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第189話 クロスオーバーはシリーズ物の奥の手

 12月の初旬のとある午後。


 俺は、こたつを囲みながら、幹部娘ちゃんたちの業務報告を聞いていた。


「――以上が、収支報告です」


「ありがとう。みんな、順調みたいでよかった。――で、俺からみんなに相談したいことがあります。先ほどポストを開けたら、ヘルメスさんからこんな手紙が来てました」


 ミーティング終わり、俺は幹部娘ちゃんたちの前に、便箋を広げる。


 ヘルメスちゃんの要件だけが記されたそっけない文面に、幹部娘ちゃんたちの目が釘付けになった。


(――ミケくん、ついに来るか)


 俺がヘルメスちゃんを送りこみ、他のセカンドヒロインを通じても間接的にアピールもしてたから、いつかはミケくんが直接接触を図ってくる可能性もあると思っていた。


「ミケ氏の来訪ですか――目的はなんでしょう。直接的な害意はないと考えてよさそうですかね」


 事業畑の幹部娘ちゃんが呟く。


「当たり前じゃなぁい。暗殺するのに、わざわざ事前に報告する馬鹿がいるぅ?」


 アイちゃんが、テーブルの上で逆立ちしながら言う。


「うん。アイの言う通り、今回は、純粋に俺たちのことを調べにきただけだと思うよ。もちろん、無警戒ではいられないけど」


 俺は頷いて、家事娘ちゃんの淹れてくれたミルク入りのコーヒーを口に含んだ。


(ヘルメスちゃんを奪取したり、ハンナさんがアメリカからいなくなったり、エゼキエルの書の予定を変えちゃってるからなあ。金の人々から俺を調べてくるように言われたかな? まだ、向こうの想定する大筋はいじってないから、殺しにはこないはずだけど)


「説明資料は前に準備したもので問題ありませんか?」


「ないよ。あの資料をプリントアウトしとくくらいで十分。ま、なるべく誠実に対応をして信頼してもらおう」


 俺は事務幹部娘ちゃんの確認に頷く。


 こちらとしては、ヘルメスちゃんを派遣した時点で、当然、ミケくんの来訪を予測して準備はしていた。


 多分、ミケくんは『なんで成瀬祐樹はミケが将来、あらゆる呪いを解呪できる力を手に入れられると思うのか』って質問をしてくるだろう。そのための説明資料はすでにたくさん用意してある。


 世界の奇書やぬばたまの姫に関する郷土史――具体的に言うと、パパンの書庫や、祈ちゃんルートで出てくる三剣蓮というマイナー作家が集めていた資料を元に、当たりをつけた――という設定だ。


「ミケ氏はしばらくこちらに滞在するんですよね? 仮に彼の一定の信頼関係を勝ち得た場合、ミケ氏の恋愛を応援する計画を遂行ということでよろしいですか?」


 企画畑の幹部娘ちゃんが確認するかのように問うてくる。


「うん。そうするつもりだよ。前にも説明したと思うけど、ミケ氏が恋をしてくれるとより多くの人を、呪いの苦しみから救えるからね」


 現状、俺がミケくんに望むのは、ただ一つ。早いところ、ミケくんに恋をしてもらいたい、ということだけである。


 恋をして覚醒した状態のミケくんに協力してもらえると、潰せる鬱フラグがあるのだ。


「ミケ氏の恋愛の対象は誰でも構わないんですよね?」


「誰でもいいよ。でも、新しい娘と一から仲良くなるより、すでにある程度友好関係を築いているヘルメスさんとの仲を進展させる方が合理的だと思うから、ひとまずはその方向で計画を練っておいて欲しい。もちろん、恋愛というのは結局、当人同士の問題だから。ミケくんが恋をしても、その相手がミケくんを好きになるとは限らない。逆もまた然り」


 俺は企画畑の幹部娘ちゃんの問いに答えて言った。


「つまり、ミケ氏がもし他の女性に興味を持った場合も、特に妨害はせず、応援する、と」


「もちろん。他人の恋路を邪魔するような野暮な真似はしないよ。基本、俺たちとしてはヘルメスさん推しでいくけど、無理に押し付けずに、ミケくんが興味を持った娘がいたら、臨機応変にその娘との仲を応援する方向にシフトするから」


 事務畑の幹部娘ちゃんのまとめに、俺は頷く。


 ミケくんがヘルメスちゃんに恋をしてくれれば正史通りでベストだけど、そうそう俺の思い通りにいかないことは、これまでの経験から分かっている。


 場合によっては、くもソラのヒロインを差し出す必要があるかもしれない。


 ヒロインをこの村の外に連れ出してくれるならば、俺としては、フラグ管理の手間が減るので、望む所だ。


 よければ、ぷひ子などを引き取って頂けると非常にありがたい。


(とはいえ、ミケくんがくもソラのヒロインに恋をする可能性は低いと思うんだけどな)


 ミケくんは裏社会のエージェントであり、色々な負い目がある。その辺りの事情を共有できない一般人=くもソラのヒロインに手を出すとは思えない。


 例外は、ソフィアちゃんとアイちゃんくらいだ。


 ただ、ソフィアちゃんはママンの研究所を含め、裏世界そのものに嫌悪感を持っているし、シエルちゃんへの忠誠心も高いので、別の意味で望みは薄い。


 アイちゃんは――正直、どうなるかわからないな。本編では直接の絡みがないから。アイちゃんが、最弱の名を冠しながらもめちゃくちゃ強いミケくんに興味を持つことは十分にありそうだけど、彼がアイちゃんの望むような刺激を与えられるかどうか。また、根が善良な倫理観を持ったミケくんと、クレイジーで唯我独尊なアイちゃんの相性もよくなさそう。ただ、なんといってもミケくんは主人公くんの一人だからね。油断はできない。


 もしアイちゃんをもっていかれると、軍事的にかなり痛手だけど、ミケくんが望むなら涙を呑んで受け入れよう。


「委細承知致しました。おそらく、ミケ氏はマスターについて知るために周りにいる私たちにも探りを入れてくるかと思います。事務畑としては、その際に、ミケ氏の女性の好みをそれとなく探っておきます」


 事務畑の幹部娘ちゃんが冷静に言う。


「ヘルメスさんとミケ氏のデートプラン等の作成に関しては、こちらにお任ください!」


 企画畑の幹部娘ちゃんが胸を叩いてそう請け負う。


「ありがとう。みんな、忙しい所悪いけど、よろしくね。まあ、俺から切り出しておいてなんだけど、仕事半分・遊び半分というか、クラスメイトの恋を応援するくらいの気持ちでいいと思う。向こうもプロだから、あんまり露骨でガチガチな計画はかえって変な警戒を招いてよくないから。本業の片手間みたいな感じで」


 俺は幹部娘ちゃんたちを解きほぐすような柔らかい口調を心掛けて言う。


「そうですね……、私も考えてみますが、部下にも任せてみようかと思います。恋愛の応援となると、普通の事業計画とは違った能力が必要となると思うので、広く意見を募ろうかと」


 企画畑の幹部娘ちゃんがちょっと考えてから言う。


「それがいい。人にはどんな才能が眠っているから分からないからね」


 俺は微笑んで頷く。


「なんか生ぬるくてむず痒い話ねぇ。虎子の時みたいに、そいつをボコすチャンスはないのぉ?」


 アイちゃんがつまらなそうにみかんを皮ごと丸呑みした。


「まあまあ、そう言わずに。今回のプランは全部、ミケくんに害意がない前提で話を進めてるけど、もし戦闘になったら、アイに戦ってもらうことになるよ」


 俺はアイをなだめるように言った。


「是非そうなって欲しいものねぇ」


「アイ、言うまでもないと思うけど、わざと挑発するとかは絶対にやめてね。マジで洒落にならないから」


 もし続編主人公くんと事を構えるような事態になれば、俺のフラグ管理にどのような影響が及ぶかは想像もつかない。


「そんなことしないわよぉ――他のヒドラと違って、データが足りないものぉ。まずはじっくり観察して、そいつの情報を得てからぁ」


 アイちゃんがニヤリと笑って言う。


 俺の意図が正確に伝わってなさそうだけど、まあいいか。


 アイちゃんは俺に悪戯はしかけてくるけど、致命的なやらかしはしないからな。


(ともかく、早く発情してくれ! ミケくん! 頼むぞ)


 心の中でそう祈りながら、俺は静かにミケくんの来訪に備えるのであった。


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