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第13話 主人公の親はちょくちょくクレイジー

「はい。海神学園事務局です。ご用件承ります」


 数コールの後に、そう応答があった。


「理事長をお願いします」


「失礼ですが、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか」


「成瀬祐樹と申します。理事長にお願いしたい案件がございますのでお取次ぎ願いますでしょうか」


「申し訳ありませんが、理事長へのアポイントは広報を通して――」


「俺は理事長の――櫛枝京子(くしえだきょうこ)の息子です。母に、『まだあのオルゴールは持っている』とお伝えください」


「……。少々お待ちください」


 受話器から、クラッシックの待機音が流れ出す。


 待っている間に解説しよう!


 俺のママンこと、櫛枝京子は、くもソラの続編にあたる『淀みなき蒼海の中で』の舞台となる海神学園のワンマン理事長である。海神学園は、外界と隔絶された絶海の孤島に存在し、表向き普通の全寮制中高一貫校を装っているが、その実は、世界に暗躍する優秀なエージェントを養成する秘密機関だ。その通称を『スキュラ』と言う。まあ、よくあるアレっすね。


 俺のママンは続編においては、ルートによって、敵になったり、味方になったりするが、基本的にはぬばたまの姫の呪いを兵器転用しようとするヤベー奴だと認識してもらって差し支えない。


 まあ、主人公の親の倫理観って大体ぶっ壊れてるからね。ギャルゲーにはよくあること。


「大変お待たせ致しました。理事長におつなぎいたします」


 再び事務の人の声。


「ありがとうございます」


 一瞬電話が切れ、また繋がる。


「――何の用ですか」


 氷柱のような硬く冷たい声が、俺を刺す。


 でも大丈夫。ママンはツンデレだって、俺知ってるからね。


 呪いの兵器転用も、実は元は生まれつき病弱で死にかけてた俺を救うための研究が発端だから。


 あ、そういうフラグがあるので、主人公は頑張って修行すれば短期間でむっちゃ強くなれる素質があったりする訳。呪いって便利―。


「久しぶりだね。母さん。元気?」


 親父は親父だけど、ママンはおふくろ呼びじゃないんだよね。まあ、ちょっと疎遠になって距離がある設定ですからね。


「前置きはいりません。要件を述べなさい」


「助けたい女の子がいるんだ。そのためにお金がいる」


 あっ、ちなみにこれ、みかちゃんのことなので嘘じゃないです。


「――事情は分かりませんが、私があなたの遺伝学上の母親であることは事実です。ですが、すでにあなたの父親経由で一般的に必要とされる額は与えたはずです」


 おっ、つまり、少なくともさっきの2000万のうちの半分は、ママンの金ってことすか?


 ですよね。発掘ばっかしてる親父がそんな金もってる訳なさそうだし。


「それはなんとなく知ってたよ。でも、母さんはもっと自由にできるお金を持ってるはずだ。それを『貸して』欲しい」


 ちょうだいじゃ、だめなんだ。ママンは他人に依存するような軟弱人間は大嫌いだからね。


「……『貸して』ときましたか。わかっていますか? 私はあなたが息子でも、子どもでも、容赦はしません。貸した額は必ず取り立てます。それがこの世界のルールです」


「それでいいよ。ありがとう。母さん。で、いくら貸してくれる? あ、あと、自由に商取引できる闇口座もセットでお願い。もちろん、マージンは払うよ。母さんの学園はそういうサービスもやってるよね?」


「――あの男から聞いたのですか? まあ、いいでしょう。全てのオプション料金は、一円たりともまけません。利息もきっちり取ります。本来なら、信用のない人間に金を貸すなどありえませんが、私が親としての金銭面以外の責任を放棄した償いに、特別に貸して差し上げます。ですが、これが最後です。今後、私はあなたに相応の代償なしには、一切の便宜を図ることはありません。それだけは承知しておいてください」


「全部、わかってる。わかった上で言わせて。ありがとう母さん」


 多分、ママンは俺が本当に稼げるとは思っていないだろう。借金漬けにしたら、合法的に俺の身柄を確保して手元におけるからという理由で金を出したに違いない。


「……今夜中に、エージェントを使って必要な物は届けさせます」


「わかった。一応、言っておくけど、楓を使うのはやめてね。ビジネスに公私混同はなしっていうのが、母さんのポリシーでしょ」


 一応、釘を刺しておく。これやっとかないと、密かに息子を置いて家を出たことに罪悪感を抱いているママンが、関係改善を狙って、俺の動向を調査するために、種違いの妹を俺の所に送りこんできやがる可能性があるからね。こいつが多重人格系のヤンデレヒロインでとにかくタルい。ほんとくもソラは攻略対象ヒロインが多すぎだよ。


「――幸か不幸か、確かにあなたには私の血が流れているみたいですね」


 ママンは、呆れたような、感心したような、どちらとも判断しない口調でそう言い残して、通話を切った。


(さあて、ママンはいくら貸してくれるのでしょうか!)


 俺はわくわくしながら、密使がデリバリーされてくるのを待った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 母親って凄いんだな
[良い点] 設定がとても好みです。 [一言] 更新お待ちしております! 無理のない程度に、執筆頑張って下さい!
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