表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/225

第109話 創作物のハイキングにおける事故率は異常(1)

 とある日曜の早朝。


 俺はレンタカーのミニバンで、いわくつきの土地へと繰り出した。


 運転手は、いつぞやの小百合ちゃんをストーカーから守る時にお世話になった黒服エージェント氏だ。もちろん、土地の場所は香パパに事前に聞いてある。


「それでは、みんな、改めて、今日はよろしくね」


 俺は三人掛けの後部座席の真ん中でシートベルトを締める。


 格好としては、リュックに登山靴を履いたハイキングスタイルだ。


 そして、膝の上にはクロウサを載せている。


 もしなんかヤバイことが起きそうだったら、即行で逃げるためだ。


「はい。よろしくお願い致します。確認させて頂きますがー、私は穢れの気配を感じた時に祓いの儀式を行えばよろしいんですよねー?」


 右隣のたまちゃんがおっとりした口調で言った。


「うん。お願い」


「それでぇ? アタシはぁ? もし噂のモグラさんが出てきたら、叩いてもいいのかしらぁ?」


 俺の左隣に座ったアイちゃんが訪ねてくる。彼女はシートベルトなどする気はさらさらなさそうだ。


「それは時と場合によるよ。人ならざるモノなら退治もアリかもしれないけど、相手が人間ならそうもいかないし。ともかく、第一の目的は情報収集だから。場合によっては威力偵察になるかもしれないけど、基本的には穏便な方向で」


「なんだぁ。つまらないわねぇ」


 アイちゃんはそう言ったきり目を閉じて、俺の肩に頭を預けてきた。


 今回連れて行く戦闘員はアイちゃん一人きりである。


 兵士の数を増やそうとも思ったが、敢えて人数を限ったのは、たまちゃんが一度に癒せる人数に限界があるからだ。


 仮にチーム全員連れてって、片っ端から呪いにやられたら、対処が追いつかない可能性がある。


 つまりは、攻撃より防御中心の編成なのだ。


(あー、マジ怖い)


 正直、アイちゃんたちに全部任せて、俺だけ安全なところで待機――という策も頭をよぎったが、結局諦めた。やっぱり、自分で見るのと伝聞では得られる情報量が違うからな。


「出します」


 黒服マッチョメンが寡黙に告げる。


 ミニバンがスムーズに走り出す。


 今、俺の住んでるところも大概田舎だが、目的地はそのさらに上を行く僻地だ。


 舗装が甘いガタガタの道を揺られて行くと、昼前には山の麓についた。


 ミニバンから降りて、山を眺める。


 見た目は高くも低くもない、普通の田舎の山といった風情だ。


 山頂近くには廃墟と化した精神病院があるはずだが、今は青々とした初夏の樹木に覆われて姿は見えない。


「どう。たまちゃん。何か感じる?」


「いえ……。現時点では特にはー」


「クロウサは?」


「ぴょぴょ」


 クロウサは首を横に振った。


「そう。じゃあ、やっぱり実際に登ってみるしかなさそうだね」


 俺はミニバンから、大きめのリュックを持ち出して背負う。


 登山に必要な道具はもちろん、祭祀に使う道具の一部も入っているので、割と重めだ。


「そのようですー」


 たまちゃんも同じようにリュックを背負う。


「無駄足はごめんよぉー? もし何もいなかったら、熊狩りでもして遊ぼうかしらぁ」


 アイちゃんはいざという時に身軽に動けるように、荷物は最小限だ。


 ただし、手には獣道を切り開くための鉈を持っている。


「無益な殺生は穢れを生みますー。お控えくださいー」


「無益じゃないわよぉ? ちゃんと食べるしぃ、皮は着るものぉ」


 こうして俺たちは山登りを始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ