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第54話 インフレはシリーズモノの宿命(1)

 夕飯の飲食を済ませ、風呂にも入り、就寝――するフリして、アイちゃんをこっそり自室に招いた。


「そ、その兎、な、なによぉ。なんか、とってもヤバイオーラを感じるわぁ」


 風呂上りで肌をちょっぴり紅潮させたアイちゃんは、俺の腕の中に収まる黒兎を見て、警戒感をにじませる。


  さすがいい勘してるぅ。


「そういやアイは会うの初めてだっけ? 大丈夫、大丈夫。噛み付きは――するけど、こいつ基本的には味方だから」


「ぴょいー」


 クロウサが片手を挙げて挨拶する。


「ま、まさか、そいつと戦えって言うのぉー?」


 お、アイちゃんが珍しく尻込みしてる。狂犬に見えて、戦力の彼我はきちんとはかれるタイプなんだよね。ちょっと小物っぽいけど、俺はそんなアイちゃんが好きだよ。


「いやいや、そんな訳ないじゃん。俺はそこまでひどい奴じゃないよ」


 俺は首を横に振った。


 つーか、クロウサがあんまり巫女の血吸って、生き贄パワー集めると、最終的に人化するし。俺からこのもふもふの喜びを奪わないでくれ。


「じゃあ、なによぉ」


「うん。説明する前に、とりあえず、手、出して?」


「はぁ?」


 訳が分からないような顔で手を差し出してきたアイちゃんと、俺は片手を繋ぐ。あったかい、というより熱いレベルだ。彼女の基礎代謝は常人の域を超えている。


「じゃあ、跳ぶよー。――やってくれ」


 俺は足下のアタッシュケースの蓋を蹴り開ける。中から諭吉の束が顔を覗かせた。


「ぴょいー!」


 クロウサが諭吉を代償にチートを発動する。


「ちょっ――」


 アイちゃんが何か言う前に、俺たちの身体は光に包まれた。


「はい。到着! 朝日が眩しいね!」


 とある山の中腹に立った俺は、昇りくる太陽に目を細める。

 

「い、いきなり何すんのよぉ! っていうか、ここどこよぉ!」


 アイちゃんが狼狽したように言った。


 本能か、教育か、岩肌を背にして、周囲を警戒する。


「中央メキシコ。古代アステカ文明の遺跡だよ。時差の関係でこっちは早朝だね」


 俺は遠景を見遣って微笑む。辺りには荒涼とした砂漠が延々と広がっている。


「遺跡ぃ? アンタ舐めてんのぉ! アタシは強くなりたいのよぉ! 観光なんてしてる場合じゃないわぁ!」


 アイちゃんが、クロウサがいなかったら今にでも俺の首を捻りそうな勢いで睨んでくる。


「それがしてる場合なんだなぁ。それぞれの人間には、適合する神話のアーキタイプがあるんだけど、スキュラで研究しているやつは、微妙にアイに合ってないと思うんだよね。太陽崇拝という意味では、アマテラスとアステカの信仰には共通点があるから、アイも途中までは母の研究に耐えられたんだよ。でも、完全適合者ではないから、ヒドラになるまでには至らなかった。でも、ここにある施設なら、アイにぴったりだと思うんだ」


 俺はめっちゃ早口で言った。


「理屈はどうでもいいのよぉ! アタシの敵はどこよぉ! 早く殺させなさいよぉ!」


「もう、アイはせっかちだなあ……兎、よろしく」


「ぴょいー」


 黒兎は岩肌にタッチする。それから動画サイトに投稿したらかなり再生数が稼げそうなキュートなウサギダンスを披露した。これは一応、神楽的なアレです。


「んで、解除キーっと」


 俺はそこらにあった石を拾うと、壁面にケツァルコアトル的な印章を刻む。


 二重ロックが解除され、ガガガガガガガと重々しい音を立てて、岩肌が横に開いた。


 内部の壁面は、古代の遺跡には似つかわしくない、メタリックな色彩をしている。


「――うふふふ、感じる。感じるわぁ。『いる』わね? ああ、どうせなら、もっとちゃんと武器を準備してくればよかったわぁ!」


 アイちゃんの身体がブワっと熱気を放つ。


 ピンク色の髪がその赤みを強くした。


 紅縞瑪瑙(サードニクス)のコードネーム通り、磁器人形のような肌にも、赤の竜紋が浮かぶ。


 ペロリと舌なめずりするその姿は、小型の竜か、火トカゲ(サラマンダー)のようにも見えた。


 あんまり近くにいると、焼き尽くされかねないので、俺は彼女と距離を取る。


(うーん、この炎属性、メロンパンとか好きそう)


 ちょうどシャ〇とか流行ってた時期だったからね。


 ちなみに、ライバルのソフィアちゃんは氷属性である。


 わかりやすーい。


「武器は必要ないよ。この先は、精神世界だから物理攻撃はあんま意味ないから。想像力と根性で戦って――とにかく、死なないで戻ってきてよ」


「はははははははー! キルキルキルキルキルキルキルキルキルぅー!」


 俺のアドバイスが聞こえているのかいないのか、アイちゃんが遺跡の内部へと一目散に駆けていった。


 彼女が中に入ると同時に、遺跡の扉が閉まっていく。


 パパンが見たらウレションしそうな光景だけど、まだ教えてあげる訳にはいかない。


 もし教えたら、パパンが世界の深淵へと迫り、最初からクライマックスなハザードが世界を襲ってしまうのだから。

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