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第192話 ドジっ子キャラ特有の間の悪さ

 俺は早速、翌日の学校で皆に遊園地行きの提案をし、快く受け入れられた。


 何の理由もなくいきなり遊園地を貸し切りにするのもアレなので、名目上は、ミケくんやヘルメスちゃんとみんなが仲良くなるための親睦会ということになっている。


 その上で、仲間の内、空気が読めるシエルちゃんとみかちゃんあたりには、「ミケくんとヘルメスさんがいい感じだから、不自然に見えない程度に援護してくれ」と、それとなく根回しをした。無論、部下娘ちゃんたちが俺の方針に基づいて、ミケ×ヘル推しで動くのは言うまでもない。


 そうして、迎えた出発日。終業式開けの休日。


 俺はぷひ子の家のチャイムを鳴らしていた。


 いつもならノリノリのぬちゃぬちゃで俺を起こしにくるはずのぷひ子が、今日はこなかったからである。


「はーい! あら、ゆーくん。おはよう」


「おはようございます。美汐は起きてますか?」


「そう、それなんだけど、ごめんね。あの子、こんな日に限って、風邪をひいちゃったみたいなのよ」


「えっ。大丈夫なんですか」


 半分寝ぼけた頭が一瞬で覚醒する。


「大丈夫。普通の風邪よ。熱があるから」


 ぷひ子ママが俺を安心させるように言った。


 ぬばたまの姫案件の病の場合、熱は出ない。


 医学的には健康体のはずなのに、原因不明の体調不良が続いてこそ不気味さが際立ち、呪いっぽさを演出できるのである。


「そうですか。よく――はないですけど、ちょっと安心しました。上がらせてもらっても構いませんか?」


「ええ。でも、集合時間は大丈夫なの?」


「ああ、はい。まだ大丈夫です。ちょっとくらいなら遅れても、チャーターバスなので融通は効きます」


 元社会人でおっさんの俺は、10分前行動が身にしみついている。


 ぷひ子に朝起こしチャンスを与えるために寝坊しそうなフリをしても、実際に遅れることはありえない。


「ごめんね。気を遣わせて」


「いえ、なんだかんだで、ぷひ子にはいつも起こしてもらってますし」


「今なら他に起こしてくれる子がいくらでもいるでしょうに。あの子も幸せ者ね――さあ、上がって」


「お邪魔します」


 俺は靴を脱いで揃えると、二階のぷひ子ルームへと向かった。


 つーか、ぷひ子が納得していない状態で俺が町を出ると即バッドエンド行きになりかねないからな。精神状態のチェックとフォローは必須だ。もしダメそうなら、金ドブだけど、遊園地は諦めなくてはいけなくなる。


「美汐ー。起きてるかー? 開けるぞー」


 俺は扉を二回ノックする。


「あっ、ゆーくん。どうぞ」


 中から、ぷひ子の鼻声の返事。


「うっす――よお。風邪ひいたんだって?」


 俺はぷひ子のベッドの端に腰かけて、気楽な調子で言った。


「えへへー、そうなの。ひいちゃった」


 ぷひ子が鼻水をズズズとすすりはにかむ。


「美汐のことだ。どうせ、遊園地に行くのが楽しみ過ぎて、あれこれと風呂場で妄想しているうちに湯冷めしたとか、興奮で眠れなくて夜遅くまで起きて、身体を動かしたら眠れるだろうと思って庭に出たら寒さにやられたとか、そんなとこだろ?」


 俺は肩をすくめて言った。


「ぷひゅー! どっちも正解! どうしてわかったの?」


 ぷひ子が目を丸くする。


「わかるに決まってるだろ。何年の付き合いだと思ってんだ」


 もちろん、本編にそういうエピソードはいくらでもあるからね。


 ギャルゲーをやる暇のなかった社会人時代の空白期間も入れていいなら、ぷひ子と俺は云十年来の付き合いなんだからねっ(ツンデレ風)!


「えへへ、ゆーくんには何でもお見通しだね」


 ぷひ子がどこか嬉しそうに呟く。


「ったく、しゃーねーな。――なんなら、俺がついていてやってもいいぞ」


 俺はそっぽを向いて、頬をポリポリかくぶっきらぼうムーブを見せつつ呟く。


「えっ。それって、ゆーくんも遊園地に行かないってこと?」


「ああ。――あっ、言っておくが、遊園地行きの延期はできないぞ? いつでも貸し切りにできる訳じゃないし、美汐のために他の奴ら全員が予定を合わせてくれたのをナシにはできねえから」


 もうすぐクリスマスなので、さすがにそこら辺の書き入れ時は、いくら地方の遊園地とはいえど貸し切りにできない。


「そういうことじゃなくて、だめだよ。ゆーくんがお金を出して企画したんでしょ? ゆーくんが一番楽しみにしてるのに行かないなんて。みんなもきっとがっかりするもん」


「いいんだよ。俺一人行かなかったくらいでどうってことはない」


 俺はぶっきらぼうに言い放つ。


 まあ、理屈としては俺が行かないとミケくんも俺を観察するためにこの町に残るって言いだす可能性はあるけど、相手も主人公様だからな。そこは空気読んで遊園地に行く優しさムーブを見せるはず。もしそうしないなら、この世界のミケくんはハズレ主人公か、バッドエンドCG回収し隊とみなす。


「ぷひゅひゅ。やっぱりだめだよ……。ゆーくんも行ってきて!」


 ぷひ子がちょっと怒ったように言った。


 この場合の「行ってきて」を真に受けるかどうか。


 これは意外とギャルゲーの選択肢としては難しい問題だ。


 もし仮に三角関係で複数のヒロインを天秤にかけている状況でこの選択肢が出た場合、風邪をひいた側のヒロインを攻略したいのならば残るのが正解。「口では行ってきてとは言ったものの、本当は私を選んで側にいて欲しかった」がヒロインの本心だからである。


 しかし、今回は特定のヒロインを天秤にかけている訳ではなく、共通イベントとしての遊園地行きなので、上の例は当てはまらない。


 また、付き合い始めや、攻略途中の佳境でこの選択肢が出た場合も、「ヒロインの不安な気持ちを察して」断られたとしても残るのが多くの場合で正解である。


 ただし、終盤で、主人公とヒロインが結ばれて関係が成就した後でこの選択肢が出た場合は、話が別。ここまでくると『主人公とヒロインは心と心で通じ合っているので、多少の距離が離れた所で何の障害にもならない』というロジックが成立する。そこまで関係が進展している状態で「残る」を選ぶと、「ヒロインの覚悟のこもった発言を信頼していない」ということで、ミスチョイスとなる。


 翻って考えるに、今、現在俺は、荒ぶるぷひ子を鎮めるために婚約フラグをおっ立ててしまっている。従って、ぷひ子は嫁気取りでさっきの発言をしている可能性が高く、ここはぷひ子の俺を立てる気持ちを尊重して、行くのが正解だ――


(と思うけど、一応、念押しで確認しとこ。怖いから)


「本当にいいのか?」


「うん。私はゆーくんとずっと一緒にいるんだもん。だから足を引っ張るような女の子にはなりたくないの」


 ぷひ子が頷いて言う。


 どうやら俺の推測は当たっていたようだ。


 でも全然嬉しくない。


 肩が重い。


 この重荷、誰かが半分背負ってくれないかな。例えば、ミケくんとかがさあ。


(うーむ。まさか、あわよくばミケくんにぷひ子を押し付けようとしていた俺のよこしまな意図を、本能で回避してたりしないよな)


 などとあり得ない邪推までしたい気分だ。


「――そうか。じゃあ行ってくる。思いっくそ楽しんできてやるからな! おみやげに期待してろよ!」


 俺はニヤリと笑って、ベッドから勢いよく立ち上がる。


「うん。私の分まで楽しんできてね」


 手を振るぷひ子に見送られ、俺はぷひ子家を出て、バスの待つ広場へと向かった。


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