表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/225

第101話 幕間 3倍偉大のヘルメス(3)

「ようやく気が付いたのぉ? 今のアタシは髪の色が変わっていたから分からなかったかしらぁ」


「アドリアナ! 生きていたのね! よかった! ――カフッ」


 抱きしめようとしたヘルメスの鳩尾(みぞおち)に、アドリアナは容赦ない一撃を加えてきた。


「随分となれなれしいわねぇ。ヘルメスさん? アイか、サードニクスって呼んで欲しいわぁ」


「アドリアナ! どうして!? 昔はあんなにお姉ちゃん、お姉ちゃんって甘えてくれたのに。ウチは、あの日から、今日まで、一日もあなたのことを忘れた日はないわ!」


「だからぁ? アタシ、生きる理由を他人に預けてる奴って、嫌いなのよねぇ。アタシが側にいた時はアタシ。それで今はその雑魚たち」


 ヘルメスの訴えなど何も心に響かなかったかのように、アドリアナは子供たちを睨みつける。


「そ、そう。あ、アドリアナ。あなた、怒ってるのね。ウチがあなたを助けられなかったから」


「そうやって勝手に一人合点して、分かったようなことを言う奴も嫌ぃー」


「くっ。あなた、一体、どこでこんな力を」


 圧倒的な実力差に、ヘルメスはアドリアナの攻撃を一方的に受け続ける。


 何年か会わない内に、アドリアナは別人のようになっていた。


 一体どんなひどい目に遭わされたのか、そう考えると心が痛む。


「やめてぇ!」


「お姉ちゃんをいじめないで!」


 ヘルメスの後ろにいる子供たちが、震える声でそう言った。


「はぁー? 雑魚に口を開く権利があると思ってるのぉ? 生意気ぃ。アタシのマスターぁはとぉっても優しいから全員助けろって言ってたけどぉ、別に一人、二人摘まみ食いしちゃってもぉ、バレないわよねぇ」


「た、隊長、やめましょうよ。これじゃあ私たち悪人みたいですよ」


「そうですよ。隊長。私たちは彼女たちを救出にきたんですし、そもそも、実のお姉さんなんでしょう?」


「――あの、皆さん、色々と不安もあるでしょうが、ついてきてください。少なくとも、私たちのマスターはあなたちを、ここにいるよりはずっと幸せにしてくれます。私たちも同じような環境で育ちましたから、保証しますよ」


 アドリアナの部下らしき少女たちが、口々にそう言い募る。


 スペイン語は喋れないらしい。たどたどしい英語だ。だが、それでも意味は大体わかった。


 洗脳や調教を受けている気配はない。


 言葉に、人間らしい感情が宿っている。


「アドリアナ。――この子たちの言うことは、本当なの?」


「残念ながら本当ぉ。でも、アタシは別にこのまま抵抗してもらっても構わないのよぉ? 正当防衛なら、マスターぁも許してくれそうだしぃ。最悪、ボコボコにしたあんたを確保できればいいんだからぁ」


「……アドリアナ。ウチらのことは、後でゆっくり話し合いましょう! ――逃走ルートは確保してあるのね?」


「はい。急いでください。敵の増援とか、味方の増援も――とにかく、あまり現場は見られたくないので」


「みんな! ウチについてきて!」


 子どもたちを急かす。


 だが、栄養不足や運動不足で、足下のおぼつかない子も多い。


「ああ、もぅ。めんどくさいわねぇ。飛ぶわよぉ」


 アドリアナが指を鳴らすと、子どもたちの身体が浮き上がった。


 アドリアナはそのまま熱線で壁をぶち破り、外に出る。


 鬱蒼とした森の一角へ、アドリアナは迷わず突き進んだ。


「クロウサちゃんはいるかしらぁ?」


 アドリアナが不自然なほどの猫撫で声で言う。


「ぴょーい」


 瞬間、ガサゴソと茂みが揺れた。


 姿は見えず、声だけが聞こえる。でも、とてつもない力を秘めた存在がそこにいると、本能が感じ取る。


「よろしく頼むわぁ。お代は、足りてるわよねぇ。もしアレなら、ヘルメスをシバいてこの場で金を作らせるけどぉ」


「ぴょいぴょい」


 再び、不可視の声がする。それが『大丈夫だ』といったような意味だということは何となく雰囲気でわかった。


「じゃあ、跳ぶわよぉ。みんないるわねぇ? 点呼ぉ」


「1」


「2」


「3」


「4――逃げ遅れ等、なし」


「OKぇ。それじゃあ、ジャンプぅ」


 瞬間、ヘルメスの視界は暗転。身体が浮遊感に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ