コボルト族とシャドウ族
その後、王城に戻って寝た。
翌日、王や教皇、あと教会の最高戦力らしい聖女とやらから説明があった。
「魔族のうちのコボルト族のスパイを捉えています。まずはそれを見て、魔族がどんな姿かを知ってもらいましょう」
よく知っているのでどうでもいいです。とは言えないよな。それに捕らえられている所に自ら案内してくれるんだ。ついていかないという手はない。
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「あの尖った牙、獰猛な目、そして犬のような見た目。あれがコボルトです」
犬ってコボルトに対して一番言ってはいけない言葉なのを知って・・・いないだろうな。
「グルルゥァ・・・」
あの傷、鞭や刃物の跡、真新しいものだ。拷問だろう。流石にそれが勇者たちに見られると都合が悪いのか、一応の応急処置はしてある。
一つ、はっきりしたな。人間は、
敵だ。
交渉とか和平とかも、可能性としてはあるし、もしかしたらできるかもしれないが、感情が決してそれを許さない。俺も敵なら同じことをする可能性だってあるが、それとこれは別問題。自分勝手の極み。
理屈の上でいくら納得できても、それが利益になると知っていても、きっと、人間を許せないだろう。それ程圧倒的に嫌だと、本能が、神経が、全身が、警鐘を鳴らしている。
やることは決まった。今晩取り敢えず、他の奴がいないか調べる。そしてこいつと共に助ける。OK道筋は覚えた。だが警備が厳し過ぎる。
時間が掛かれば終わる。帰りは多少バレてもいいからせめて侵入する時に裏道でもあれば・・・いや、そもそも侵入する必要はない。
最初からここにいればいい。幻術はサキュバスの得意分野だ。
「【影分身】」
分身を作り出して連れていかせる。といっても分身に幻術をかけることは出来ないから羽も角もない偽物だがな。そして俺は残ると。
上手くいってくれよ。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の音がやけに大きく感じる。柄にもなく結構緊張している。クソッ、さっさといけよ。なんでこんな時に限ってこんなに時間が長く感じるんだか。
「それではもう行きましょうか」
フーーーッ
あぁ、緊張した。疲れたなー。あとは夜を待つだけだ。
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夜。
コンコンコン
「起きているか。助けに来た。ここから出るぞ」
「ホントウカ?」
疑念の声を上げるコボルト。声帯がイカれているのか、ガラガラとした声をあげる。
「あぁ、俺の姿が見えるだろ。角や羽があるだろう。俺は仲間だ。他にも捕らえられている奴はいるか?なら教えてくれ」
「モウヒトリ、シャドウ族ノ者ガイル」
「了解。助けるぞ。歩けるか?」
「モンダイナイ」
「ついてこい」
扉を力で無理矢理壊す。幻術で空気を騙して音が鳴っていないと世界に信じこませるが、音には気をつけないといけない。。バレたらまずい。
コボルトは怪我をしていてもやはり速い。コボルトはその速さと身軽さ。そして狼の鼻と耳。それがかわれて斥候や隠密、スパイとしてよく出てくる。それはシャドウ族も同じだ。あの者たちは気配操作に長けている。
「アソコヲ曲ガレ」
「了解」
いた。
「助けに来た。話は後だ。取り敢えずさっさと行くぞ。傷がひどいな。背負うから乗ってくれ。早急にここを脱出する。」