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第162話 最近のゾンビはよく走る

 一度帰宅した俺は、山から下りてきたアイちゃんに声をかけて事情を話し、一緒にシエルちゃん家へと向かう。


「あー、やっぱり、絡んでくるのねぇ。昨日辺りに車で変なのが入ってきたのは感じてたけどぉ」


 アイちゃんが犬のように骨をガジガジしながら呟く。


 ちなみに、今日のアイちゃんは、鹿の頭骨を王冠のように被った蛮族スタイルとなっている。どうやら、彼女自身が山で狩ったらしい。


「そうなんだ。報告がきてないんだけど」


「向こうも隠してたみたいだしぃ。確証がなかったのよぉ」


 アイちゃんが肩をすくめる。


 まあ、何となく察していても、お兄様所有の車両を検閲はできないし、シエルちゃんの屋敷を探るのはお兄様への敵対行為なので控えざるを得ないからなあ。


「そういう事情なら仕方ないな。でも、アイはシエルのお客様が誰か見当がついているみたいだね」


「まあ、多分、クサ美でしょうねぇ」


 アイちゃんが骨から髄液を吸い出しながら言った。


「もしかして、そのクサって、腐?」


「そうよぉ。でも、腐でも臭でも結局同じでしょぉ?」


 アイちゃんはクスクス笑って言う。


「なるほどね。大体わかった」


 俺は苦笑する。


 アイちゃんがあだ名をつける程度のネームドってことは、ママンの研究所の関係者。それで、腐れ関係といえば、一人しか思いつかない。


 脳内に一人の人物を思い描きながら歩いていると、やがてシエルちゃん家に到着した。


「チュウ子ぉ。元気ぃ? クサ美、来てるでしょぉ?」


 アイちゃんは、門扉の前で俺たちを待っていたソフィアちゃんへ、挨拶代わりに骨を投げつけた。


「……職務中だ。私の口からは何も言えない」


 ソフィアちゃんは氷の指弾で軽く骨を弾き、門を開いた。


「すましちゃってぇ。チュウ子、あんた、クサ美が苦手でしょぉ? よく、死んだプラナリアを運ぶ時、冷凍庫代わりにパシられてたもんねぇ」


 アイちゃんがからかうように言う。


「ユウキ、お嬢様が中でお待ちだ」


 ソフィアちゃんはアイちゃんの挑発をスルーして、俺に語りかけてくる。


「相当難儀しているみたいだね。――急ごうか」


 俺は足早に屋敷の中へと足を踏み入れた。


 一応、今の俺はシエルちゃんの婚約者なので、割と気安くこの屋敷に訪れられる立場となっている。


「ユウキ。ようこそいらっしゃいましたわ。それでは、早速おもてなしの紅茶を――」


「いいよ。気を遣わなくて。ざっと概要だけ聞かせてくれるか。」


 俺は強張った表情のシエルちゃんに色々察して、そう告げる。


「それが、詳しいことは聞かされておりませんの。お兄様の深謀遠慮を察することができない愚かなワタクシには、お兄様が今度のお仕事に、ユウキをリーダーとする『お客様』との合同チームを派遣したがってる、ということくらいしか分かりませんでしたわ。もちろん、これも、お兄様の『ブレーメンの音楽隊に指揮者がいたら、素敵だと思わないかい?』というお言葉を勝手に解釈しただけなので、正確は分かりませんけれど」


 まーた、お兄様が童話に例えていらっしゃる。


 なんで黒幕はみんな例えてくるの? 誰の影響なの? エヴ〇? ガンダ〇?


「わかった。じゃあ、早速その『お客様』の所に行こうか。もしお客様が、俺が想像している通りの人物なら、さっさとこちらが引き取った方が、シエルも安心だろうし」


「――では、お客様の所にご案内しますわ」


 シエルちゃんは緊張した表情のまま、俺を客室へと導く。


「失礼致しますわ。ユウキ様をお連れしたのですけれど、お通ししてもよろしくて?」


 シエルちゃんが丁寧に三回ノックした後、ドアの奥へと声をかける。


「はーい。入って入って」


 中から聞こえてくるのは、小鳥のさえずりと鈴の音をミックスしたかのようなファンシーでかわいらしい萌え声。


 やがて、向こう側からドアが開かれる。


 俺を中へと導いてくれたのは、『お客様』の執事。


 ブカブカのサイズが合ってない執事服。


 青白い顔をして、眼球は完全なる白目。口元は赤い糸で縫い閉じられて、完璧な笑顔で固定されている。


(ワオ! ぼく、生ゾンビ初めて!)


「成瀬祐樹です。お邪魔します」


 俺は内心ちょっとビビりながらも、躊躇なく中へと一歩踏み出す。シエルちゃんの前でかっこ悪いところは見せられないからね。


 甘ったるいザクロのような香り。腐敗臭はしない。防腐処理は完璧だぜ。いや、正確には、隠し切れない死臭を芸術にまで昇華する術を心得てるというべきか。


「サファだよ? よろしくね? ――あはは、ダメだよ。チョコ。くすぐったいよ!」


 子犬と戯れる幼女。


 なんとも微笑ましい光景だ。


 ただし、その犬が、皮なし、毛なし、肉なしの、スカスカ骨格標本犬(ゾンビーヌ)であることを除けばな!


(あー、やっぱりこいつかよ。ロリ死霊術師(ネクロマンシー)ちゃん。こいつがいるってことは、もうお兄様からママンへの根回しは済んでるって訳ね)


 その光景に、俺は当たっても嬉しくない脳内クイズに正解したことを知る。


 コードネーム、サファイア。略してサファ。ヒドラの一人で、モース硬度は9。


 髪は青みがかった紫。髪型は、いわゆるイカリングというやつだろうか。円形に巻かれたリング状の形で、いかにもお姫様系である。プリキュ〇でいえば、キュ〇ドリームみたいな感じだ。


 容姿は、サクラ大戦のアイ〇スを闇墜ちさせたような外見、もしくは、シャドウバースのルナちゃんを邪悪にした感じの風貌とでも言おうか。とにかく、ロリコンおじさん大興奮のロリロリした美幼女である。


 服はもちろん、ゴスロリ一択。ひたすら黒くて、肌には冷食系のメイクをしており、紫のアイシャドウがばっちりついている。


 性格は、アイちゃんとタメを張れるくらいに中々ヤベー奴とだけ言っておこう。


(まあ、そりゃシエルちゃんもドン引きするよね。いきなり、ゾンビ執事と骨ワンコを従えた幼女がやってきたらさ)


「――シエル。悪いがお茶を頼めるかな」


「ええ。今、メイドに申しつけますわ」


「それも悪くないけど、今日の俺はシエルが淹れてくれた紅茶が飲みたい気分なんだ」


 俺はそう言いつつ、シエルちゃんにアイコンタクトを取る。


 シエルちゃんはメンタル強い子だけど、わざわざ嫌な思いをさせることもない。


「あら、わがままな婚約者様ですこと。――サファ様、申し訳ありませんが、席を外させて頂いてもよろしくて?」


「いいよー? ――チョコ! ほら、お回り! グルグルー」


 サファちゃんはどうでもよさげに答え、ゾンビーヌに芸をさせ始める。


「それでは、失礼致しますわ」


 シエルちゃんは丁寧に一礼してから、そそくさと部屋を出て行く。


 アイちゃんが、『ほら、当たりでしょぉ』と言いたげなニヤニヤ笑いを浮かべ、俺を見て来た。


(もうこの時点で絶対楽しいお仕事じゃないよね。わかってたけどさあ)


 俺はそう確信しながらも、死体大好き系幼女に友好的な笑みを浮かべて近づいていった。



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