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第160話 やっぱり無口っ娘は二次元に限る(2)

(――っても、無難な感じでいいよな。パーフェクトコミュニケーションは狙う必要はない)


 ダイヤちゃんへの対応方針は、基本的に虎鉄ちゃんと同じ。彼女たちは続編のヒロインなので、俺は積極策を取るつもりはない。


「生きている理由か……。深く考えたことはないけど、敢えて言葉にするなら、俺にとって大切な人たちに幸せになって欲しいから――かな」


 俺は一拍置いてから、無難オブ無難の優等生的な返答をする。


「……ブラックオニキス」


「ああ。楓もその大切な一人だよ。元気にしてるかな。無茶なトレーニングとかしてないといいんだけど」


「……ブラックオニキスは、あなたが救いに来ると言っていた。本当?」


 俺はそれとなく妹ちゃんの近況を探りたかったんだが、こいつ本当に会話のキャッチボールをする気ねえな。


 まあ、反応が返ってきてるだけマシか。


 どうやら、ダイヤちゃんと妹ちゃんは多少の絡みがあるらしい。


 同じ研究所にいるから当然と言えば当然なのだが、本編では直接的な絡みはほとんどないからなあ。


「ああ、本当だ。具体的な方法は、機密だから教えられないけど」


「……不可知存在()への干渉は、難易度Z(不可能)レベルの任務」


「知っている。簡単なことではないけど、俺は楓を救うよ」


「……理解不能」


「どうして? 妹を助けようとするのがそんなにおかしいかな」


 俺は首を傾げる。


「……あなたとブラックオニキスが共に過ごした時間は、親愛の情を育むにはあまりにも短かったはず」


「そうだね」


「……血縁者の場合、遺伝子を残すという本能から、無条件に愛情を抱くことがあるのは知っている。しかし、あなたとブラックオニキスは、遺伝子的には血縁というよりは他人に近い」


「詳しいね」


 俺は目を丸くする。


(ふーん、そこまで俺と楓の事情を知ってるのか。まあ、ダイヤちゃんはママンの切り札だしな)


 もしかしたら、ママンも俺と同じような神様をバトる状況を想定して、ダイヤちゃんを訓練しているのかもしれない。


「……以上の根拠から、あなたがブラックオニキスを『大切にする』理由は見当たらない。……なぜ?」


 ダイヤちゃんが俺の返答をスルーして質問を重ねてくる。


「俺は楓のおかげで今こうして生きているようなものだからね。楓に苦労させて自分だけ日の当たる場所で安穏としていられるほど、俺は図太く生きられない」


「……罪悪感?」


「そうかもしれない。でも、それだけじゃないんだ。もし、楓と俺の間に呪術が絡んでなかったとしても、俺は楓を助けたいと思った気がする。きっと、放っておけない。上手く、言えないけど」


 『上手く言えないけど』。なんて便利な誤魔化しワード。これさえ言っとけば、真面目に考えている雰囲気と、そこはかとない謙虚感を醸し出せて、大体何とかなる。


「……そう。ブラックオニキスも無条件にあなたを信頼していた。呪術的契約による心理汚染かと思っていたけど、あなたの発言を聞くに、どうもそうでもないらしい。……家族という概念は、理解しがたい」


(ほう? ほうほうほうほう? やけに楓の話題を出してくると思ったら、ダイヤちゃん、家族愛に飢えてるね? ママンはダイヤちゃんに対してビジネスライクが過ぎるからなあ)


 ようやくダイヤちゃんが攻略のとっかかりを見せてくれた。


 ママンとダイヤちゃんの関係は複雑である。


 ママンはダイヤちゃんを道具として製造したが、お腹は痛めていないとはいえ、幼い頃からダイヤちゃんを育ててるので、なんだかんだで情が湧いてる。


 でも、ママンにとってダイヤちゃんは最強の戦力だから、どうしても酷使しない訳にはいかない。だから、情が移り過ぎて、業務に支障が出ないように、ママンはわざと塩対応をして、ダイヤちゃんとの間に心の壁を作っているのだ。


 一方、ダイヤちゃんにとってママンは、上司であると同時に、唯一の『母親的な存在』だ。


 本当は母と慕いたい。でも、非情が要求される戦闘兵器のダイヤちゃんにはそれは許されないので、心の奥底に愛をしまい込まざるを得ない。


(ならば与えてやろうじゃないか。ダイヤちゃんの求めているものを)


「理解しようとしても無駄だよ。家族という概念には、明確な定義が存在しないんだから。実は、俺と母さんも、最近まで、家族とは言い難い関係性だった。でも、今は、前に比べれば、だいぶいい感じになってると思ってる」


「……発言の趣旨が不明瞭」


「家族は勝手に『なっている』ものでもあり、お互いの努力次第で『なれる』ものでもあるってこと。俺は、ダイヤさんは後者だと思っている」


「……婚約者は家族候補であって、家族そのものではない」


「婚約者の件を言っているんじゃない」


「……じゃあなに?」


「――ふと思ったんだよ。ダイヤさんはある意味では、俺の姉ともいえる存在なんじゃないかってね」


「……」


 ダイヤちゃんは、そこで初めて俺に視線を寄越した。


「さっき、ダイヤさんが言った通り、俺と楓の間には遺伝子的なつながりは薄い。そんな楓が妹なら、ダイヤさんが姉でもいいんじゃないかな。俺もダイヤさんも、広義の意味では母によって作られた存在だ。そして、ダイヤさんにつぎ込まれ、洗練された技術は、俺や楓の手術にも応用されている。さらに、ぬばたまの姫の呪いも、共有している訳だしね」


 俺は一気に畳みかけた。


 ちょっとでも隙があればこじあける! それが主人公。


「……論理的な矛盾はない。……妥当かはともかく」


 ダイヤちゃんは、ハシビロコウ並の微妙な動きで頷いた。


「なら、決まりだね。俺は今この瞬間から、ダイヤさんを、姉と思うことにするよ。ダイヤ姉って呼んでもいいかな?」


 これは中々いい提案ではなかろうか。


 ダイヤちゃんの家族愛への渇望を満たしつつ、しかも、姉と弟という関係性を定義づけることで、恋愛フラグを抑制する。これは、将来的な婚約破棄の伏線にもなるだろう。


『ダイヤさんのことは姉としか思えない。姉と弟が結婚するのはおかしいよね?』という訳さ。


「……それでは、コードネームの意味がない。……特定の人物と親密であることが明らかな親族名称をつけるなど」


「それもそうだね。なら、ダイヤさんの本当の名前を教えてくれると嬉しいな」


「……該当する名称は存在しない。私はダイヤ。被験番号N14505。それ以上でもそれ以下でもない」


 ダイヤちゃんはクールに言った。


 その雰囲気はどことなく寂しそう――な気がする。少なくとも、彼女が本編のダイヤちゃんと同じ精神構造をしているならそう思ってるはずだ。


(だよねー。知ってた)


 これは次の提案のために誘い水だ。ダイヤちゃんは想定通りの返答をしてくれた。


「そうなんだ。――じゃあ、プレゼントと言ってはなんだけど、俺から姉さんに名前を送らせてよ。――ミズキ、なんてどうかな?」


「……なぜミズキ?」


「ウチでは子どもに樹木に関係する名前をつけることになっているらしくてね。妹が楓で秋の樹だから、姉のダイヤさんはひとつ前の季節の、夏の樹がいいと思ったんだ」


 サクラとかも候補としては考えたんだけど、なんかパッと咲いてパッと散りそうな感じでアレだし、ミズキの方がダイヤちゃんのキャラに合ってるので。


 あっ、ちなみに主人公の名前は祐樹だが、『祐』は『神の助け』という意味で、文字通り神の助けがないと生きられなかった俺氏にふさわしい名前となっている。もし病弱じゃなければ、なんか季節に絡んだ樹木の名前になっていただろう。例えば夏樹とか、冬樹とか? お前弟決定!


「……迎えが来た」


 ダイヤちゃんは、YESともNOとも言わず、空を仰いで呟く。


 俺にはまだ姿形も見えず、音も聞こえないが、ダイヤちゃんが言うならばそうなのだろう。


「そう。じゃあ、またね。ミズキ姉さん」


「……」


 ダイヤちゃんは、無言のまま空へと跳び上がった。


 ロッ〇マンの多段ジャンプみたいに、空へと駆けあがっていく。


 それに対応するように、ようやく俺の耳にもヘリの羽音が届いた。


 やがて、やってきたヘリに、ダイヤちゃんが乗り込んでいく。


 その瞬間、ダイヤちゃんがチラっとこちらを一瞥した――ような気がした。


 いや、違うかも。ただ単に忘れ物がないか確認するために振り返っただけかも。


 そう疑いたくなるほどそっけない動作だった。


(表情と動きがなさすぎて、好感度が上がったかよくわからん。多分、好感度+だろ? +だよな? あああ、確信持てねえー! 少なくとも-はないだろ。多分)


 俺はそんな不安に襲われながらも、笑顔でダイヤちゃんのヘリに向けて手を振り続けた。


皆様、いつも拙作をお読みくださり、まことにありがとうございます。

たくさん感想頂いているのに中々返信できなくて申し訳ありません。

全てありがたく拝読させて頂いております。

さらに申し訳ないついでに、ついにリリースされたウ〇娘ちゃんが作者を呼んでいるため、しばらく更新が遅れます(現状では週一くらいを想定しています)。

読者の皆様におかれましては、とりあえず、今回の話が割とキリがいいので、次話からはしばらく放置しておいて忘れた頃に覗きにくるくらいの感じがストレスがなくて良いかと思います。

以上、お詫びとご報告でした。

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