第64話 すみっこ暮らしが落ち着くタイプ(2)
「ということで、みんな、戦いの師匠がアイなら、ここにいるみか姉は『人間らしい生活』を教えてくれる先生です。みんなが幸せになれるように色々教えてくれるから、俺がいない時は、日常生活全般に関して、みか姉の言うことに従ってください」
「「「「はい。マスター。よろしくお願いします。シスターミカ」」」
「――こんな感じで、色々大変な娘たちだけど、お願いできるかな。みか姉」
「うん、もちろんだよ! こんな様子を見せられたら、お仕事じゃなくても、放っておけないよ。――そういえば、初めて会った時のゆうくんもこの娘たちみたいな寂しい目をしてたわ。……ゆうくんは覚えていないかもしれないけど」
みかちゃんが懐かしそうに言って、俺の頭を撫でてくる。
俺氏に悲しき過去……。
もしこれが本編のみかちゃん編なら、
『俺はその頃の記憶があまりない。覚えているのは、彼女の手のぬくもりと柔らかな石鹸の匂い。みか姉は、俺が知った初めての『幸せ』だった』
みたいなモノローグがカットインした所だぜ。
「ありがとう。俺がみか姉に救われたように、彼女たちも助けてあげて欲しい。――みか姉は望んでないと思うけど、俺の気持ちとして、お給金は増やしておくから」
俺はちょっと憂いを帯びた表情を作って言った。
これで、みかちゃんとの半同棲状態を解消し、私的接触を減らす名目ができた。
みかちゃんの好感度が上がり過ぎている。かといって、冷たく突き放すことはできないから、上手い事軟着陸させなくてはいけない。
そのために、みかちゃんにはいい感じで、俺と付かず離れずの仕事を与えるのだ。
「わかった。ありがたく、貰っておくね。今、私、貯金してるんだ!」
「へえ。何か欲しい物でもできたの?」
あんまり物欲がないみかちゃんにしては珍しいことだ。
「うん! ゆうくんの近くにお家を買おうと思って。そしたら、今、通っている時間が節約できて、空いた時間でゆうくんのお世話もできるわ」
マジかよ。こいつまだ俺のメイドっぽいことするの諦めてなかったのか。もしみかちゃんが隣に越してきたら、ぷひ子との兼ね合いでフラグ処理がすごくめんどくなるんだけど。
「そ、そうなんだ。今、俺の家の近くで、彼女たちの家を建てるための土地を集めてるけど、みかちゃんの分は残しておくから、気に入った所があったら早めに言ってね」
俺は内心はともかく、そう答えるしかなかった。みかちゃんの好意を、あからさまに否定する訳にもいかない。
ちなみに、彼女たちのための家を建てようとしているのは事実だ。
俺としても、本当はまともな住居が完成するまで、斡旋してもらう人数を増やすつもりはなかったのだ。だが、田舎民は俺の想像以上に使っていなくても空き屋を手放すのを嫌がる人間が多く交渉が難航し、また、みかちゃんに仕事を振る必要に迫られたこともあり、急遽空き地にコンテナハウスを用意することになった。
「家なんてぇ、どこでもいいのぉ。ヌルい環境にいたら身体がなまるわぁ。こんな雑魚たちなんて、特にそうよぉ。野宿させなさい。野宿ぅー」
アイちゃんがエネルギーを持て余すようにアクロバティックなバク転をかまして言った。実際、アイちゃんも俺の与えた家には、入浴する時くらいしか帰ってないみたいだしな。
「「「「はい。私たちは、目的遂行のためなら、あらゆる困難を厭いません」」」」
娘たちが声を揃える。
(つーか、この嗜好は戦闘狂のアイちゃんだけかと思ったら、この娘たちもコンテナハウスで十分っぽいんだよなあ)
一応、築古ながらコンテナハウスよりはマシな家くらいは確保できていたのだが、良すぎる居住環境は逆に落ちつかないらしい。まあ、ママンの研究施設における彼女たちの部屋はコンクリ打ちっぱなしの地下牢みたいなところだからね。
そういう意味では、夏は暑くて冬は寒く、窓がなくて侵入経路が限定されているコンテナハウスの、彼女たちからの評判は良かった。
「我慢強いのは立派だけど、俺としては、みんなに普通の幸せを知って欲しいんだ。まあ、ゆっくり慣れていこう。時間はいっぱいあるんだからさ」
本人たちがよくても、子どもをずっとコンテナハウスに住まわせておくのは、外聞がよくない。まあ、彼女たちにはこれから、みかちゃんの薫陶を受け、徐々に一般人の生活に慣れてもらって、ある程度人間性を取り戻した段階で、普通の家に移動してもらう形を取ることにしよう。
「ゆうくん。ゆうくん。時間はいっぱいあるけど、この後、シエルちゃんの所に行く約束があるって言ってなかった?」
「ああ、もうこんな時間か。じゃあ、みか姉。後のことはお願い。俺は、シエルの所で打ち合わせしてくるから」
「うん。行ってらっしゃい!」
みか姉に見送られ、俺はアイちゃんを引き連れて、シエルの洋館へと向かう。
「さあて、どんな戦士が出てくるのかしらぁ。アタシを差し置いて、教官になるっていうんならぁ、タダの雑魚ってことはないわよねぇ」
アイちゃんが家の塀の上を歩きながら、楽しみそうに言った。
「よくわからないけど、財閥で頼りにされてるくらいだから強いんじゃないかな」
俺は素知らぬ顔で言った。
本当は知っている。
この先で待つのは、改造人間を除けば、くもソラ内で三本の指に入る強キャラだと。




