表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/225

第2話 灰色だとしても青春は有限である

 ゲームが始まる。


 抜けるような蒼穹をバックに、タイトル画面が俺を出迎える。


 実は、このゲーム、初プレイ時はタイトル画面のバックが完全な曇り空だが、ヒロインを攻略するたびにちょっとずつ空が晴れていき、トゥルーエンドを迎えると、今のような『曇りなき青空』が現れる演出になっている。


 つまり、当時の俺はこれを全クリしたということだ。


『はじめから』


を選択。


『――ぬばたま。三日月。紅の蝶。破れた蚊帳。朽ちる黄金。蛭子の神楽』


 意味深な単語を呟く、重苦しい着物を羽織った黒髪の女。


「ああ、そうそう。この感じ」


 俺はその、トゥルーエンド攻略対象ラスボスのセリフを途中で遮って、速攻スキップボタンを押した。そして、主人公が目覚める。彼は何も覚えていない。


 当時は引き込まれたが、今から思えば陳腐な演出だ。


 つーか、夢のシーンから始まるギャルゲー多すぎじゃね?


 俺はスキップを駆使して読み飛ばしながら、ゲームを進めていく。


 そんなんで内容が分かるか?


 もちろん分かる。何度もやったゲームだし、実を言うとクソみたいな人生を送ってきた俺にも、一つだけ誇るべき特殊能力があるからだ。それは、『カメラアイ』と呼ばれる、『瞬間記憶能力』であり、俺は一度みたテキストなら、どんなものでも細部まで思い出すことができる。


 じゃあなんでもう一回やる必要があるのか。


 それは、ギャルゲーとはストーリーだけじゃなく、音楽、絵、テキストが渾然一体となって生み出される総合芸術だからだ。テキストだけ思い出しても、それはギャルゲーをやってるとはいえない。

ともかく、少年時代のパートがスタートする。


『ぷひひ。ゆーくん。おはよ』


 寝起きの主人公の身体の上に乗っかっている金髪ツインテールの美幼女が、満面の笑みと共にそう挨拶してきた。彼女が純日本人なのに金髪なのはギャルゲー時空の話なので気にしていけない。


 美汐は、いわゆる『天然ドジっ子幼馴染キャラ』である。鼻をぷひぷひ鳴らすので、主人公から『ぷひ子』とかいうあだ名で呼ばれている。


 ちなみに、適当に選択肢を選んでいれば、一番好感度を稼ぎやすいメインヒロインである『御神美汐(みかみ みしお)』ルートとなる。


「そもそも、このメインヒロインは あんまり好きじゃないんだよなあ」


 俺はどうもマイナー厨の気があるらしい。


 ゲームそのものも、あまり知名度のないような作品を好きになるし、ヒロインも不人気の奴から攻略したくなることが多い。


「別のヒロインを――おっ。さすが俺。こまめにセーブデータを整理してある」


 昔の俺は相当このゲームが好きだったのだろう。各ヒロインごとに、ルート分岐の重要ポイントでセーブし、コメント付きで印象的なシーンを分類してあった。


 俺は、スキップとロードを駆使して、数時間で再び全ヒロインを攻略し直す。


「ま、こんなもんだよな」


 懐古欲は満たされたが、やはり昔のように感動はできなかった。


 俺ももう、30代も後半。


 創作物とはいえ、キラキラした青春の物語を――ギャルゲーを素直に楽しめる年齢ではなくなってしまったということだろう。


 なんとなくもの寂しい気分になった俺は、そのまま寝酒のビールを煽り、ベッドに倒れ込んだ。


ご拝読、まことにありがとうございます。


もし、『面白い』、『続きが気になる』などと思って頂けましたら、広告の下の☆から応援を頂けると、とても執筆の励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ