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第222話 人の過ち、神の傲慢(1)

 俺は楓ちゃんを守るように抱きしめたまま、固く目を閉じて勝利の報を待つ。


 ゴロロロロロロロロロロロロロロ。


 グガーン!


 ボボボボボボボボボ。


 ズバババババババババ。


 バリバリバリバリバリバリ。


 雷ってこんなにバリエーションがあったんだな、と感心してしまうくらい、多種多様の雷鳴が俺の周囲で飛び交う。


「遠つ国の巫女よ。なぜあの少年に尽くすのです。男に尽くしても女は傷つけられるだけだというのに」


「はぁ? 寝ぼけたことホザくんじゃないわよぉ! アタシはアタシのために闘うのぉ! なんでも男に結び付けないと考えられないなんて、恋愛脳って哀れぇ! さすがは自分から男を誘うヤリ●ン(ビッチ)ねぇ!」


 イザナミとアイちゃんのレスバも聞こえる。


 耳栓とは一体……。いや、これは魂の声というやつだろうか。


 現実世界じゃないからか、なんでもありだな。


「んー、ちょっと相手の数が多いかも。ヨモシーズ、戦闘用に合体するね? 脚は六本でー、頭は胸に埋め込んだ方が防御力が高いかなー。お姉さんのベッドにされてる子たちは、サファのところにおいでおいでー? こんな玩具もお菓子もないところより、サファのおうちの方が絶対楽しいよ?」


「サファさんには下手に近づかない方がよさそうですね。こちらはマスターのガードに集中しつつ、余裕があれば射撃で援護しましょう」


 サファちゃんと兵士娘ちゃんたちも絶賛戦闘中のようだ。


 なんかグロそうだけど、見ないが仏。


(みんな、がんばえー!)


 雷鳴。雷鳴。雷鳴。


 閉じた瞼をも貫く黄金の光。


 空気ごと切り裂くような斬撃の音。


 咆哮と哄笑。怨嗟と罵声。


 頬に感じる熱風。脳に焼き付くような鮮烈な紅。


 膿混じりの血の臭い。


 いくら五感を制限しようが逃れることはできない、生々しい戦争の臨場感。


 震える楓ちゃんの頭を撫でながら、俺はただひたすら決着の時を待つ。


 ……。


 ……。


 ……。


 どれほど経った頃だろうか。


 腐臭が、苦さを含んだ石灰っぽい香りに変わった時、音が止んだ。


(この香りは、どこかで――。線香じゃないし、排気ガスのようなのとも違う――ああ、そうか。火葬場の荼毘のにおい)


 悪臭とも芳香とも言えない、もっとニュートラルな、一抹の寂しさと爽快さが同居した心持ちになるニオイ。


 両親を葬送した時のことが、ふと思い出された。


「マスター! 制圧が完了しました。もうゴーグルと耳栓を外して頂いて大丈夫です!」


 兵士娘ちゃんに肩を叩かれる。


「そうか。ありがとう」


 俺は言われるがままにゴーグルと耳栓を外した。


 楓ちゃんのも同様に外してやる。


「わーい! サファチームの勝ちー。これでみんなサファのお友達ね?」


 サファちゃんはヨモシーたちとハイタッチしながら、グロサーの姫として、ババアたちの中心で優雅に踊っている。


 完全征服されたヨモシーたちはサファちゃんに改造され過ぎてもはや原型をとどめてないのが多い。


 もう少し具体的に言うと、パヤオに『極めてなにか生命に対する侮辱を感じます』とかディスられそうなくらいヤバイ。


「はあああああ楽しかったああああああああああ! やっぱり闘争はこうじゃなくちゃねぇ!」


 アイちゃんはそう言うと、蛇の一柱の目玉を食いちぎり、吐き出す。


 地の落ちた目は、巨大な蛆虫となってどこかに逃げ出した。


 八雷神はもはや姿も形もなく、イザナミ様はケロイド状に溶けている。


「ま、ちょっとエンガチョ過ぎるのはナシだけどぉ」


 アイちゃんは炎を身に纏い、穢れと汚れを払い落とす。


(さすがにアイちゃんも満身創痍だな)


 髪の一部は切り取られ、一部は縮れている。


 鼻はひしゃげ、指は折れ、四肢の内傷で抉れていない所はない。


 ただ、その目だけが爛々(らんらん)と輝いていた。


 地上に戻れば肉体的にはノーダメージで元に戻るとはいえ、さすがに痛々しい格好だな。


 本人は満足げだからいいんだろうけど。


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[一言] アイちゃんのバトルジャンキー度合いが留まるところを知らない
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