表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/225

第53話 専守防衛は日本の誇り(3)

「えっと、いや、あの、普通に交渉に行くだけですよ? この映画に使えるような切った張ったのシーンは撮れませんから、無意味です」


 俺も小声で返す。


「やめましょう、嘘は。あなたの目には、鳩ではなく、鷹が宿っている。ただお金を払って終わり、ということはないでしょう」


 わかるの?


 名監督ってスゲー。これが人間観察眼ってやつ?


「……そうですね。もちろん、相手が相手だけに、丸腰では交渉にはいかないですよ。ただ言いなりになるだけだと、死ぬまで搾取され続けるんで、それなりに踏ん張るつもりです。場合によっては、血を見るかもしれません。ですが、たとえどのような展開になろうと、俺が行く交渉シーン、映画には使えませんよ。言うまでもなく、様々な法に抵触する上に、色んな機密もあります。いくら監督でも、そこは譲れません。無茶して映画が公開中止になってしまえば、元も子もないでしょう?」


 俺は淡々と筋道立てて言った。


 理屈の分からない人じゃないし、これで納得してくれるよね。


「シーンの使える使えないは、後の編集次第でどうにでもなります。とにかく、私は撮りたい。撮らなければいけない。映画監督歴40年の勘が、そう言ってるんです」


 急に勘とか言い始めたよこの人。


 さっきまではロジハラおじさんだったじゃん。いきなりパッションキャラになられても困るよ。いや、いきなりじゃないか。白山監督の映画魂に火をつけたのは俺だ。


 うーん。無理に断るとやる気なくしそうだなー、この監督。一度決めたら譲らなそうだし。


「ですが、本当に危ないですよ。文字通り命の危険があります」


「先ほど私はこの映画に命をかけると言いました。私を、嘘つきにしないでください」


「……わかりました。でも、連れていけるのは最低限の人数だけです。くれぐれも、内密に」


「もちろんです。こう見えて、私は潜入ルポ系の映画も撮ってましてね。その辺りの配慮はご安心ください」


 白山監督は静かに呟いて、何事もなかったかのように元の監督席に戻っていく。


「ふふふ、なんだか、おもしろくなってきたわねぇ! 早く殺しに行きましょうよぉ!」


 アイちゃんが今にも絶頂を迎えそうな高めの声で話しかけてきた。


「――いや、やっぱり殺しはなしだ。俺もぶっ殺そうと思ってたが、事情が変わった。戦闘現場を撮られるなら、あんまり派手にやり過ぎるとマズい。ヤクザは生きたまま無力化する」


 白山監督は気にしないだろうが、18禁グロ現場を俺がこしらえた所が映像として残ると、ヒロインたちの好感度が下がる可能性がある。


「はぁ!? もう殺しの身体になっちゃってるんですけどぉ? このアタシの火照りぃ、どうしてくれる訳ぇ?」


 そんな今日は「ラーメンの口になっちゃってる」みたいなこと言われても知らんし。


「落ち着け。今から、雑魚ヤクザを殺すよりも感じる所に連れて行ってやるから。アイとの約束を果たす。お望み通り、強くしてやるよ」


 言うまでもなく、ただ殺すよりも、生きたまま無力化する方が難しい。殺すだけなら今のアイちゃんで良かったが、無力化なら、念のために彼女を強化しておいた方が安心だ。


「大きく出たわねぇ! アタシの楽しみを奪うっていうならぁ、相応のモノなんでしょうねぇ! もし、これ以上ふざけたことするんならぁ――」


 アイちゃんが俺の両腕をガッチリ掴んで犬歯を剥き出しにする。


 イタタタタタ。力強っ。


 これ後で見たら青痣になってるやつや!


「かなり自信はある。でも、マジでキツいぞ?」


「誰にもの言ってるのぉ? そんなの余裕に決まってるでしょぉ? 痛いくらいが、気持ちいいのよぉ!?」


 アイちゃんがアヘアヘ笑って言った。


 いいだろう。なら、アイちゃんを早速ご招待しよう。超スパルタ式ユウキズブートキャンプへ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ