第48話 名監督はいい画のために民家を壊す(4)
「はぁ。アタシぃ?」
蟻を蟻地獄に放り込んで遊んでいたアイは、気怠そうに白山監督にガンを飛ばす。
いや、確かにアイちゃんはわかりやすくヤベーオーラを放ってはいるけどさあ……。ぷひ子と比較してキャラ変わりすぎだろ。
「ええ。あなた、かなり狂気を感じます。ヒロイン役をやってみてもらえませんか」
「それはさすがに厳しいのではないでしょうか。アイは、俺と違って脚本を覚えてませんし」
俺はやんわりと断りたくて言う。
「問題ありませんよ。子どもたちが遊んでいるシーンでしょう。細かなセリフにまでこだわる必要性は薄い」
「ですが、アイさんの外見は、日本人離れしてますよ。彼女が、日本が舞台の作品と合いますか。それに、後で小百合さんが演じる時に整合性が取れなくなるのでは?」
祈ちゃんが理路整然と問う。
「顔はメイクでどうにでもなりますよ。そして、リアルであることとリアリティは別物です。例えば、あの原節子の顔もバタ臭かった。でも、日本の女性としての演技をするのに、何か支障はありましたか?」
「……いえ、素晴らしい演技ばかりでした。なるほど。そういうことですか」
祈ちゃんが納得したように頷く。いくら祈ちゃんが将来の天才クリエイターでも、さすがに現役のレジェンドには敵わないってことか。
つーか、節子って誰だよ。おはじき舐めて死にそうな名前だな。
「勝手に話を進めるんじゃないわよぉ。たとえ演技でも、このアタシが、負け犬のいじめられっ子の役なんてするはずないでしょぉ? 白髪ジジイ、ブッ殺すわよぉ?」
「そう! それです! その反骨精神が欲しかった! さあ、早くカメラの前へ」
アイちゃんにボロクソ言われたのに、白山監督は嬉しそうに膝を打った。
ドMかな?
「だから嫌だって言ってるでしょぉ? 血を流さないと分からないほど耄碌してるボケジジイなのかしらぁ」
「アイ。言うこと聞いてくれたら、すぐにダイヤをぶっ殺せるくらい強くなれるところに連れてってやる。だから、今は我慢してくれ」
マジで世界の白山を今にもぶっ殺しそうな勢いのアイちゃんの耳元で、俺は囁く。
「本当ねぇ? 嘘をついたら、ジジイのケツの穴にあんたの頭を突っ込んでキビヤックにするからねぇ?」
「もちろん。俺は約束を守る男だよ」
アイちゃんの脅しに自信満々に頷く。
つーか、キビヤックってなんだっけ。確か、アザラシの腹の中に鳥ぶち込んで作る発酵食品だったか?
「仕方ないわねぇ……。捕まっても五体満足なんて、鬼ごっこをやった気にならないのだけれどぉ」
アイちゃんは足でアリ地獄の穴を埋めると、重い腰を上げた。
まあ、アイちゃんはママンの研究所で鬼畜系リアルおにごっこを経験してる上級者だからね。普通のじゃもの足りないよね。
「はい。では、撮影再開しまーす。5、4、3、2、1」
こうして白山監督の望むがまま、撮影は進んでいく。
俺はカメラを意識しつつ、境内の陰へと移動した。




