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第39話 映画は娯楽の王様

 シエルと話をつけてから、一週間後、俺は祈ちゃんを自宅に招いた。


 テーブル越しに向き合って座り、俺は兵隊の件はボカして、映画を撮ることになったと伝える。


「それで、私に脚本を? ――祐樹くんが映画の教養もあることは知ってましたけど、そこまで入れ込むほどだったなんて、ちょっと意外です」


 話を聞き終えた祈ちゃんは、目を丸くして言った。


 いや、俺に映画の教養はそんなにない。くもソラに出てきた架空の映画か、もしくは、世間で話題になった有名作くらいしか知らない。


「うん。上手くいえないけど、表現してみたくなってね。映画は、母との数少ない接点だから」


「祐樹くんのお母さん、有名な女優さんだったんですよね。『塵芥転生』は名作です」


「そうだね。俺も、本物の母より、映画の母の姿の方が目に焼き付いてる」


 ママンはスキュラの理事長になる前、結構有名な女優だった。


 ちなみに、祈ちゃんの言う『塵芥転生』は時代物で、その映画を撮る時、考証やってたパパンと知り合って恋に落ちた設定だゾ。ロマンチックぅー。


 っていうか、ママンは本当に過去多き女だよ。


「えっと、その、ごめんなさい。無神経なこと言って」


 祈ちゃんが申し訳なさそうに下を向く。


「いや、いいんだ。母と真正面から向き合えるような心持ちになったから、映画を撮ろうと思ったんだし。――それで、どうかな。無理にとは言わないけど」


「いえ、私でよろしければ、やらせてください。書いてみます。ダメだったら、ボツにしてください」


 大丈夫だ。祈ちゃんは将来、芥川賞と直木賞と日本アカデミー脚本賞を同時受賞する天才作家だから。きっと、なんとかしてくれるはず。


「えっと、大まかな内容は祐樹くんが決めたんですよね?」


「原案レベルだけどね。自由にアレンジしてもらっても構わない。なんなら、一から別のストーリーにしてくれてもいいよ」


 俺は既に未来の時代に流行るストーリーを知ってるので、それをパク――オマージュした感じの原案を投げてある。


 具体的には、ワッツヨアネームで時をジャンプする快感で青春系な感じの話である。


「いえ。大衆娯楽としてのツボを押さえたいい話だと思います。この筋で書いてみますよ」


「ありがとう」


「――それで、あの、映画とは全然関係ない話なんですけど、一つ質問いいですか?」


「なにかな?」


「どうして、みかさんはお女中さんの格好をされているんですか」


 祈ちゃんは、それまで黙って俺の横に突っ立ってお茶の給仕などをしていた、割烹着姿のみかちゃんを指差して言う。


「えへへー。祈ちゃん、それはねー。実は、私、ゆうくんの奴隷になっちゃいました!」


 みかちゃんが、『髪型変えました』くらいの軽いノリで宣言する。


「ミカ姉、言い方ぁ! 奴隷はやめてよ。奴隷は」


 俺は慌てて突っ込んだ。


「えー? でも、普通にうちのゆうくんへの借金の額、普通の人が一生働いても、返せる額じゃないよ? これはもう、私、ゆうくんのとこに永久就職するしかないんじゃないかなー」


「借金って、俺とミカ姉の間にはいかなる貸借関係も存在しないでしょ」


「えー、でも、結局、ゆうくんが手を回してくれたんでしょ?」


「俺が好きでやったことだから、気にしなくていいって」


「でも、私の親はそう思ってないみたいだし、私も恩知らずな子にはなりたくないから。私は、ゆうくんに全力でご奉仕します!」


「……と、まあ、こんな感じでね」


 俺はそう言うと、祈ちゃんの前で、困惑気味に頭を掻いて、『本意ではない』アピールをする。


「よくわかりませんが、色々大変そうですね」


「うん。まあ、これも複雑な家庭の事情ってやつでね。――はあ」


 気遣わしげな祈ちゃんに、俺は溜息で答える。


 俺がシエルに宣言したことを朝令暮改し、『普通の小学生』路線を完全に放棄せざるを得なくなったのは、つい数日前のことであった。


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