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第37話 狂人キャラ好きは安易な性癖(3)

「それで、次はソフィア」


「なんだ……? 私はお前個人の揉め事に巻き込まれるつもりはないぞ」


 ソフィアが警戒感をにじませた声で言う。


「そんなことを頼むつもりはないよ。ぶっちゃけた話、シエルの護衛、足りなくない?」


「……」


「今、シエルは危ない状況にあるんだろ? 詳しい事情までは分からないけどさ。世界的な財閥のお嬢様が、こんな田舎まで疎開してくるんだから、それくらいは察しがつくよ。その辺のごろつきなら、ソフィアだけでも勝てるかもしれないけどさ。このまま状況が悪化したら、スキュラ経由で、能力者の傭兵がシエルを襲ってくる可能性もあるよね」


 可能性っていうか、シエルルートでは実際襲ってくるし。本編ではそいつらに覚醒した主人公とソフィアちゃんで対処する訳だが、俺は覚醒するつもりがさらさらないので、もし来たら負ける。


「それは、そうだが……」


「でしょ。で、もしそうなったら、ソフィア一人で守り切れる保証はある?」


「私は命に換えてもお嬢様をお守りする覚悟だ」


「覚悟は分かるけど、どうせなら、死なない方がいいし、そのためには、戦力を増強する必要があるよね。違う?」


「違わないが……。一体、私に何をしろというんだ?」


「もちろん、兵隊の訓練だよ。スキュラから斡旋してもらった子はもちろん、能力のない一般人も含めて、ソフィアなら指導できるでしょ?」


「アイを雇ったんじゃないのか? 私はいらないだろう」


「アイ、やってくれる?」


「アタシは猟犬(ハウンド)よぉ? 番犬(ウォッチャー)じゃないわぁ。大体、できたとしても、ペーペーの弱い奴に教えるなんて、そんなめんどくさいこと、する訳ないでしょぉー。アタシの練習になるくらいの戦闘力の持ち主なら、相手をしてあげてもいいけどぉー?」


 俺が水を向けると、アイは気怠そうに欠伸をして言った。


「だって」


 俺はソフィアに向き直る。


「……はあ。確かに、アイは護衛向きではないな。――結論からいえば、私に護衛は作れても、軍隊は作れない。戦闘技術は教えられても、戦略を立てたりする能力はない。それでもいいのか?」


「うーん、それじゃあ困るかな。もちろん、戦闘技術を教える人も必要だけど、ある程度自分の頭で作戦を立てられる軍隊が必要だ」


「だとすると、私では不足だ。そもそも、兵隊を作るには金も軍事教練のノウハウも、何もかも足りない」


「お金の方は俺がなんとかするよ。だから、そっちにはノウハウを提供して欲しい。俺も諸々で色々恨みを買い始めてるから、そろそろ守りは固めないとね」


「それなら、わざわざ一から軍隊なんて作らなくても、お前の母親を頼ればいいだろう」


「しばらくは母さん経由の護衛を使うつもりだけど、いつまでも母さんの紐付きじゃ、俺は自由に動けないじゃないか。――それで、兵隊を作れるような指導的な人材に心当たりはあるの?」


 まあ、あるって知ってて聴くんだけど。


「……一人、心当たりがないこともない。本家のメイド長を務めていらっしゃる御方だ。私にメイドの心得と、単なる人殺しではない護衛の技を教えてくださった。あの方なら、軍隊も作れるだろう。人物としても信頼できる」


 ソフィアが敬意を滲ませて言う。


でも、俺は全く信頼できない。そいつ、最終的にシエルルートのラスボスだし。それでも、毒を喰らうくらいの覚悟がないと、力は手に入らないからなー。


 まあ、ママンに頼れば軍事顧問くらいは派遣してくれそうだけど、あんまり一つの勢力に依存しすぎるのも問題だもんね。癒着が度を過ぎると、最悪、続編の主人公くんがママンと敵対ルートに進んだ場合に、巻き添えでキルキルされちゃう可能性がある。ぷるぷる……。ぼくはわるいなりきんじゃないよ。


「じゃあ、シエルの許可がとれたら、その人に連絡してもらってもいい?」


「それは構わないが、本家がゴタゴタしている時に、あのお方がこちらに来てくれる可能性は低いと思うぞ」


「まあ、言ってみるだけいいじゃん。その人本人は無理でも、代替要員を派遣してくれるかもしれないし」


 などと言いつつ、俺は来てくれると確信していた。


 本編のシエルルートにおいて、鬼畜外道のシエルのお兄様は、そのメイド長をスパイとしてシエルの元に送りこみ、俺を通じて、ママンの研究を盗めないか画策するからね。


 まあ、本編と違って、シエルと俺が恋仲になってないから、工作対象としての重要度が下がっていると判断される可能性はあるが、少なくとも、何かしらの人員は送ってくれるはずだ。


「ふむ。まあ、話は分かった。ともかく、お嬢様に話を通せ。全てはそれからだ」


 ソフィアは固い口調で言う。


「わかった。じゃあ、そうしよう」



*      *         *


「……意図は理解しましたわ。危険に備えておくことも悪いとは思いませんし、お兄さまに協力をお願いするのもやぶさかではありません」


 例の洋館で、俺たちから事情を聴き終えたシエルは、冷静にそう言った。


「よかったよ。じゃあ、早速、先方と連絡を取ってもらう形で」


 俺は安堵と共に微笑んだ。


 これで、俺は兵隊が手に入る。アイちゃんは戦闘本能を満たせる。シエルちゃんの安全度も向上する。仕事上で付き合いが生まれるから、ソフィアちゃんとアイちゃんの旧交を温めることにもつながる。我ながら、一石四鳥で誰も損しない素晴らしいプランだと思う。


「わかりましたわ。ですが、仮に条件が整ったとして、それをミシオやミカたちに、どう説明するおつもりですの? 彼女たちは、あなたを『普通の』男の子だと思っているんですのよ? いきなり見知らぬ人間がユウキの周りに増えることに、合理的な説明ができまして?」


「ああ、それね。その辺は考えてあるよ」


「具体的に伺ってもよろしくて?」


「んー、とりあえず、映画を撮ろうと思ってる」


 俺はソフィアの淹れてくれた紅茶を口にしつつ、前々から考えていたプランをぽつぽつと口にし始めた。

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