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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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天界の門

 背中が熱い。


 心臓が早鐘を打つ。


 前を走る大英雄に近付きたい。


 武の高みにいる魔王に追い付きたい。


 そして、いつの日か、追い越してみたい。



※※※※※※


「……【無機物、操作】」


 天界の門までの道が作られる。魔法を乱す磁場。しかし、遊興の神がかけた可能性たるスキルには効果はない。一本道。絶壁が現れる。


 しかし、所詮は地面の煉瓦。破壊される。むしろよく守った方だ。正しく規格外のスキルだ。現れた天使。しかし、それを矢と、死ノ鎖が貫く。


「はあっ‼」


 貫いた天使ごと無理矢理死ノ鎖を引っ張り、急接近。天使を鈍器のように扱い、更に天使を潰していく。


 【強欲】で魔力を奪い、それを体に入れないで、解放。


 中々板についてきた。天使の力を以て天使を制する。しかし、それでもどうにもならない連中がいる。十~十六翼の天使。


 魔王直属特殊部隊の紅一点、四代目魔王の愛妾として後世まで語られた冬の凉白夜空の援護射撃も、刺さるは刺さるが、特に十六翼には手数重視の矢では効果が薄い。


 毒の刀を振るうサーシャ。しかし、限界だった。魔剣の酷使のし過ぎによる崩壊だ。【毒蜘蛛】が真っ二つに折れる。つまり、無手。徒手空拳で戦わなければならない。


 即座に正面にいる天使に掌打。日魔流闘術 体術 衝波。見た目以上の衝撃が天使の全身に走り、ボロボロに。一瞬にして絶命。そして全力で駆け出す。魔法の雨を間一髪で交わし、魔王レバートが作った絶壁の壊れていない部分を蹴って跳ぶ。


 サキュバスの、腰に着いた蝙蝠のような羽で滑空。終には魔王レバートの隣まで行き、振り返る。背後には天使、天使、天使。抜き去った天使が台所の悪魔のように群れる。


「必殺魔法・ゴキブリバスター【ダークボルト】ッ‼」


 前半の下りは、ゴキブリのあまりの生理的な気持ち悪さにびびったサーシャが、地球で大規模破壊魔法を使ったことに由来する。


 人族にとって、天使とは美しいものである。事実、魔族から見ても、羨ましいくらいの美貌を誇る。しかし、魔族を殺すために編み出された故か、魔族からすればその内面が気持ち悪い。生理的嫌悪を抱くのだ。


 故に、ゴキブリバスター。あまりに大きな声で叫んだので王都中に響き渡り、聞いていた勇者たちは吹き出した。向こうの戦いのシリアス感がまたしても、一段と減った。


 そんなこんなで、黒い雷が、蜘蛛の糸のように撒き散らされた。貫かれ、焼かれ、捕縛される。そのままフルスイングで、捕縛した連中を絶壁に叩き付ける。


 壁が破壊されたが、壁側にいた天使たちは、それこそ潰されたゴキブリのように無惨な姿に成っていた。


「無限、なの?」

「有限だ。ただし、何億何兆いるか分からんがな。きりがない。少し、離れていろ」


 サーシャの呟きに魔王レバートが反応する。何千年もかけて量産された天使は、有限ではあるが、全て消し去ることができない以上、無限と変わらない。


「離れていろって、何を、……」


 何をするのか、という問いを途中で止める。魔王からは燃え盛る太陽の業火のごとき殺気が撒き散らされていた。


「【憤怒】、【真狂化】───ァッ‼」


 途端、炎が湧き出た。黒炎が暴走する。【覚醒】スキル派生、【狂化】の更に先にあるのが【真狂化】だ。理性を全て投げ飛ばす代わりに、絶大な力を得る。単純な力比べでは強力無比。


 更に【憤怒】という、筋力と敏捷に補正が入り、憎悪が、憤怒が溢れでるスキルで上乗せ。圧倒的な筋力を以て、走る。


 捲れ上がる地面。大剣が投げられる。十六翼天使の絶大な防御力をいとも簡単に突き破り、突き刺さる。天使が絶命した瞬間、もうすでに大剣は引き抜かれ、大上段で振るわれ、衝撃で壁となった天使たちを蹴散らしていた。


 両サイドから十六翼が魔王レバートを襲おうとするが、一瞥すらくれずに大剣と剛槍を投げ、殺していた。


「Glooooooooooooaaaa ■■■■■■■■──────ァッッッ‼」


 咆哮。それだけでバタバタと倒れ伏す天使たち。先程までのレバートが武の極みだとすれば、今のレバートは力の極み。強猛の怪物、災厄の魔獣。あまりに憧憬とは遠い。


 ただただ強い、速い、そして強い。技術なんて必要のない、類を見ない殲滅力。


 そして何より、全身が火だるま。燃えていた。地獄の業火が有象無象の雑魚を灰に変える。近寄るだけで熱い。


 そんな中、クレルスは行く。死ノ鎖を蝶の繭のように使い、自分を守護しながら突貫。レバートに近寄る全てを串刺す。それを確認せずにレバートは行く。最早、それだけの理性があるのかも分からない。到達に五秒。


 天界の門、到達。


 十六翼に突き刺したままの武器の代わりに、首に巻いていた灰色のマフラーを鞭のように振るって、天界の門を破壊しようとする。隔絶されたようにマフラーが弾かれる。明らかにマフラーが醸し出すとは思えない重厚な音が響く。


 天界の門の表面にヒビが入る。十二翼くらいまでは、そのあまりの猛攻に耐えられず、巻き添えを喰らって死んでいる。


 クレルスは片手分の死ノ鎖で盾を作りながら、もう片手で邪魔する者を抹殺する。


「解錠ッ……久しぶりだとキツいな」


 魔王レバートの瞳に理性が戻る。先程までの苛烈さは鳴りを潜めた。冷静沈着にして大胆不敵、そして豪快不遜。魔族の憧れる大英雄が戻ってきた。


「俺は暫く無防備になる。その間、俺を守れるか?」

「分かりました‼」

「出来る、と言いたい所だけど、刀が折れちゃって、厳しいかも……」


 自信ありげに即答するクレルス。しかし、母のサーシャは愛刀【毒蜘蛛】が折れたことによって現在無手。


「これを使え」


 魔王レバートが空中から二メートル近い大きさの大太刀を出す。赤黒い刀身が怪しく光る。


「銘は?」

「【怨天紅煉(えんてんぐれん)】神、又はその力を持つものに対して効果を発揮する魔剣だ」


 試しにサーシャが近寄ってきた八翼天使相手に切りかかると、鍔迫り合いも何もなく、瞬時に一刀両断。


「これなら十四翼くらいなら行けそうね。クレルス、十翼以降はこっちに優先的に廻しなさい」

「了解。その他大勢は何とかする」


 さて、十六翼はどうしたものかと考えていると、十六翼相手に至近距離で顔面に十本の矢をマシンガンのように突き立てる人影。凉白夜空である。


「十六翼は任せてください。レバート、武器を回収しておきましたよ。それから、……」


 悠然と佇みながら淡々と報告がなされていく。近寄った天使は弓で殴られて吹き飛んでいる。ザクロのような紅い飛沫が飛び散って、殴られた場所は跡形もない。


「天界の門は罅入れといたから、暫くは復活しないだろう。天使も出てこない筈だ。本当ならそのまま破壊したかったんだが、【憤怒】と【真狂化】の同時使用は精神を酷使する。長時間は無理だ。どっちか片方の生半可な力では傷ひとつつかない。と言うわけで、【操作】で干渉して閉じる」

「そうですか。何秒?」

「分からん。こればっかりはな。ゲレンであれば、もしくは我らが陛下であれば60秒以内で何とかするだろうが、俺では少なくとも90秒はかかる。直ぐにとりかかろう。【操作】干渉開始ッ」


 天界の門に手をつき、目を閉じる魔王レバート。相変わらず、神の認めた者のみしか侵入できない一方通行。


「構成解明完了、乗っ取り(ハイジャック)開始……」


 ここを通られれば魔族にとっての大打撃。絶対に通してはならない最終防衛ライン。


「気合い入れていきますよ」


 その瞬間、ブリザードが顕現した銀世界が広がり、それが晴れた時には既に、氷の棺が大量に出来上がっていた。パキパキと、凍らせた天使ごと崩れる氷。弱い天使は自分を守りきることが出来ずに、ただ無情に崩壊した。


 美しく均整のとれた冷俐な無表情を歪ませ、血相を変えた天使たちが襲いかかる。クレルスが死ノ鎖の持ち手を振り上げ、一気に下に振り下ろす。


 血線が走る。極細の鎖が天使の肌を切り裂く。とは言え、六翼以降はそれほど深くは切り裂けない。


「【魔纏・雷】」


 金属の鎖を魔法の電流が走る。傷口から体内へと電流が流れ込み、焼き尽くす。焦げ臭が漂う。


 瀕死の天使の脳天を矢が貫いていく。全てに冷気が纏われており、傷口には紅い雪が舞っている。


「で、討ち漏らし担当が私ね。十以上の翼の天使ばかりね。バカらしくなるほどの戦力だわ」


 居合い一閃。日魔流闘術 刀術 柳葉斬り(やなぎはぎり)。伸びる斬撃が縦一列を切り裂く。神の力と反発するように、煌々と赤黒い刀身が光り輝く。


「音歩」


 速く、そして巧い歩方で天使の間をすり抜けるように歩きながら斬っていく。作業的に斬るその姿は熟練の正に人斬り。


 上空から斧。受け流す。そのまま一太刀入れようとするが、大盾に阻まれる。


「十六……翼」


 やはり反応速度が段違い。全てにおいて高スペック。


「交代です」


 凉白夜空が氷の杭を走らせる。盾に阻まれながらも敵を押し上げる。翼を使って体制を立て直す十六翼天使。


 だが、その翼の悉くを氷柱が貫き、凍りつかせる。


「あと五秒!」


 魔王レバートから報告。想定よりも断然早い。

 焦った天使が一斉に押しかかる。


「氷壁」

「嵐壁」


 あと数秒と分かっていれば無理に相手することはない。レバートが終わってから連携して残党処理をすればいいだけだ。希望が花開く。


「施錠、完了」


 長い戦いが漸く終わった。


「解錠」


 途端、聞こえる誰でもない声。


「よくやったな。だが、無意味だ。反逆勇者よ」


 希望の花は散り、代わりにレバートの胸に鮮血の華が咲き誇った。

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