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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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Girl's secret

「いやー。負けたわね。というか、クレルス卑怯ねー。手加減を逆手にとって自爆特効して、それで負けるとか(笑)」

「我が妻ながら、何でこんなに清々しく敗北を流せるのだか……。大丈夫かい、クレルス?」


 訓練、という名目の、レバートたちの実力の開示が終わり、敗北したベルク家一同は待機所に集合していた。


 不貞腐れた息子の肩を叩き、敗北を笑い飛ばし、お手本のような挑発をするサーシャ。生物であれば誰しも敗北を引きずる。前回の失敗を忘れないために、脳が強烈にインプットするからだ。


 だが、そんなもの、理性が蒸発している狂人の前では全く関係ない。コンピュータに絶対優先の命令を出しても、そもそもコンピュータ自体が破損していれば無意味。


 つまり、サーシャという女は、その強さ故に、そしてなにより生来の性質として、どうしようもなく能天気で破天荒なのだ。


「せめて自力で肉薄くらいやってみせなさいよ。翼がない相手に空中戦を仕掛けてるんだからねぇ」


 バウムの心配は、クレルスが落ち込んでいるのではないか、というよりは、下手な手を打とうものなら、クレルスがガチギレするのではないか、という心配である。


 そして、嫌な予感というものは往々にして的中し、フラグというものは前提として回収されるために作られるものだ。


 畢境、……この世で最も物騒かつ、破壊力の大きな親子喧嘩、スタート。


「……死ね」


 ボソリと一言。そして何も悟れない、何気ない動作を繋げて繰り出される必殺撲滅の一撃が塵旋を巻き起こした。


 乾いた衝撃音と風が、待機所を震わす。何事かと驚き、先程のベルク家の戦闘の熱狂が一気に冷める。


「やるじゃないッ」


 サーシャは腕をクロスし、容赦も遠慮もなく顔面を狙った一撃を防いだ。正論で煽れば息子が暴力に訴えるのは目に見えていた。故に、防ぐことも出来た。


 だが、代償は大きい。腕が痺れた。動かせない程ではないが、骨にヒビも入った。少なくとも数秒間は腕は使い物にならない。


 しかし、サーシャはクレルスの攻撃を読んでいたのだから、当然、反撃の準備も出来ている。


「独楽ッ!」


 ハイキックがクレルスの頭のあった位置を薙ぎ払った。クレルスはベンチから転がり落ちることで回避。


 目にも止まらぬ早業で直ぐ様足を組み換えたサーシャのローキックがクレルスに追撃。更に地面を転がり避ける。


 腕を潰すために、あえてサーシャを吹き飛ばさずに中に振動を伝えたことが、完全に裏目に出た。


 だが、余計なことを考えている暇はない。失敗に対する後悔はほどほどに切り捨て、転がりながら身を跳ね上げる。


 腰のデュランダルを抜……けない。右手をデュランダルの柄ごと蹴り上げられ、武器を失う。


 サーシャは勝ち誇った笑みを浮かべる。が、クレルスもまた、口の端を吊り上げ、竜の八重歯が覗いた。


「今の体勢なら避けられないッ!」


 パリッ。


 青い光をサーシャが視認し、そして……


「雷霆の覇道」


 極太の雷が上下からサーシャに食らい付いた。太陽よりもなお強い光が視界を埋め尽くす。


 雷霆の覇道は本来、覇道という名を冠するだけあって正面に向けて放つビームのような魔法なのだが、射程を短くすることで魔力消費を抑え、二発同時に上下から放ったのだ。


 まるで世界が白に包まれたよう。だが、白と黒、光と闇は対である。影は光を際立たせ、光もまた、影を際立たせる。


 魔神や邪神の腕と思う程、極光の前には不自然すぎる暗さを纏った腕がクレルスに伸びる。


 闇の魔法を外殻に被り、雷撃を凌いだサーシャの手だ。しかし、さしものサーシャの魔法も、極大の雷光には耐えられず、クレルスが風の刃を放ってやれば直ぐに剥げる。


(なら、外殻は無視して殴っても、ダメージは入る!)


 魔手を回避したクレルスの右手には、死ノ鎖を纏った質、大きさ共にスケールダウンした贋作のデュランダルが握られていた。集約した死ノ鎖は回転し、ドリルのように唸る。


「貫神牙突!」


 天使にも見舞った一撃だ。手加減しているとはいえ、闇の装甲を削り散らして腹に穴を穿つなら十分な威力だ。


 だが、サーシャは気にしない。クレルスのように、作戦上あえて受けるという訳ではない。打算抜きで、防御をかなぐり捨てた。


「しまった、血が!」


 高速回転した死ノ鎖はサーシャの地肉を抉り散らす。クレルスの服にも顔面にも、生暖かい鮮血は飛び、視界を封じた。


 計算通り、などではない。嬉しい誤算というやつだ。生まれつきの豪運がサーシャに味方した。


 目の前が見えずとも、クレルスは離脱し、サーシャの次なる一手を回避しようとする。が、サーシャは止まらない。血を拭ったクレルスの前に現れたのは、喜色満面のサーシャ。


 暗澹たる魔力が集い、絶望の禍根を成して収束、圧縮されていく。流石に観衆や野次馬もこれ以上は不味いと感じ始めたが、止められる者はいない。


 バウム?喧嘩が始まった瞬間に身の危険を感じて即座に尻尾を巻いて逃げた。サーシャとクレルスの喧嘩に手を出してもロクなことが起こらないのは、経験則として誰よりもよく理解している。


「【濁禍黎爆(だっかれいばく)狂騒破綻(きょうそうはたん)】」

「【硬化】【竜鱗】【魔纏・岩】【雷霆の鎧】【狂嵐纏鱗】!」


 サーシャが漆黒の魔力を暴走させ、クレルスは今できる全力最大の防御をとろうとした瞬間。


 ドゴォン───!


 何かが派手に倒壊する音が聞こえた。場が慌ただしくなる中、クレルスとサーシャだけはその熱を一気に冷却し、思考を回す。


「取り敢えず、行くわよ!」

「了解」


 傷だらけでありながら、燕のような飛翔をみせる。上空から見渡してみると、東にあった建物は消え、南極のごとき氷山と凍土が広がっていた。



※※※※※※



「魔剣の様物(ためしもの)?」

「あぁ。そうだよッ。だってのに、何でこんなに武器の試験場が脆ぇんだよ!」


 鍛炉は不貞腐れたように答えた。予想外過ぎて耳を疑う一同。鍛炉は逆ギレしてみたものの、流石に気不味くなったのか、徐々に目線を反らす。


「コホン。取り敢えず、皆作業に戻るように。悪気はなかったということで、鍛炉殿も今回は不問に処します。次から気をつけるように」

「おー。けーちゃんが魔王っぽい」

「……サーシャ、お前なぁ」


 騒動を聞き付けてやってきたケリーが巧く場を纏めようとしたところで、空気を全く読まないサーシャがからかう。だが、ただでやられるケリーではない。


「お前ら、連帯責任で一家揃って減給だ!」

「「「なっ!?」」」


 サーシャだけならともかくと、クレルスといつの間にかやってきていたバウムは抗議の声を上げる。


 だが、全く取り合わないケリー。父子は、減給は割りにあわないと、サーシャに頭を下げさせ、挙げ句の果てにはサーシャを売って必死でケリーを持ち上げる。


「ちょっと、離しなさいよ!プライドってものはないの!?」

「「お前が余計なことを言うからだろ!」」


 人間も魔族も古来より、金の前には無力だ。魔王という国家権力の権化に完全敗北する。


 そんな彼等を、呆れた様子で睥睨しながら、レバートがやってくる。が、その手に握られているものが以上だ。


「大斧と……破城鎚?」


 両手に持つには、あまりにも大きく重い二つの武器。もっと斧頭に近い場所を持った方がテコの原理的に楽な筈なのに、柄の下側を何でもないように持っている。


 何をするのかと思えば、大斧を氷山目掛けて投げた。遠心力と重量、速度の相乗効果で、氷山に大きな亀裂を入れる。


 破城鎚を持って戦車のように踏み込むと、氷山に突き刺さった大斧目掛けて、破城鎚を振り抜いた。爆音が轟き、氷山を砕いて行く。


 だが、それはまだまだ氷山の一角。それでも氷山には亀裂が走り、脆くなった。そこを目掛けて破城鎚で一撃、二撃、三撃。


 遠心力を逃がさぬように回転しながら、無心に、まるで機械のように大破壊を繰り返す。


 無論、その無情な様が機械のようなだけであって、こと破壊力においては地球の現代のどんな機械よりも強大である。


「な、何を?」

「ん?あぁ。ありゃ、ぶっ壊してから焼くんだよ。そしたら早く融けるからな。レバートがいると便利だぜ?建物の修復も出来るしよ」

「それはそれとして、鍛炉、あとで覚えておけよ?」

「うげっ。……あー、ちょっと花摘に行ってくらぁ」


 逃げた。見事な走りだ。ガタガタで滑る道を全く気にも留めず、さも舗装された道路を駆けているようだ。クレルスが咄嗟に死ノ鎖を展開するが、捕捉する寸前でかわされた


 だが、その逃避行は呆気なく終わりを告げる。鍛炉の背後に突如出現した影が、鍛炉の足を引っ掛ける。


 だが、その程度で終わる程、彼もやわではない。顔面から地面へ突っ込む前に手を付き、側転し、パルクールの世界一でも真っ青の綺麗な軌道で逃亡再開。


 ……とはいかなかった。頸椎が折れそうな程の過負荷に、首を引っ張られる。踏ん張ろうにも、無理矢理逃げようにも、凍った大地がそれを許さず、無様にこけることになった。


「っ……痛ぇ」


 よく見ると、彼の愛用している外套が、矢で地面に縫い付けられていた。矢に、綺麗に整地された氷の床。


「凉白、てめぇ裏切ったな!」

「裏切りもなにも、貴方が悪いのでしょう。貴方が」

「おいクレルス。知ってるか?こいつ、てめぇの寝顔が可愛いとか言いながら毎朝飽きずに頬つついてんだぞ」

「なっ!?なぜ貴方がそれを!」


 凉白が、その真っ白な肌を真紅に染める。鍛炉はニヤニヤと笑っている。が、影、カイザーは馬鹿を見る冷ややかな目で鍛炉を見下す。


「馬鹿捕獲への協力、感謝する。それと、逃げた方がよい。ここにいては凍死する。ここは更なる氷土に包まれるだろうが、責任はとる」


 逃亡を促すカイザー。クレルスが横を見ると、レバートは何も聞かなかったフリをしながら離脱している。


 だが、暴露の内容はレバートにもダメージがあったようで、頬を赤らめている。


「凉白は怒らせると怖いからな」

「地雷を踏んだのか?」

「地雷?……罠の一種でそういうものもあるのか。まぁそんなところだ。あの馬鹿は淑女の秘密を公言したからな」

「死、あるのみ、よね♪」


 サーシャの言葉に頷くカイザーとケリー。一泊して、悲鳴と氷の音が響いた。

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