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第164話 幼女はなにをやっても許される

「鹿さん完成ー。名前なんにしようかなー」


 サファちゃんは、鹿スケルトンを前にかわいらしく小首を傾げて悩み出す。


「アクタイオンなんてどうかしらぁ」


「あー、それかっこよくていいかもー」


「そうでもないわぁ。覗き魔の狩人の名前よぉ。月の女神にキレられて鹿にされたのぉ」


「あははは、なにそれ、かっこわるーい」


 サファちゃんが手足をバタバタさせて笑う。干渉が緩んだのか、鹿がバラバラになって崩れた。


 っていうか、アイちゃん意外と博識ね。なんか最近、アイちゃんは、タブラちゃんに絵本の読み聞かせとかしてるしな。


 なんて感心している場合じゃねえ。


「――ええっと、サファさん。質問いいですか?」


 俺はおずおずとそう切り出した。


 あんま絡みたくないけど、詰めるところは詰めておかないとね。


 そもそも、お兄様がシエルちゃんの所にサファちゃんを派遣してきたのは、俺と事前に任務の打ち合わせさせるためのようなので。


「いいよ。なーにー?」


 サファちゃんは骨を組み替えて、鹿っぽい犬や犬っぽい鹿を作って遊びながら言う。


「今回の『戦争ごっこ』には、たくさんの『お友達』が必要だと思うんですが、目途は立ってますか?」


「サファ、アメリカに旅行していっぱいお友達作ったよー。『戦争ごっこ』だから、軍人さんともたくさん仲良くなったのー」


(すでに仕込み済みか)


「腐子ぉ、アンタ大丈夫なのぉ? あんたが『お友達』集めて開いた研究所の夜の墓場の運動会、かけっこすら成立してなかったじゃないのぉ。アレ、色々ぐちゃぐちゃでバラバラで臭くて地獄だったんだけどぉ」


 アイちゃんが鼻を摘まんで懸念を表明する。


 ヒドラにゃ学校も試験も全部ある!


「あ、あれは、『おもちゃ』でしょ! 『お友達』じゃないもん。サファの『お友達』はみんな賢いんだよ? かけっこどころか、かくれんぼだって、だるまさんが転んだだって、簡単にできるんだから! あと、腐子ってなにぃ! 全然かわいくないー!」


 サファちゃんがプクーっと頬を膨らませて言う。


 『おもちゃ』はこの世に残った残留思念を電池代わりにして動く、使い捨ての雑兵である。知能も低く、マクロを組んだbotのごとく、単純な行動しかできない。ゾンビというよりは、サファちゃんが動かす操り人形といった風情だ。助けて往人さん!


 一方、本格的な魂をぶち込んだ『お友達』は、一定の知能があり、自律行動が可能である。今回は、後者の質が高めの戦力を集めたということだろう。


(アメリカは国土が広いからな。郊外の墓地から砂漠や山林を夜間移動するなら、ほぼ見つからないだろう。隠れる程度の知能があるみたいだし)


「それならよかったです。今回の作戦には俺も参加しますが、指揮権を預けてもらえるという認識でいいんですかね?」


「んー? プロフェッサーからお兄ちゃんの言うことをよく聞きなさいって言われてるからいいよー」


 サンキューママン。母の愛を感じるぜ。


「そうですか。では、最終的な責任と大まかな作戦方針は俺が決めますが、現場での指揮はアイに任せようと思います」


「はーい。かしこまりー」


「ご承知頂き助かります。では、先方から作戦決行の指示があるまでは待機ということで」


 俺はそう言って、さっさと打ち合わせを終わらせようとする。


 指令所には、具体的な場所や、日時は指定されていない。情報の秘匿のためだろう。


 後はひたすら指示待ち人間と化すだけだ。


「えー、それで終わりー?」


「ええっと、何か不備がありましたでしょうか」


「もうー、鈍感だなー。ねえ、お兄ちゃん。知ってる? いい子はご褒美を貰えるんだよ?」


 サファちゃんはそう言うと、生意気な感じで唇を尖らせた。


 一見、かわいらしいおねだりだが、こいつが欲しがりそうなものって、大体クトゥルフってるからなあ。


「ええっと、では、オーダーメードのテディベアとか、ブリキのおもちゃなどはいかがでしょう。生体なら、鶏、豚、牛、くらいなら都合をつけます」


「んー、そういうのはプロフェッサーに頼めば買ってもらえるもーん。サファが欲しいのはー、赤い血が流れててー、二足歩行するー、ご当地のお・も・ちゃ」


 サファちゃんはもったいぶったようにそう言って、ゾンビ執事を這いつくばらせ、その背中に足を乗せる。


「……」


 俺は沈黙した。


 そういう商品は取り扱ってないんだよねー。


「腐子ぉ、あんまりアタシのマスターを困らせるんじゃないわよぉー。餌が欲しいなら、アタシが適当に盛り場でロリコンのクズ男どもを狩ってきてあげるからぁ」


「おじさんはもうおもちゃ箱にいっぱいストックがあるからいらなーい。っていうか、おじさんってすぐ首吊るよねー。おもちゃが運ばれてきても、おじさんばっかりでもう飽き飽きー」


 サファちゃんが、ソシャゲでNを引いた時のような感じで辛辣にはき捨てる。


(知った風な口をきくんじゃねえ! おじさんは――、おじさんはなあ! 頑張ってるんだよ! ああ、このメスガキわからせてえ)


「わがままな娘ねぇ――腐子ぉ、アンタ、引きこもってばかりでしょぉ。ちょっとは外に出ないと、おままごともマンネリになるわよぉ」


「あー、あー、お説教なんて聞きたくありませーん。あんまりうるさいと『ブロック』にしちゃうんだから」


 サファちゃんが両手で耳を塞いでブンブン首を横に振る。


「やれるもんならやってみればぁ? でも、残念ねー。せっかく、おもしろいことを教えてあげようと思ったのにぃ。聞きたくないなら仕方ないわぁー」


「えっ。おもしろいこと!? なになにー!? 教えてー」


 サファちゃんが耳から手をどかし、目を輝かせた。


「ふふっ。いいわよぉ。アタシは本当は代償なしには動かないけど、同じ研究所のよしみで教えてあげるぅ。実はぁ、ちょうど明日から、ここらで結構大きめな夏祭りがあるのよねぇ。アンタ、ツイてるわねぇ」


 アイちゃんがもったいぶったように言う。


(アイちゃん、子どものあしらいは上手いけど、それ、俺が敢えて言わなかったやつなんだよなあ)


「えー、本当! お祭り!? おもしろそーう! サファも行きたい! ね、お兄ちゃん、サファをエスコートしてー」


 サファちゃんが両手を合わせて、『お願い』のポーズを取る。


「わかりました……」


 俺は頷く。


(研究所育ちの世間知らずなサイコを、お祭りに連れていくってマジ?)


 完全にC級ホラーの導入のような展開に軽くビビりつつも、俺はサファちゃんの望みを受け入れるしかないのであった。


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