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第42話 愛の形は人それぞれ(3)

「……お風呂、頂きましたー。えへへ。ぷひちゃんのパジャマ借りちゃった」


 みかちゃんが袖足らずのパジャマを着て、照れくさそうに言う。


 メインヒロイン特権でぷひ子の着替えは俺の家に常備されてるからな。それを使ったのだろう。


「うん。はい、麦茶」


 俺はコップにいれておいた麦茶をみかちゃんに差し出す。


「ありがと」


 みかちゃんはそれを受け取り、半分ぐらいまで飲み干した。


 そのまま、なんとなく二人並んでソファーに座る。


「それでね……。改めて、聞くけど、ゆうくんが私のうちを助けてくれたんだよね」


「――うん。どうやら、俺にはお金を稼ぐ才能があるみたいだから、それでみか姉のうちが助かるならいいかなって思って」


「そうなんだ……。うん。じゃあ、やっぱり、もう、私はゆうくんのものなんだ」


 みかちゃんはコップに口をつけながら、神妙な面持ちで頷いた。


「俺のものって?」


「あのね。パパとママが、うちにはゆうくんに返すようなお金がないから、代わりに私がゆうくんにご奉仕しなさいって」


 あー、つまり、本編のヤクザ屋さんの立ち位置が俺ってことか。


 まあ、俺がみかちゃんに手を出さなければ変なフラグは立たないだろう。


「奉仕なんていらないよ。見返りが欲しくてやった訳じゃないし」


「でも、100円や、500円の話じゃないでしょ。詳しいことまでは知らないけど、すごい額のお金だってことくらいはわかるわ」


「ねえ、みか姉。例えば、さ。俺が海で溺れてて、その場にみか姉しか助けられる人がいないとしたら、どうする?」


「もちろん、飛び込んで助けるわ。お姉ちゃんだもん」


 みかちゃんが即答した。


 実際、いくつかのルートでは主人公を庇って死ぬからね。みかちゃんは。


「その時に、後で俺から何か欲しいと思う?」


「そんなこと、考える余裕ないと思う」


「それと同じだよ。俺のやったことも」


「ありがとう、ゆうくん。ゆうくんの言いたいことはわかった」


「そっか。よかった」


 俺はほっと息を吐き出す。


 みたか、この完璧な主人公ムーブを! 青春時代をギャルゲーに費やした経験は伊達じゃ――


「でもそれはそれとしてご奉仕はするね!」


 みかちゃんは俺の自己満足を一瞬で吹き飛ばす。


「えっと……どうして?」


「あのね。パパとママが、私はゆうくんのものだって言った時、実は、ちょっと嬉しかったの。一生返せないようなお金の代わりに、私がゆうくんのものになるっていうなら、私はずっとゆうくんの側にいられることになるから」


「それはお金を介さなくても一緒だよ。俺たちは、幼馴染だし、みか姉は、みか姉だし……」


「一緒じゃないよ。お姉ちゃんっていっても、本物じゃないわ。幼馴染じゃずっと一緒にはいられない。私はぷひちゃんみたいに家が隣じゃないから、朝起こしにいったり、晩ご飯を一緒に食べたりもできない。ほら、こんな風にパジャマを置いていったりも。でも、ゆうくんのものになったら、全部できるよね。ゆうくんなら、私を大切に飼ってくれるでしょ?」


 みかちゃんは、そう言って上目遣いで俺を見る。


 これはみかちゃんの隠れドスケベな所が全面に出たな。


 さすがにギャルゲーのセオリーとして、これを拒絶するのは無理だ。トラウマ発動して、いきなり鬱フラグが立ちかねない。


「わかった……。じゃあ、ご奉仕はともかく、みか姉にお願いする仕事、考えておくよ。それでいい?」


(まあ、いずれバレることだし、仕方ないか。計画を早めよう)


 本当は、高校生か、早くても中学生くらいで『普通』の仮面を投げ捨てるつもりだったが、それが今になっただけだ。みかちゃんが有能であることは本編でも証明されてるし、今から訓練して、俺の秘書的な役割でも果たしてもらうとしよう。


「わかった! じゃあ、そのお仕事が決まるまで、私、ゆうくんのお手伝いさんをやるね!」


 みかちゃんが決定事項のようにそう宣言する。


 将来の生徒会長だけあって、リーダーシップを発揮する時はするのだ。このムッツリ姉は。


「うん。でも、無理のない範囲でね……」


 「ぷひ子の嫉妬ゲージが溜まるから嫌です」とも言えない俺は、控えめにそう付け加えるんで精一杯なのだった。

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