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第153話 不幸中の幸い(2)

 やがて、階段を下りてきたぷひ子ママを交え、今回の騒動についての説明をする。


 とはいえ、馬鹿正直に『ヤベー能力者共が俺のチンチンを巡って暴走しました』と言う訳にも行かないので、映画撮影中の事故という設定にしておいた。『興が乗った役者たちが、アドリブで暴走した』というシナリオだ。


「ふふふ、なるほど。随分派手に遊んだみたいねえ。仕事をしていたから気付かなかったわ」


 ぷひ子ママはちょっと困り顔で言った。


 彼女は家事をこなしつつ、テープ起こしの仕事もしている。


 さっきヘッドホンをしていたのはそれだろう。


「すみません。おばさん――俺がついていながら」


「ゆーくんのせいじゃないでしょう?」


「でも、俺は責任者ですし、原因の一端であることは確かですから。もちろん、被害は全て弁償します」


 俺は潔く全部の責任を被ることにする。


 主人公だからね。しょうがない。


「ワタクシにもいくらか負担させてくださいまし。――もちろん、大部分を負担すべきは、あなた方三人娘だと思いますけれど」


 シエルちゃんが暴走異能ガールズを一睨みして言う。


「アタシはマスターのワンちゃんだしぃ? 犬の糞を拾うのは飼い主の役目でしょぉ?」


 素知らぬ顔で口笛を吹くアイちゃん。


 まあ、アイちゃんはなんだかんだで俺の貞操を守ってくれたからね。今回は不問に付そう。


「小生もお金――はないっすけど! 償いはするっす! 身体で払うっす!」


 虎鉄ちゃんが深々と頭を下げる。


「……損害賠償などの法的な問題は担当部署に問い合わせないてみないと分からない」


 ダイヤちゃんはクールにお役所対応。まあ、ダイヤちゃんはまだ心が半分死んでるような状況だし、仕方ないね。


「お金のことはいいわ。誰にも怪我がなかったみたいだし、それだけで十分よ」


 ぷひ子ママが鷹揚に言う。


 ぷひ子ママのおっぱいと同じくらい器がでかくて助かったぜ。


「そうはおっしゃいますけれど、ミシオは大丈夫ですの? 今すぐ病院に連れて行った方がよろしいのではなくて?」


「もちろん、状況を見てお医者様に見せることも考えるけれど――実は、昔は、よくこういうことがあったのよ。祐樹くんやみかちゃんと仲良くなってからは治まっていたいたと思ったのだけれど、ぶり返しちゃったのかしら」


 ぷひ子ママは憂いを帯びた表情で首を傾げる。


 俺たちと出会うまで、ぷひ子には同年代の友達がいなかった。


 ぷひ子は一人っ子であり、鈍くさい性格のため、やんちゃな田舎の子どもたちに馴染めなかったのだ。


 ぷひ子は孤独を紛らわせるため、夢に出てくる優しい(ぬばたまの)お友達()をイマジナリーフレンド(イマジナリーとは言ってない)にして遊ぶ、ヤバイプレイに手を染めており、『あちら側』に引き込まれそうになっていた。


 しかし、途中で俺とみかちゃんがぷひ子の幼馴染となり、心の空白を埋めたために、精神が安定し、ぬばたまの姫による浸食が一時的に止まって救われたのである。


 その安定が今、モテモテ俺氏を巡る修羅場によりぶち壊されつつあるという訳だ。


「本当にすみません。俺が、もっと美汐の側にいてやれば……」


 俺は唇を噛んだ。


 半分くらいは本心だけど、もう半分くらいは俺の可処分時間にも限りはあるんだから勘弁してくれとも思う。大切なメインヒロインとはいえ、ぷひ子だけには構ってられないんだよ。


「ゆーくん、本当にいいのよ。人と人との関係は、変わらずにはいられないものよ。それは悪いことではなく、雲が形を変えるように自然なことなの。特に、ゆーくんくらいの年の子は、どんどん接する人が増えていく時期だもの。遅かれ早かれ、きっとこういう時はやってきたと思うわ。大切な人に大切な人と思い続けてもらいたいなら、相応の努力がいる。美汐もそのことに気が付かなくちゃダメよね」


 ぷひ子ママンが大人の貫禄を見せつける発言と共に、俺の肩を励ますように叩いてきた。


「……大切な人が、多すぎるんです。全てを守りたいと思うのは、俺のわがままなのでしょうか」


 とりあえず、なんか流れが来てるので、そうボヤいてみた。主人公がボヤけるのは、基本的に年上キャラに対してだけなので、これは貴重なチャンスだ。


 本編だと、たまちゃんとロリババアも悩んでる主人公の相談に乗って、ふとした示唆を与えてくれるポジなのだが、この世界線では、甘えられない。だって、今のたまちゃんは部下のようなものだし、ロリババアはもう成仏させてしまったしで、俺がバブみを感じてオギャれるのはこのぷひ子ママだけなのだ。


 あっ、もちろん、親友の香氏にも相談はできるけど、さすがに彼はまだ幼すぎるからね。


(俺氏はこんだけ悩んでるんですよ! 異能娘の皆さん! 俺は所詮、普通の男子高校生キャラだから、本来君たちの相手をするのは荷が重いんじゃ!)


 俺は背中を丸めて全力で苦悩をアピールする。ぷひ子ママに同情して欲しい訳ではなく、騒動を起こした奴らに見てもらいたい。これでちょっとはヒドラの皆さんが反省してくれたらいいんだけど、多分、しないだろうなあ。けっ。


「わがままじゃないわ! ゆーくんは太陽のように温かいから、心が寒い人が集まってくるのね。でも、太陽にだって、黒点はあるし、いつかは爆発してしまうのよ」


 ぷひ子ママが俺を強く抱きしめた。豊かな二つの双丘が、俺の顔に押し付けられる。あったけぇ。あったけぇよ。


(もうぷひ子ママルートでいいんじゃないかな。前世の俺氏の年齢とも一番釣り合いがとれてるしさ)


 などと、攻略されかかりつつも、


「俺、もうちょっと頑張ってみます。美汐が目覚めたらすぐに知らせてください」


と告げて、名残惜しいおっぱいとお別れする俺であった。


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