第219話 妹キャラと妹は結構違う
こうしてイザナギを攻略した俺は、ママンに連絡を取った。
もちろん、楓ちゃんを黄泉に連れていくためである。
極めてドメスティックな案件ではあるが、俺は敢えて正式に金で楓ちゃんを雇うことにした。深く説明しにくい事情もあるし、ママンが下手に愛情を発揮すると、前のダイヤちゃんを召喚してぷひ子がブチ切れた案件みたいなことになりかねないし。
まあ、親子とはいえ、仕事は仕事。きちんとケジメはつけるということで。
ママンは色々察してるっぽい雰囲気はあったけど、深くは突っ込んではこなかった。
ママンが科学万能主義者だからオカルトは認められないという建前だけど、パパンと俺を救うための儀式をしている訳だから、本当はそういうのがあるって分かっている。
でも、認めたくないんだよね。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているって、気付いてるから。あくまで人の領分から呪いの攻略を目指している。スプラッタは余裕だけど、ジャパニーズホラーは苦手なママンかわいい。
そういうことで、とある休日。
丑三つ時に島根県にある黄泉の国の入り口付近に現地集合することになりました。
俺たちはもちろん黒ウサでワープ。
一方の楓ちゃんは、ママンが手配した黒塗り高級外車風装甲車に乗って時間ぴったりにやってきた。
ドアが開き、飛び出してくる小柄な体躯。
久々の感動の兄妹の再会――
「死ねえええええええええええええ! メス豚があああああああああああああ」
の前に、いきなりアイちゃんに斬りかかる楓ちゃん。
知ってた。
「……」
アイちゃんは無言でそれに反応する。
余裕を越えた余裕。
アイちゃんと楓ちゃんの戦力の格差は圧倒的を通り越して、絶対的。
楓ちゃんも努力はしてるんだろうけど、アイちゃんはそれ以上に頑張ってるから仕方がない。
「なんで! 勝てないの! 楓は、ちゃんと強くなってるはずなのに!」
「……」
「なんでなんでなんでえええええええええ!」
ちょ、声が大きい。
深夜とはいえ一応、メジャーな史跡だし人が来たらどうする。
「楓、やめてくれ。もういいんだ」
俺は優しげな声色で語りかける。
「よくないです! 楓は諦めません! 絶対に妹の座を取り戻します!」
楓ちゃんは闇雲に刃を振う。
空を切る音だけが空しく響く。
「その必要はないんだよ。前の神盟決闘の時、アイを俺の妹分にしたというのは嘘なんだ。俺が楓を助ける準備が整うまでの時間を稼ぐ間、例え憎しみだったとしても、楓が生きる理由が必要だと思ったから」
「……え?」
楓ちゃんがぴたりと動きを止める。
「嘘をついてごめんな。でも、楓も分かってるはずだ。過去も現在も未来も、俺の妹は、楓しかいない」
「もちろん分かってます! 楓とお兄ちゃんがエターナルな兄妹であることは天地開闢からの真理です。当然です。お兄ちゃんの言うことですから、もちろん信じます。信じますけど、一応、本人の口から聞きたいです。――お前は本当にお兄ちゃんの妹を僭称するクソビッチではないのですか?」
楓ちゃんがアイちゃんに疑わしげな視線を送る。
「はい。ワタシは決してマスターの妹などではありません。ワタシとマスターの関係は、猟師と猟犬。将軍と兵士。それ以上でもそれ以下でもありません」
アイちゃんが真面目くさった顔でそう言って、一礼した。
迫真の演技。前の映画撮影の時から分かってたけど、アイちゃんは役者だね。
(わぁい。まるで本当に忠実な部下みたーい)
いつもの態度からのあまりの変貌っぷりに、兵士娘ちゃんたちがプルプル震えてる。
絶対に笑ってはいけない狂犬24時。
「な? アイは俺の兵隊だ。妹を兵隊にする兄なんているはずがないだろう?」
「納得しました。でも、嘘だとしても、その雌犬がお兄ちゃんとベタベタしていたことは事実ですよね。ならやっぱり殺したいです」
「ダメだ。これからイザナミ様に直接契約の更改の交渉に行く。確実に戦闘になるから、アイは欠かせない。色々思う所はあるだろうが、今は我慢してくれ」
「お兄ちゃんはその雌犬を頼りにしてるんですね。やっぱり殺したいです」
無限ループって怖くね?
「楓、頼むよ。これが終わったら、俺はまた楓と一緒に暮らせる。暮らしたいんだ。――それでも、ダメか?」
俺は楓ちゃんの肩を掴んで、じっと目を見つめて言う。
「また一緒に暮らせるんですか! ――本当に、お兄ちゃんと」
楓ちゃんがパッと顔に喜色を浮かべる。
「もちろん、本当だ」
「――約束ですか?」
「ああ、約束だ」
俺と楓ちゃんはおでこをくっつけて、お互いのつむじを押し合う。
言うまでもなくこの仕草は兄妹の間だけで通じる合図みたいなやつである。
「……分かりました。釈然とはいないですが、とりあえずは生かしておいてあげます」
「それでこそ俺の妹だ」
俺は楓ちゃんの頭をクシャクシャ撫でて微笑んだ。
(はあ、とりあえず納まってよかったあ)
楓ちゃんの殺意は、イザナミの生への敵意を反映しているので、その契約を解除できれば、この錯乱も収まる。
まあ、もちろん、殺意が解けても原作に鑑みるにブラコンな所は変わらないが、それは妹キャラの宿命なのでしょうがない。
「ふぁーあ。お話終わったー?」
眠たげな欠伸と共に、装甲車から幼女が降りてくる。
闇に紛れる黒いゴスロリに包まれて、青白い顔がぼうっと浮かび上がった。
出たなサファちゃん。まあ、俺が雇ったんだから当たり前か。
「うん。仲直りしたよ」
「そっかー。どっちかが死んだらお友達にしたかったのにー」
サファちゃんが残念そうに言った。
相変わらずのサイコな発言助かる。
めんどくさいけど、冥界に行くには絶対パーティに加えておいた方がいいキャラだから仕方ねえ。
「お友達ならこの先にいっぱいいるから安心して。鬼ごっこも兵隊ごっこもかくれんぼも色々楽しめるよ」
「ほんと? わーい! ユウキお兄ちゃんのお仕事はいつも楽しいから好きー」
呑気に万歳するサファちゃん。
「……ちょっと待ってください。ユウキお兄ちゃん? なんでサファイアが楓のお兄ちゃんをお兄ちゃん呼ばわりしてるんですか」
「んー? お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょー? ミケお兄ちゃんも、ユウキお兄ちゃんも、どっちもお兄ちゃんって感じだもん」
「ふっ、そういうことですか。妹は二兄に仕えず。年上の男なら誰でも兄呼ばわりなんて、妹道初心者ですかサファイアは。もうちょっと妹について勉強してください」
なんか勝ち誇った顔で説教する楓ちゃん。
「んー。ちょっと何言ってるかわかんなーい」
サファちゃんが小首を傾げる。
まあ、ギャルゲー道中級くらいにならないと分からないよね。リアル妹と妹の『ような』キャラは似て非なるものなんだけど、語り出すと長くなるから割愛。
でも、とにかく、二人が喧嘩にならなさそうで良かった。
「さて、挨拶も終わったことだし、早速行こうか。黄泉への入り口を塞ぐ大岩をどけたら、いきなり接敵する可能性もあるから気を付けて」
神話によれば、イザナミは黄泉の軍勢の指揮権を所持している。
いきなり奇襲をしかけてくることもあり得る。
「黄泉醜女ですか。確かにイザナミ様の下に赴くなら、サファイアの能力は必須ですね。さすがお兄ちゃん」
さすおに頂きました。
楓ちゃんの言う通り、冥府を行くなら闇属性は必須。
兵士娘ちゃんたちでもゴリ押しで突破はできるだろうけど、対イザナミ戦まで力は温存しとかないといけないからな。
ということで、楽しい根の国ツアーのはじまりはじまりー。




