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第55話 インフレはシリーズモノの宿命(2)

「はあ。じゃあ、俺たちは休憩でもするか。――ジャーキー食う?」


 俺は半ズボンのポケットに入れていた、牛肉のジャーキーを取り出した。


「ぴょいー」


 クロウサがガジガジジャーキーをかじり始める。


「ああ、それから、アレ、持ってきてくれたか?」


「ぴょい」


 兎が謎時空からキンキンに冷えたコーラを取り出す。


「おうこれこれ、メキシコって言ったら、やっぱり、コーラだよな」


 コーラとジャーキー。相性はばつぐんだ!


「ぴょいぴょい」


「おっ、お前も飲む?」


「ぴょい!」


 俺がコーラのペットボトルを差し出すと、クロウサは器用に後ろ脚だけで立ち上がり、前脚でコーラのボトルを掴んでゴクゴク飲んだ。


 「アイのやつ、どこまでいけるかな。第三試練まで突破すれば、炎系の能力が大きく強化されるから、そこまではいって欲しいんだが」


 アステカの神話には、五つの太陽の伝説がある。世界はすでに四回滅亡しており、現在は五つ目の太陽の世界だそうだ。それになぞらえて、試練も五つの段階がある。


「ぴょい」


 兎は早くも二本目のジャーキーをかじりながら、後ろ脚で地面を掻く。


 3=〇

 4=×。


「やっぱお前もそう思う? 第四試練のボスは水系だから相性不利だよな」


「ぴょいぴょい」


 そんな感じで俺と兎はコーラを回し飲みしながら、談笑にふける。


(まあ、『はて星』だと、パンピーでも第一試練は突破できるレベルだし、少なくとも第二試練までは余裕だろ)


 今回、俺が利用したのは、完結作に当たる第三シリーズ、『果てしなき宇宙ほしの上で』――通称『はて星』のギミックだ。本作ではスケールが一気に大きくなって、地球規模で宇宙から来る侵略者と戦う話になる。まあ、ぶっちゃけていえば、マブラ〇的なアレだ。はて星ではそもそも、くもソラで出てくる色んな神々も実は別の宇宙から来た高次元存在で――などと言う設定が展開されるが、そんなことはどうでもよく、今、重要なのは、第三作中で、侵略者に対抗するため、地球の市民全てをパワーアップするイベントがあるということである。


 強い者はより強く、弱い者もそれなりになるイベントを、俺は限定解除して先取りしようと言う訳だ。


 もちろん、世界各地に神話の遺跡がある訳だが、あてずっぽうで選んだ訳ではなく、アイちゃんが遺伝子的にこっちのルーツだということも確認した上で、心理テストでも適合を確認している。


 まあ、生贄マシマシ系のアステカの文化が、彼女に合ってることは自明だから、ここまでしなくてもよかったんだけど、念には念を入れたという訳だ。


 ……。


 ……。


 ……。


 やがて、一時間ほど経った頃だろうか。


「えっ、マジ、アマノウズメってそうなのー? さすがの俺でもそれは引くわー」


「ぴょぴょぴょ!」


 神話の裏を知る兎との対話が盛り上がり、猥談へと進んだ頃、


 ガガガガガガと、再び岩肌が開いた。


「……」


 無表情のアイちゃんが、フラフラと遺跡から出てくる。


 バタン、と倒れ込んでくるその身体を、俺は支えた。


 彼女は力を使い果たしたらしく、その髪も肌も今は普通の色に戻っている。


 現実時間ではたかだか一時間だが、精神世界における体感時間では、何カ月か、下手したら数年が経過している可能性もあった。当然、疲労も相当なものだろう。


「……大丈夫か?」


 俺は兎と飲みかけていた二本目の飲み物――ドク〇―ペッパーをアイちゃんに差し出して言う。


「とおおおおおおおっても楽しかったわぁ! 巨人とか、ジャガーとか、クソ大きな鳥とか、いっぱい出てくるのよおおおおおぉ!」


 著作権に厳しいネズミランドに行った後の少女のように、アイちゃんが恍惚とした表情で言った。ゴクゴクゴクと、炭酸をものともせずドク〇を一気飲みする。


「まあ、これで、俺が約束を守る男だと分かってもらえたかな?」


「えぇ――男なんて全員雑魚だから、全然興味なかったんだけどぉ、ユウキは別だわぁ! ねぇ! ユウキ、もっとあるんでしょ! ちょうだい! アタシに力をちょうだい!」


 アイちゃんが俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。


 そんなお薬が切れたジャンキーみたいなこと言われても。


「いや、これ以上は力を身体に馴染ませてからじゃないと。あんまり、急激なパワーアップは危ないよ。つーか、そもそも五つの試練、全部突破できたの?」


「それよぉ! 翡翠のスカートの女に負けたのよぉ! 魚に変えられて、あの楽しい世界からはじき出されのぉ! だから、あいつをぶっ殺すために、もっと力が欲しいのよぉ! ねぇー、お願ぃー。お願ぃー」


 アイちゃんは哀切を訴える声で言って、俺の胴体にコアラのように抱き着いてきた。


(俺とクロウサの予想通り、第三段階どまりか……。それでも、現状、世界でも最強クラスの力だな)


 つまり、目標には十分に達したということだ。


「これ以上があるかどうかは、アイ次第だよ。俺たちはギブ&テイク。そういう約束だろ?」


「ユウキはイケナイ男ねぇー。そうやって、ジラして、周りにいる女の子をみんなその気にさせてぇー。ハーレムでも作るつもりぃー?」


「そんなつもりはないよ。俺はいつでも俺の大切な人を守るために必要なことをしているだけだ」


「本当にぃー? ――まぁ、今日の所はこれで、我慢しておくわぁー。アタシがユウキのいいワンちゃんになってあげるからぁ、これからもかわいがってくれるわよねぇー。マスターぁー?」


 そう言うと、アイちゃんは本当の犬みたいに俺の頬をぺろぺろ舐めてきた。


 ロリコン大歓喜な状況だが、俺には特にそういった(へき)はない。むしろ、砂埃と唾液で汚れたし、またお風呂入らなきゃなー、などと、若干アイちゃんに失礼なことを考えていた。


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