第25話 親友キャラがいいギャルゲーは名作
親友キャラ。
それは、主人公の最大の理解者にして、時にライバル。時に好感度計測器。時にファンディスクで攻略対象にさえなる。semiにゃんかわいいよsemiにゃん。
親友キャラを見ればそのギャルゲーのレベルが分かると言っても過言ではない。
親友キャラがいいギャルゲーに駄作はない。断言してもいい。
寿司屋における玉子焼きのようなものだ。
場合によっては、シリーズ通しての名物となり、どんな主人公よりも、ヒロインよりも、ユーザーから愛される登場人物へと成長することもある。
メ〇オフ完結おめでとうございます。
しかし、残念ながら、くもソラは名作とまではいえないアレのため、親友キャラも凡だ。いい奴だけどね。
(そして、もちろん、確保する。親友キャラはキングオブ便利屋だ)
当然、親友キャラが攻略の足掛かりになるヒロインも何人かいるしね。
(と、いう訳で、俺はヒロインズたちと河原にバーベキューにやってきたのだ)
透き通るような清流が、涼し気な音を立てて流れている。
そんな川に、俺とぷひ子と翼の三人は並んで釣り糸を垂らしていた。
「なー、そろそろポイント変えね?」
一向に来ないアタリに、翼が退屈そうなあくびをこぼした。
「つまんなーい」
ぷひ子も飽きたように、竿を置いて、川面に石を投げ始めた。
今回、俺と翼とぷひ子は、食糧調達担当――ということになっている。
みかちゃんと祈は料理担当で、今頃はメインキャンプのテントの近くで下準備をしているはずだ。
無論、ゲーム本編では、翼と祈は本来ここにいないはずのイベントである。
「いやー、もうちょっとだけ粘らせて」
俺はそう言い張る。無論、魚を釣るためではない。もっと重大なフラグの発生を待っているのだ。
(ゲーム内に正確な時間表記がある訳じゃないからな……。昼飯前であることは確かなんだが)
焦れた気分で来るべきその時を待つ。
水浴びに来たカワセミをぼーっと見ていた、その時――
バシャ、バシャ、バシャと、水を打つ音が耳朶に響く。
「おい! あれ! ヤベエぞ!」
翼が竿を放り出して、川の上流を指さす。
どんぶらこ、どんぶらこと流れてくるのは、桃ではなく、幼女だ。年齢は俺たちと同じくらい。っていうか、一個下だって、俺は知ってるけどね。
とにかく、その幼女は足でも吊ったらしく、上半身だけでもがきながら、あっぷあっぷと苦しげな息をしている。
川は結構な急流のため、見る見るうちに幼女はこちらに近づいてきた。
「ぷひゃー! あの子、溺れてるよ! どうしよう! どうしよう!」
ぷひ子がおろおろと右往左往する。
「ペットボトルを浮き輪代わりにする! みんな、中身を捨てて!」
俺はそう指示を下した。有言実行で、水分補給用の二リットルペットボトルの中身を捨てて再び蓋を締める。
「「わかった!」」
ぷひ子と翼も俺に倣って、即席の浮力の発生装置を作った。
「はあ! はあ! はあ! 誰か! 妹を! 妹を助けてください!」
同時に、川岸を走ってくる音。響く中性的なハスキーボイス。
(来たか! 将来の親友くん。俺に任せておけ!)
「クソッ! これに捕まれ!」
俺は三本のペットボトルを、釣りに使う水汲み用の紐付きバケツ――ビニール製の容器にまとめて入れた。そのまま、遠心力をつけて、川に投げ込む。
「ああっ、クソ。上手く届かない!」
だが、当然、流れの早い川で、ピンポイントで幼女が掴まれるタイミングで投げ入れることなどできるはずがない。
「ちっ。オレが行く! 引っ張り上げてくれ!」
翼が躊躇なく川へ飛び込んだ。さすが俺っ娘は正義感が強いぜ。想定通りだ! 利用して悪いと思うが、実際、この中で一番泳ぎが上手いのは翼だからな。仕方ない。
ま、万が一ミスった時のために、一応、救助要員と小型船舶を密かに手配してあるけどね。
でも、なるべく自然に展開するに越したことはない。
「おう! ――美汐! キャンプに戻って、お前のパパとママ――大人を呼んで来い!」
「わかった!」
ぷひ子がぷひぷひとかけていく。
「おらよっと!」
翼は平泳ぎをしながら、バケツの容器の端を持って浮き輪を誘導。さらに、シャツの中にペットボトルを入れて、バケツの紐ごと抱え込む。人間浮き輪状態になった翼は、今まさに俺たちの目の前を通過しようとした幼女を待ち構えた。
「捕まえたぞ! ちっ! 暴れんな」
翼が幼女を確保。
「ぐっ――すぐに大人がくる! 泳ぐんじゃなくて、浮くことだけ考えて!」
俺はバケツの紐を掴みながら、岩に足をかけて人間アンカーと化す。
ちょっときついけど大丈夫。比較的川の流れが弱く、踏ん張れるポイントを事前に入念に選んだからね。
「ぼ、僕にもやらせてくれ!」
「ああ! 頼む!」
駆けつけた紅顔の美少年が俺に加勢して、紐を引っ張った。
「パパ! ママ! こっちこっち!」
二人で必死に踏ん張っていると、やがて、ぷひ子の叫ぶ声と共に、たくさんの足音が俺の背後から近づいてくるのが聞こえた。
(とりあえず、ミッションコンプリートかな)
俺は計画が上手くいったことに安堵しつつも、最後まで気を抜かないように、紐を握る手に力を込めた。
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