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第159話 やっぱり無口っ娘は二次元に限る(1)

 空き地に、ダイヤちゃんが微動だにせず佇んでいる。


 その表情には何の色も浮かんでおらず、彼女の心の内を察するのは難しい。


(さて、なんと話しかけたもんか)


 俺は戸惑う。


 もちろん、ヨドうみのミケくんのセリフならいくらでも引用することはできるが、この場にはふさわしくないだろう。そもそも、彼の口説きセリフは、ミケくん自身が凄腕エージェントであり、ヒドラたちの心の痛みが分かるというバックグラウンドがあってこそ効いてくるものがほとんどだ。パンピーの俺が使うと、違和感バリバリになるか、薄っぺらくなるかのどちらかだ。


 つまり、俺は俺自身で無限の選択肢の中から正解を選び取らなくてはいけない。


「やあ」


 俺ははにかみながら、右手を中途半端に挙げて近づいていく。


「……」


 ダイヤちゃんは無言。


 視線すらこちらに寄越さない。


「ヘリが来るまでも短い時間だけど、俺と話でもしないか。ほら、一応、俺たちは婚約者同士になった訳だしさ」


「……婚約者になれという命令は受けた。しかし、歓談せよという命令は受けていない」


「でも、禁止されている訳でもないでしょ?」


「……」


 ダイヤちゃんはYESともNOとも言わずに、ただ空を見つめている。


 二次元の無口っ娘は大好物だけど、三次元の無口っ娘はコミュニケーションがとれなさすぎて辛い。


 接客業で一番きついのは、無反応のお客さんだっていう説を聞いたことがあるけど、まさにそんな感じ。


「OK。ダイヤさんは聞き上手なタイプなんだね。でも、あいにく俺も喋り上手な方ではなくてね。ダイヤさんをおもしろがらせるような一人漫談はできそうにない。だから、コントか漫才にするために力を貸してくれればありがたいんだけど」


「……」


 またシカトかーい。


 シエルちゃんに言われて来てみたけど、やっぱこれ、俺じゃダメなんじゃね?


 余計なちょっかいかけずに、ミケくんに任せておいた方がいい気がしてきた。


「ダメか。――じゃあ、露骨に物でご機嫌取っちゃおうかな。ダイヤさん、何か欲しい物とかある?」


 俺はおどけて言う。


「……ない。任務に必要な物資は支給されている」


「必要じゃなくても、ダイヤさんが個人的に欲しい物があれば言ってよ。俺に手に入る物なら、プレゼントするから」


「……」


 また無言。


 ちっ。いい加減いらいらしてきた。うんとかすんとか言ってくれ。ヒントくれないと、ラフメイカーできないじゃん。三次元ワールドにはギャルゲー世界のように地の文はないんだからさ。


 あー、もう、めんどくせ。いっそ、その辺に落ちてる石ころでもプレゼントして帰ろうかな。


 実際、本編のダイヤちゃんはミケくんからただの石ころを貰って喜んでたしな。


 もちろん、それは、一緒に任務をこなした後、美しい海辺で小洒落た哲学的会話を交わしてからの話だけどね。


「まあ、物はいらないよね。スキュラから相応の活動費も出てるだろうし。うーん、そうだな。……。――ダイヤさんが、何も話したくないなら、俺に何か質問してよ。答えられる限りで答えるよ」


 俺はダイヤちゃんに丸投げした。


 これでシカトされたらもうお家に帰ってふて寝するわ。


「……。……。……。何で生きてるの?」


 ダイヤちゃんは、永遠にも思える沈黙の後、ぽつりと呟く。


(おっ、きたか)


 事情を知らないと俺がめちゃくちゃ嫌われてる感じの辛辣なセリフに思えるが、ダイヤちゃんには悪意はない。


 ダイヤちゃんは試験官ベイビーで色々大変なので、常に存在意義(レゾンレートル)に悩んじゃってる系女子なのだ。いわゆる、本来の意味での中二病なところがある。さらにコミュ障なので、他のヒドラにもいきなりこの手の質問をぶっ込んで、どん引かれたり、ヘイトを買ったりしている。


(さて、どう答えるか)


 俺は腕を組み、ダイヤちゃんの突拍子もない質問へのアンサーを考え始めた。


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