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第143話 藪を突いて蛇を出す(3)

「――まあ、冗談はさておき、ユウキも分かってるはずですわ。所詮、十年後の婚約なんて、あってないようなものです。お兄様はとりあえず、身辺を落ち着かせておいて、状況を完全に掌握した後、改めてワタクシにふさわしい結婚相手を考えるおつもりでしょう。それまでにユウキがワタクシにふさわしい男になっていれば良し。そうでなければ、別の相手を見繕うだけのこと」


 シエルちゃんが冷めた口調で言った。


 これは確かに彼女の言う通りだ。


 10年以上も先の婚約なんて、何の保証もない不安定な代物だ。創作物のセオリー的には成就しない可能性が高いし、ネット小説なら、婚約破棄でざまあでもう遅いフラグがびんびんですよ悪魔。


「……よく恥ずかしげもなく、エベレスト並の自己評価を述べられるな」


 俺はちょっと呆れて言った。


 ここら辺、謙遜の文化の日本と、外国との隔たりを感じるね。


 でも、ギャルゲー好きとしては、お嬢様らしい発言でとてもグッドだと思います。


「あら。事実ですから仕方ありませんわ。ワタクシはワタクシであることに誇りを持ってますもの。……というか、ユウキは周りに美人が多すぎて、目が肥えすぎてませんこと? 普通なら、ワタクシは一生に一度お目にかかれるかどうかというレベルの美少女ですのよ? もっと崇めたらどうですの。あなた、何様のつもりですの。パリコレモデルですの? それともハリウッドスターですの?」


 シエルちゃんがちょっと拗ねた様子で唇を尖らせて、まくし立てくる。


「うーん、一発屋の子役?」


 俺は首を傾げて呟く。


「ふふっ。――まあ、結論としては、ひとまず、ユウキはそう重く考えずにワタクシと婚約しなさい。お兄様の懐に甘えて、盗めるものを盗めばいいのです」


 シエルちゃんはプッっと吹き出してから、そう話をまとめる。


 お兄様はそんなに甘い人じゃないと思うけどなー。


 俺に与えてくれる物以上とはいわないが、相応の貢献を求めてくると思うけど、お兄様大好きなシエルには敢えて言うまい。


「この件、俺の母には話が通ってるのか?」


「いいえ。まず、ユウキの意思を確認してからでないと二度手間になりますもの」


「そうか。じゃあ、とりあえず、俺の方から母さんにも相談してみるよ。あと、仲間にも意見を聞きたいし。こういうのは、俺だけの問題じゃないからな」


 俺はひとまず返答を保留した。


 言い訳ではなく、実際、ママンや部下娘ちゃんたちとも話をして、見解を共有した上で議論を煮詰めたい。ゲーム知識のチートがあろうが、俺は俺自身の判断能力を万能だとは思っていない。


 ホウレンソウは大切です。


 よく創作物で突っ込まれがちな、『事前に相談しとけば余裕で防げたはずの悲劇』を回避するためにもね。


「もっともな言い分ですわね。まあ、なるべく早いお返事を期待してますわ」


 シエルちゃんが淑女っぽい余裕のある笑みを浮かべて頷く。


「善処する。――はあ、ったく。悩みを解決するために相談に来たのに、もう一個悩みが増えちまったじゃねえか」


 俺は鼻をポリポリ掻いて苦笑した。


「あら。女性に振り回されるのは男性の誉れではなくて? 『わがままは女の罪、それを赦さないのは男の罪』でしょう」


「逆だろ。いや、俺もあんま自信ないけど、それってかなり古い歌だよな。昭和の」


 俺もフレーズだけ何となく知ってて、原曲は聞いたことがないかも。前世基準の年齢でも、俺の生まれる前の曲じゃないのか。


「ええ。ワタクシ今、日本の文化学習の一環で邦楽ついて勉強しているのですけれど、どうも最近のヒットチャートは性に合わなくて……。色々な時代の曲を聞いてみましたけれど、邦楽の全盛期は1980年代前後ですわね。やはり、経済的な興隆とエンタメの成熟には密接な相関関係があります」


 まためちゃくちゃレスバが起こりそうな意見を……。


 しーらないっと。俺はギャルゲーの関係の歌にしか興味ないもんね。


 俺なら、もし、『エロゲー・ギャルゲーの全盛期はいつか』なんて荒れそうな議論があっても絶対に加わらない。みんな違ってみんないい!


「そんなこと言ってるけど、シエル、この前のカラオケで、今流行りの小百合さんの曲をノリノリで歌ってたじゃん」


 俺はこの前の旅行のバスの中の光景を思い出して言う。


「さ、小百合さんの曲は構いませんのよ! 彼女の最近のアルバムは1980年代の邦楽の懐かしい雰囲気を残しつつ、貪欲に最新の流行も取り入れた、素晴らしい曲ばかりですもの」


 シエルちゃんが取り繕うようにもにょもにょと呟く。お高くとまっていると思いきや、意外にミーハーな所もあるのがシエルちゃんの萌えポイントだ。


 本編だと、ゲーセンに行って、主人公と一緒に撮ったプリクラを、画質にあれこれ文句を言いながらも、後生大事に金庫の奥にしまっておくような乙女っぷりも見せつけてくる。


 そんな感じで、あまり固くなり過ぎないように世間話で会話を締める俺だった。


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