与えてやる訳にはいかねーな!
「そうですか……。では、何か他にお仕事があればお申し付けください」
「ううん。今日はもう大丈夫だよ。お疲れ様。早くそのサボテンを温かいところに置いてあげてね」
「は、はい。では失礼します」
モブ娘は俺からのプレゼントを手に、顔を赤くしてハケてった。
(さあ、風呂入ろ)
さっさと入浴を済ませた俺は、少年マンガ誌に出てくるアニメキャラがプリントされたTシャツに着替える。
(もうそろそろ三年生だし、さすがにキャラもののTシャツはイタいよな。変えた方がいいかなー。かといってブランド物で身を固める訳にもいかないし、適当に量販店で買えばいいのか?)
そんなことを思う。子育てをしたこともない俺には、子どもに適切な格好というものが分からない。前世のリアル小学生時代、俺はどんな服を着てたっけ。ただ、母親が用意するものを何も考えずに身にまとっていた気がする――などと考えていると、携帯のバイブが震えた。噂をすれば影ではないが、今のママンではないですか。向こうからかけてくるなんて珍しい。
なんの用かなー。もしかして、お年玉でもくれるのかな?(すっとぼけ)




