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第40話 愛の形は人それぞれ(1)

 それは、秋雨がしとしと降る、日曜の真昼のこと。ぷひ子家で昼食を頂いた後、俺は残っていた仕事を片付けていた。


「ふう。ざっとこんなもんかな」


 俺は大きな音を立てるプリンターが吐き出し終わった紙束をまとめて、クリップで止める。


 ここ数日、アイちゃんのために近所の空き屋を手配したり、小百合さんに渡りをつけたり、映画の事業計画を立てたり、色々と忙しかった。


(ちょっと昼寝でもするかなー)


 などと思っていると、ガラガラガラ、と、玄関の引き戸が開く音が聞こえる。


 田舎なので、基本的にインターホンを押すという文化はないのだ。


(この音は、ぷひ子――ではないな。あいつは窓から入ってくる。玄関からくるとしてももっとガサツな音。礼儀をわきまえた祈ちゃんと都会から来た香・渚は律儀にインターホンを鳴らす、シエルはお嬢様キャラ的に呼びつけることはあっても、彼女の方からこちらに出向くことはないし――となると、みかちゃんか?)


 などと考えながら、玄関口に向かうと、果たして予想通り、みかちゃんがいた。ただ、その姿は俺の予想を大きく裏切るものだった。


「ゆうくん……」


 全身びしょ濡れのみかちゃんが、そこにいた。貞子スタイルで前髪がおろしてるので、表情は伺いしれない。


 一瞬、ヤクザ関連のヤバイフラグが立ったかと思ったが、着衣の乱れもないし、そういうことではなさそうだ。


 まあ、ひそかに護衛にみかちゃんの周囲を見張らせてるからね。そんな鬱フラグはありえないんだけど。万が一を考えちゃうのがギャルゲーマーの宿命だから。


「ど、どうしたの、みか姉。傘もささずに。今、タオル持ってくるね」


 俺はコンマ数秒で観察を終えると、脊髄反射で主人公ムーブに移る。


「ゆうくん!」


 次の瞬間、俺の背中に小さな衝撃とぬくもりが訪れた。


「私っ、私ね! 知ってたの! パパとママのお仕事が上手くいってないって。でも、私、まだ子供だから、何もできなくって、それで! それで!」


 みかちゃんにしては珍しく、取り乱した様子でまとまりのない言葉を繰る。


「……」


 俺の頭の中でいくつかの選択肢が頭に浮かんだが、下手ことは言わない方がよさそうなので、ここは無難な沈黙を選択。言葉の代わりに俺の背中に抱き着いてきたみかちゃんの手にそっと触れる。


「ゆうくんが助けてくれたんでしょ! さっき、パパとママに聞いたの。私、いてもたってもいられなくなって、それで――!」


「……とりあえず、お風呂に入りなよ。風邪ひくよ。話はその後にしよう」


「う、うん……」


 俺はイケメン主人公ボイスで感極まった様子のみかちゃんの言葉を封じると、そのまま彼女の肩を抱き、浴室へと誘導する。


「……ゆうくんは一緒に入らないの?」


「そうだね。レアなみか姉の泣き顔をじっくり見つめて欲しいなら、一緒に入ろうか?」


「もう、ゆうくんのいじわる」


 ちょっと落ち着きを取り戻したみかちゃんが、浴室へと消えていく。


(おらあああああああああああああ! あのアマあああああああああ! ふざけんな! チクんなって言っただろこらああああああああああああ!)


 俺は内心ブチキレながら居間へと駆け戻り、携帯のとある登録番号を猛プッシュした。


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