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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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少年よ、勇者たれ

 デュランダル、本物とレプリカの二刀流。普通の片手剣を二本両手に持って戦うなど、普通は振り回す時点で諦めるような脳筋馬鹿の戦闘法。


 かの宮本武蔵の二天一流は刀と小太刀の二刀流。片方は短く軽い刀を使っていた。でないとまともにパフォーマンスを維持すふなど普通はまず不可能。しかしそれを成すクレルス。


「(どっちも重い。でも、)見切った‼」


 僅かな切れ味、武器としての質の差から御子神はレプリカを見破り、豪快に破壊。だがクレルスの二本の腕は健在。もう一方、本物のデュランダルが御子神に襲いかかる、寸前、邪魔が入る。


 相手を縛り、無力化してから殺すクレルスが逆に鞭に腕を絡めとられる。


 だが、流石親子というべきか、クレルスもまた、地に【竜爪】を深々と奥底まで突き刺し、全身の筋肉を総動員し、強引に鞭を引く。


「それは貴方の母親で反省してるわ!」


 敵もさるもの。二本の鞭を器用に使い、荒野と化した世界に残った残骸を重石としてクレルスをその場に縫い止める。


「隙、ありッッ!」

「かぁぁっ‼」


 ガリッ‼


 御子神渾身の一閃をあろうことか、クレルスはその牙を以て噛み砕いた。まるでクッキーのようにパリポリと、おやつ感覚で破壊されていく剣を前に、流石に覚悟を決めた二人でも驚愕を隠せない。


 だが、それで諦めるほど、御子神の鍛えられた鋼の心は弱くない。鍛造技法で鉄ので不純物を取り除くようにしてより純粋に、より硬く、進化した。


「フッ!」


 強烈なストレート。腹筋と硬化で押さえ込む。痛みを堪えながら同時に魔眼発動。御子神と華谷の両名は、力を奪われる奇妙で馴れない感覚に少し力が緩む。


 その隙に大暴れ。地面は爆発四散。巨躯の怪物が暴れたのかと見紛うほどの衝撃が迸る。だがそれは同時に、クレルスの不利を意味する。


 僅かな壁や遮蔽物の全てが消え去り塵となり、最早隠れて奇襲は不可能。憎々しげに両名を睨みながら死ノ鎖で縛り、隙あらば絞め殺せるように圧迫しながら、まだ遮蔽物が残っている地帯に引きずり込む。


 叩き付けられた御子神、華谷。華谷は昏倒とまではいかないが、脳震盪と骨格内蔵に負ったダメージの影響で、思うように立ち上がれない。されど御子神はノーダメージ。


 直ぐに立ち上がる。転がっていた一般兵用、統一規格の量産剣を拾い、油断なく構える。クレルスは、いったいどういう原理か、あの担任と同じ能力かと、怪訝に首を傾げる。


 実際は瞬間的に一秒間だけ無敵状態になり、一切の干渉を防ぐことができる瞬間無敵。そう乱発できるものではないが、ここぞという一撃を耐えきれる切り札である。


 直ぐに辺りを見回す御子神だが、クレルスの姿は見当たらない。代わりに見つけたのは遠山瑠花。思わず凝視。声をかけようとする。


 それは隙。見逃すはずがない。閃光。雷電による狙撃。左腕が貫かれ、焼け焦げ、使い物にならなくなる。


 【疑似再生】によって何とか、遅々とはしているものの、回復している。放っておけば一、二分で治るだろう。が、華谷がダメージから復活し、すっかり遠山にポストを奪われたが、お得意の回復魔法で治癒する。


「戦法からして、地形的不利があるけど、そう簡単にむこうの更地まで逃がしてくれるとは思えないわ」


 華谷が毒づく。華谷の鞭は取り回し難いが、クレルスの死ノ鎖は変幻自在。遠距離攻撃は御子神も出来ないわけではないが、狙撃経験などなく、デュランダルに選ばれ、剣の稽古を優先していたために、クレルスに劣る。


「元々二対一で戦ってた。その有利が少し揺らいだぐらいでなんだよ。俺は、勇者だ。なら、……戦える!」



※※※※※※



「あぁッ。クソ!まだか!竜化がもう保てないぞ」

「まさか意識が⁉」

「どんどん思考が鈍って野性的になっている。このままだと戻れなくなる!」

「道理で、いつもより口調が荒いと思った」


 どんどん軋み出す陣形、それでも耐えなければならない地獄。限界を越えた限界に、もういっそ全てを投げ出したくなる。


 が、まだ止められない。まだ止まれない。灼熱地獄を乗り越えなければ魔族に、自分達に未来などないのだから。全力で走らなくてはならない。ただ今は戦い続けなければならない。


「まだかっ⁉太陽神の焔で焼いてやったから軍神もちったぁ弱ったがまだ動いてんぞ!」

「分かってる!今やってる!クソがっ。もう少し……。計算が足りない。現状では安全性が保証できない」

「落ち着いて。体と頭を冷やして息を吸う。大丈夫。できます。あなたなら」


 凉白が月の神アルセナと戦いながらも、レバートの体を冷やし、肩に手を置く。


 赤熱化していた脳と脊髄が一息に冷める感覚の後、全神経が今までの焦りを忘れ冷静さを取り戻し、機能が向上する。


「俺は、魔王だ。その名を、崇高な地位を汚せない。魔王様に戦友と、そう呼ばれた。それに、棄てた地位だが、それでも俺は勇者だ」


 遠い過去の記憶。計算の邪魔でしかないと、他の思考をシャットアウトしていたが、それでもなぜか回帰される。


「いや、訂正する。棄ててなどいない。人族の勇者という地位はとっくに棄てたが、俺は魔族の勇者だ!やり遂げろ。やらねばならない!」


 かつて共に戦った恩人にして恩師、そして偉大なる者にして戦友、三代目魔王の期待を裏切るまいと、自身を鼓舞する。


 思考の加速は天限突破。一秒が千秒、二千秒、三千、五千。


 どんどんと際限なく延びる。


 限界を迎えたクレルスの父、バウムが終には陽光に刺し貫かれる。

 サーシャは太刀、【怨天紅煉】を以て応戦するが、人竜一体の機動力を失った状況では到底太陽神の猛攻捌ききれない。


 後ろから軍神に迫ったカイザーはとうとう見破られ、影の体を切り裂かれる。それでも傷や吐血をもろともせず、最後の間際一撃を加えようとするが、続く二太刀目にその希望は、足掻きは潰える。


 三人も脱落したことにより、面の制圧能力が圧倒的に欠ける。補おうと、あらゆる武器を放出、投げつける鍛炉だが、容赦ないプロミネンスに焼かれ、無限の酒すらすべて燃やし尽くされ蒸発し、黒いただの煤となる。


 今代の魔王はそれでも抗い、血の雨を以て敵を穿つ。雨垂れ石を穿つという。雨でさえ、何度も落ちれば岩石に孔を空けるのだ。鉄が含まれた血液が濃縮圧縮されて高速で落ちてくる。ただではすまない。


 だが、傷は致命には到底至らず、少しの時間を稼いだ程度。


(これでいい。そうだ。これでいい。あと少し、時間を稼げれば!)


 閃光。血の防護膜に加え、多重結界、石塁、氷壁を一瞬で構築する。元々仕込んでいたのだ。


 防げると思ったも束の間。一瞬にして純白がケリーの視界を埋め尽くし、……


 残るはここからは少し離れた場所で激戦を繰り広げるクレルスと、この場にいる四代目魔王レバート・アーラーンと凉白夜空のみとなる。


 最後の砦となった凉白夜空。冬は太陽神を拒絶し、月神と軍神は矢によって打ち払われる。孤軍奮闘。【覚醒】によって魔力を大量に消費し、体に多大な負荷をかけながらも、止まることを知らない。


 だが稼げるのは数秒。本来ならば到底役にはたたない。


 だが、それでも充分で貴重な時間。血と涙と魂がが結晶化した時間だ。


 その空間の中で。見えた。


 五千倍の世界で、他を知覚することすらない極限の集中下で。


 そしてそれは成る。


 【操作】の極致。この世において最も禁忌に近いワザ。


 その名を時間操作式ゲレン=スピメット。


 即ち、未来渡航、そして時間遡行(そこう)を可能とする秘奥の技である。


「さようなら。そしてまた会おう。だがしかし、次会うときは貴様らの命日と知れ」


 そして世界は暗転した。



※※※※※※



 世界の狭間



 突如眼前から消えた世界。反転流転入れ換わる。華谷が戸惑う中、御子神の瞳はクレルスを確りと視界に収め、また、クレルスの魔眼も御子神の姿を、写真のような精密な絵が描けるほどに焼き付けている。


 世界が終わっても両者の勝負はまだ終わっていない。それを見守るものは二人。


 その内一人は


「やあやあやァ。忙しそうだネ。お二人さん、元気かい?」

「誰⁉何が……」


 屈託ない笑みを浮かべる少女。御子神は警戒する。対するクレルスは納得する。この謎の環境が産み出された原因が判明したからだ。声の主、その正体は、


「ゲレン様、ですか」

「ン?クレルス君は別に敬語、使わなくていいヨ。少し気持ち悪いしサ」


 そう言って手を、何かを払い除けるようにして軽く振る。


「で、キミははじめましてだネ。ボクの名前はゲレン。遊興の神ゲレン。君たちの神々と魔族の神、どちらにも属さない中立神をやってる者サ」


 実際にはどちらにもあまり干渉をせず、引きこもることによって見逃され、神々を殺す機会を窺ってきた魔族側の神なのだが、それはあえて伏せておく。


「貴方がこの状態を?何のために俺とクレルスを……」

「いやいや、ボクは君たちをちょっと時間の流れから隔離しただけで元凶は、……おっと来たネ。そこにいるレバート君サ」


 地面がない空間でどういう原理か、ゲレンのように空中を無重力空間や水中を泳ぐように移動するのではなく、堂々と靴音を鳴らしながら歩いてきた人影。


「何やら時間操作式に干渉を感じたと思えば貴様か、ゲレン」


 無重力混沌摩訶不思議空間だというのに、空気圧と重力が急激に増加したかのような感覚。錯覚かと御子神、クレルス両名は考えるが、錯覚ではない。純然たる事実。


「しれっと世界を塗り替えないでネー。そこのところヨロシク」

「無重力空間よりは足場がある空間の方がましだろ」

「そこはボクがやるからサ。キミの出番は無いヨ?だから勝手に神の家を荒らさないようにネ」


 足場ができる。魔王レバートが登場したときに、重力が急激に増加したように感じたが、元の重力に戻っただけのようだ。


「この世界では外界の時間は関係ない。ゲレンが自由自在に操れるからな。ここでどれだけ過ごそうと、外に出れば一秒も経っていない筈だ。戦うのだろう?好きにやるといい。長くいたら少しばかり、肉体年齢は変わっていないのに精神が老齢化しているかもしれないが、な」


 レバートは勝手に家を、空間を荒らすなと言われたばかりなのに、背もたれに透明な木のような何かを作り出す。その横暴さには神もやれやれと呆れる。


「貴方は、クレルス側に参加しないのか?でないとクレルスに対して俺と華谷の二対一での戦いとなってしまうが」

「好きにしろ。死にかけていたら助けるが、それまでは俺は関わらない。貴様らが一方的に蹂躙されることを望むなら別だが、……貴様らが渇望したとして、そんな介入はクレルスが望まないだろうな」


 暗に自分はお前たちよりも遥かに強いぞと、御子神と華谷に伝える魔王レバート。事実、レバートが介入すれば一瞬でこの戦いは終わる。が、それはクレルスの矜持も傷つけることになるだろう。


「それに、クレルスが殺されそうになれば、そこの少女が助けるだろう。俺が関わる必要性がない」


 彼方に視線を向けるレバート。その先には何もない。いや、何もなかった。何もなかった筈なのに何故か遠山瑠花が立っている。


「どういうことだ?まさか遠山も魔族に荷担しているとでも言うのか!?そんな筈は……」

「いや、少女、遠山だったか?其奴は我々の味方ではない。だが、貴様らの味方とも限らないがな」

「どうなの、瑠花!お願い、何か言って。クレルスに味方なんてしないよね?」


 華谷が詰め寄るが、遠山は答えない。


「クレルスにも味方はしないだろ。単純に其奴はクレルスを自分の手で殺したい。故にクレルスが殺されそうになれば貴様らを排除する。それだけだ。最初から貴様らに加担しないのは、恐らく貴様らに邪魔されることが気にくわない、といったところか」


 木を背もたれにしながら座り、煙草と飲み物を出すその姿は、完全に決闘の見物客。見物客でありながら安楽椅子探偵のように人の心を読み取り暴露していく。


「何故、そこまで分かるの?」


 はじめて遠山が口を開く。


「似たような感情を俺も持っているからだ。全ての元凶、神託者に指示をだし、世界を意のままに操る神、創造神■■■を殺す。これだけは敬愛する陛下にも譲れないな。もっとも、貴様の感情は俺の憤怒や憎悪とは異なる、寧ろ真逆の位置にあるようだがな」


 創造神の名はレバートの声が小さかったこと、そしてクレルスたちが今まで聞いてきた言語とは全く声帯の造りからして異なるような奇妙な発音だったこともあり、聞き取れなかった。


「愛し狂いて殺すとはな。死に腐れ享楽主義者だとは前々から思っていたが、神々も面倒ごとを増やしてくれたな」


 苦々しげにレバートが見守る中、戦闘は始まった。



※※※※※※



「なんだ?貴様は結局参加しないのか」

「美奈ちゃんと御子神君には悪いけど、クレルス君があの程度で死ぬとは思わないから」


 遠山瑠花は希望的観測を一切交えず、ただ正確に確率と事実だけを見ている。


「あぁ。十中八九、クレルスの勝ちだな。だが、同時にあの小僧、御子神から妙な気配を感じるのも事実だ」

「何ですか、それ?」

「悪意に満ちた神々産のモノなら察知できるのだろうが、善意や正義感、そういったモノを糧にあやつの中から産まれたスキルなら、俺は専門外。正直なところ、分からんな」


 【渇望サレタ勇者】いや、【真勇】すら、神々が何かをするまでもなく御子神自身から産み出されたものだ。そしてそこに悪意はない。


 魔王レバートの持つ【復讐者の勘】は悪意に対しては異様に敏感だが、その他の事象に対しては一番基礎の【直感】スキルに毛が生えたようなものだ。


 【簒奪者の勘】のような未来予知に匹敵する能力も、【野生の勘】のような全てに通ずる直感も、【覇王の勘】のような大局を見る能力もない。あくまで復讐者専用にカスタマイズされたものなのだ。


「その時は私が止めに入るから。……殺していいのは私だけ。例え相手が神でも魔王でも譲らない!」


 恍惚とした蕩けるような声。醜悪なものだと、レバートは吐き気を催す。レバート自身で全てを解決することも出来る、が、そんなことはレバート以外の誰も望まない。つまり、レバートが干渉することはただのレバートのエゴでしかない。


 それは最後の解決法。今のところはこの状態をもどかしく、忌々しく思いながらも、見物することしかできない。



※※※※※※



「さぁさぁ互いに武器は構えたネ。一・触・即・発。さて、どうなるか。神々に関係ないことであればボクはさっき太陽神とかと戦ってた時みたいに力は貸さない。運命を改変しての祝福もしない」


 上から見下ろし独り言。


 誰にも聞かれない彼女だけの独白。


「だから、これは君達の物語、君達だけの英雄譚サ」


 慈しむようにクレルスたちを見守る。例えクレルスが殺されるようなことになっても彼女は手出しできない。


 それが、自分の神としてのあり方であり、唯一にして絶対不変のルールなのだから。

更新遅れてすみません。

かなり見切り発車なのでよく考えずに事態を作り出してしまった結果、終息させるのに苦労しました。

今話で一区切りつけるつもりが、前回、前々回に勢いで御子神VSクレルスという展開を作ってしまったので多分次話はそれだけで埋め尽くされます。

かなり前から始まったこの一日の戦い、もう少しお付き合い下さい。

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