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第134話 青春の恥はかき捨て(1)

 なんやかんやで楽しく目的地へと到着した俺たちは、大人たちの後にくっついて、紫陽花を見て回った。


 せっかくの観光ではあるが、小学生に紫陽花の滋味を理解しろというのも酷な話だ。


 シエルちゃんと祈ちゃんあたりは割と興味深そうに見てたが、他はぶっちゃけダレていた。


(観光パートはどうでもいい。旅行イベントの本番は夜だ)


 温泉に浸かり、香と裸の付き合いをして親睦を深めた後は、大広間で夕飯。可もなく不可もない味の和風御前を食べ終わり、大人共がどんちゃん騒ぎを始める中、俺たちはこっそり各自の部屋に引き上げ、いつものメンバーで再集合した。


 集まったのは、もちろん、俺の部屋。


 俺は家族同伴ではないので、他の部屋と違って、大人に気兼ねする必要がないからだ。


「いくっすー! 通ってくれっすー!」


 虎鉄ちゃんが祈るようにトランプでキングのペアを出した。


「阻止する」


 ソフィアちゃんがエースを二枚出す。


「えーっ。その手札の枚数で今そんな強いのを出したら、あがれなくないっすか!?」


「お嬢様が勝てればそれでいい」


 ソフィアちゃんは平然と答えた。


 ソフィアちゃんとシエルちゃんは、主従コンビで結託してくるので強い。


「なんっすか! それ! 勝負事は本気で勝ちにいかなきゃおもしろくないっすよー」


 虎鉄ちゃんが不満げに唇をとがらせる。


 虎鉄ちゃんは八百長をしないタイプのいいヤクザなので、ソフィアちゃんとシエルちゃんの談合が気に食わないらしい。


「ふっ。お嬢様の勝利が私の勝利だ」


 ソフィアちゃんが不敵に笑って言った。


 今はみんなで大富豪の真っ最中。


 扇風機の前に陣取って、首振り動作に合わせて身体を揺らしているタブラちゃんを除く、全メンバーが参加している。


 日頃は良い子なら寝ている時間だが、今日は夜更かしが許される高揚感も手伝って、どことなく皆、ハイな雰囲気である。


 なお、人数が多すぎてトランプが一組では足りないので、二組をごちゃまぜにして使っている。


「ソフィア。よくやりました。その犠牲は無駄に致しませんわ」


 シエルちゃんがパパっと連番でカードを出してあがる。


「あら、次の神様はシエルちゃんね。ゆうくん、残念」


 みかちゃんが慰めるように言った。


 ちなみに、『神』は大富豪の一個上の役職である。普通は一番上が大富豪で、一番下が大貧民だが、人数が多いので、格差社会がエスカレートしているのだ。


「ちっ。都落ちか」


 俺はカードを伏せて、一応悔しがってみせる。


 当たり前だが、大富豪に本気で熱くなれるほど、俺は子どもではない。


 大富豪は運ゲーな側面も大きいが、各自の性格をメタ読みし、出されたカードを暗記して臨めば、かなりの確率で勝てる。俺はそこそこの勝率を維持しつつ、上手いこと流れを調節し、特定の人物が負け過ぎたり、勝ちすぎたりしないように気を配っていた。


「うふふ、盛者必衰の理ですわね」


「シエルさん、外国育ちなのに、よく日本の難しい言葉を知ってるよね」


 香が感心したように言う。


「イノリから教わりましたの」


「……祐樹くんなら、捲土重来できると思います」


「ありがとう。堅忍不抜の精神で頑張るよ」


 俺はこちらをチラっと見てきた祈ちゃんに笑顔で答える。


「はい、あがりぃ」


 そうこう話している内に、いつの間にかアイちゃんが上がっていた。


 アイちゃんは大勝ちを狙わず、隙を見てそつなく手札を消化していくタイプの戦い方で、常に上位の順位をキープしている。


「ピンクのお姉ちゃんつよーい」


「おチビちゃん、覚えておきなさぃ、男から搾取するにはぁ、生かさず殺さずが一番いいのよぉ」


 アイちゃんがにやりと笑い、渚ちゃんによくない英才教育をしようとしている。


「えっと、シエルさんの『神』に対応するのは、都落ちした祐樹の『奴隷』だから、この場合、搾取される男というのは僕ってことかな? まだ負けてないんだけど」


 香がエースを単体で出して言った。


「おい。ぷひ子。せっかく神だった俺が2を恵んでやったのに、出さないのか?」


 俺はぷひ子の耳元で囁く。


 お前に2をやったから負けたようなもんなんだぞ。今回は。


「えへへー。ゆーくんからもらったカードだから大切にとってあるのー」


「……おい。わかってると思うが、2ではあがるのは禁止だからな」


「ぷひゃひゃ! そうだった! どうしようー」


 ぷひ子がオタオタと慌てだす。


「諦めろ。この手札で禁止上がりを避けると、大貧民はまぬがれない」


「そっかー。でも、ゆーくんと一緒に貧乏になるなら、それもいいかな」


 くっそ。こいつ殴りてえ。


「――えっと、2で、これであがりです」


「ああ、祈さんが持ってたか」


 香が額に手を当てて、天を仰いだ。


「祈ちゃんのおかげで、なんとか平民になれたわ」


「小生もあがりっす!」


「私もー」


「ギリギリ平民ですか」


 連鎖的にみかちゃん、虎鉄ちゃん、渚ちゃん、ソフィアちゃんの四人が上がる。


「はあー。それじゃあ、僕が貧民だね」


「大貧民ー」


 一勝負が終わり、皆がカードを中央に集める。


「ふうー。喉が渇きましたわ。一旦、休憩にしませんこと?」


「では、お飲み物をお持ちします」


「あら。ソフィアは平民ではありませんの。こういうのは下々の者の仕事ではなくて?」


 シエルちゃんがチラっと俺を見た。


「はい。お嬢様」


 俺は空気を読んで、気取った仕草でペットボトルのお茶を紙コップに注いで、シエルちゃんへと差し出す。


「ふふっ、意外と(さま)になっているではありませんの。将来、もし職に困ったら、ワタクシが執事として雇ってあげてもよろしくてよ」


 シエルちゃんが冗談めかして言う。


「遠慮しとくぜ。俺は自由を愛する男だからな」


 俺はそううそぶく。


 ちなみに、シエルちゃんルートにおいて、執事な主人公は実在する。その中で主人公は、強制結婚式の真っ最中に乱入。花嫁シエルちゃんをかっさらったりする、スーパーイキリヒーロームーブをかましておられるが、そんな未来は御免こうむりたい。俺はお兄様と対立するつもりはサラサラないからね。


 こうして、しばし補水タイムと相成った。


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