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第138話 大胆な告白は女の子の特権(2)

「――そんなのおかしいよ!」


 ぷひ子が唐突に叫ぶ。


「なにがっすか?」


「だって、虎鉄ちゃん、ゆーくんのこと好きじゃないでしょ。さっきから、お仕事とか、自分のお家のこととか、ゆーくんとは関係ないことばっかり言ってるもん!」


 ぷひ子が珍しくぷひらず完璧な滑舌で詰問する。


 あっ。ニヤニヤしてたアイちゃんがちょっと真顔になった。


 やばいやばい。ぷひ子嫉妬ゲージが急上昇してるくさい。


「そんなことないっす。小生は、マスターのこと好きっすよ。少なくとも、今まで出会った男の子の中では一番好きっす!」


 そう言って、虎鉄ちゃんは俺に満面の笑顔を向けてくる。


(ああ、もう。虎鉄この野郎。それっぽいこと言うなよ! お前の『男の子』のサンプル、ミケくんか俺かの二択だろうが!)


 虎血組の組員はムサいおっさんばかり。虎鉄ちゃんは一応、小学校にも行ってたっぽいが、すぐやめたらしいし、まともに会話した同年代の男子はごく限られているに違いない。


(まあ、客観的なソースによって、虎鉄ちゃんが俺に恋してないのは確定だ。もし、虎鉄ちゃんが俺に本当に恋してたら、髪の色が黄色になって、サイ〇人かサ〇ダースみたいな感じになってるからな)


 続編の『ヨドうみ』は、異能バトルバリバリの世界観であるので、各ヒロインの攻略パートにそれぞれ戦闘シーンがある。


 俺はアイちゃんを第三作目のチート知識でパワーアップしたが、第二作目の『ヨドうみ』においてはまだその方法は発見されてない。そもそも、ぬばたまの姫の遺跡を暴くのは、即破滅一直線で無理無理カタツムリなので、どのみち知っていたとしても不可能な話だ。


 さて、即席ブートキャンプなしでパワーアップする場合、個々人で内在的な魂の進化をする必要がある。神様ごとに求める心の成長の条件は違うが、ぬばたまの姫のそれは、ずばり『真実の恋』を知ること。


 すなわち、ヒドラ――続編の多くのヒロインたちの覚醒条件がそれである。メタ的なことを言えば、ミケくんと恋に落ちることで、彼女たちは新たな力を手に入れる予定となっているのだ。ご都合主義っぽいが、そこは設定厨のライターのこと。ぬばたま姫自身の神話にも壮大な恋物語が秘められており、それが、彼女が人類を憎むと同時に、深く愛する原因となっていることは言うまでもない。


 くもソラのプレイヤーは、トゥルーエンドを攻略する過程でぬばたまの姫の事情を嫌というほど脳髄に叩き込まれるので、違和感なく『ヨドうみ』の設定に入っていけるのだ。


 まあ、つまり、何を言いたいかといえば、虎鉄ちゃんが覚醒していない時点で俺に恋していないことは証明完了(QED)である。


「違うの! それは好きじゃないよ。好きっていうのはもっとふわふわで、むにゅむにゅで、大きいやつだよ! 虎鉄ちゃんとゆーくんはそういうんじゃないもん!」


「ミシオ、そこまでになさいな。決めるのは、あなたではなく、ユウキですわ」


 シエルちゃんが絶妙なタイミングでぷひ子の言葉を遮り、俺に視線を送ってきた。


 その場の全員の双眸が、答えを催促するかのように俺を射抜く。


(答えなんて決まってる。もちろん断る。断るに決まってるが……、ここで今すぐにって訳にはいかないんだよなあ)


 ギャルゲーの主人公として、相手が土下座までしての真剣な告白を受けたからには、こちらも相応の誠意を見せなければならない。そうしないと、『女の子の真剣な告白を雑に扱うクソ野郎』とみなされ、他のヒロインの好感度が下がりかねない。


 具体的には、一日か二日くらいは間を置いて、『じっくり悩む』ターンは必要であろう。


「――すまん。正直、びっくりしている。ちょっと、考える時間をくれるか。そう長くは待たせない。四日――いや、三日でいい」


 俺はしばらく呻吟した後、絞り出すような声で言う。


「了解っす! 良い返事を期待してるっす!」


 虎鉄ちゃんが朗らかに答えた。


「えっと、それじゃあ、今日はこの辺にしておきましょうか」


 みかちゃんが空気を読んで、夜会をお開きにする。


 皆が無言のまま、それぞれの部屋に引き上げて行った。


(めんどくせえ。いっそのこと、クロウサワープで過去に戻って、告白イベント自体を消しちまうか?)


 ふと、そんな考えが頭をよぎる。


 テレビを消すかチャンネルを変えて罰ゲームフラグが立たないようにする。ババ抜きで俺がわざと負けてお茶を濁す。いくらでも手段はある。


(いや。それだとただのその場しのぎか。俺に恋人がいないと知った時点で、虎鉄ちゃんは遅かれ早かれ、どのみち告白してくるつもりだっただろう)


 じゃあ、俺にイロ(恋人)がいる設定にする? そんなの無理だ。虎鉄ちゃん以外のヒロインのめんどくさいフラグが片っ端から立ちまくる。


(わざと仕事で失敗して、虎鉄ちゃんのお眼鏡にかなわないようにする? いや、それもダメだな)

虎鉄ちゃん経由で東雲組長に俺の悪評が伝わると、ビジネスの方に支障が出る。


(と、なると、そもそも虎鉄ちゃんを俺の所に呼ばないってことにしないといけないけど、一ヶ月くらい遡ると、さすがに金銭的にきついなあ)


 今年の純利益が吹っ飛んでしまう。


 出し惜しみはしないが、外伝菓子屋チートを使うほどの重要案件にはどうしても思えない。


(やっぱ、これくらい自力で切り抜けるしかないよな。人生は長いんだ。この先、この程度のトラブルはいくらでも発生すると考えていた方が良い)


 思春期になれば、ヒロインたちの心はさらに複雑化する。それに伴って、面倒事も増えることは想像に(かた)くない。その度、一々、過去に戻っていては、いくら稼いでも金が足りなくなるだろう。こんなところでリセット癖をつけている場合ではない。


 そう腹をくくった俺は、穏便に虎鉄ちゃんの告白を断る方法を考え始めるのだった。


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