表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
34/56

不壊の剣

 たった一つ。たった一つ願いがある。


 周囲の人は俺を褒め称えた。学校の成績は、都内で上から数えた方が早い高校で学年3位を取り、英検や漢検の準一級を保持。スポーツでは陸上競技で全国大会出場。見事全国1位に輝いた。


 文武両道のイケメンボーイ。雑誌に取材されたときにはそう銘打たれた。顔立ちは、ナルシストという訳ではないが、自分でも整っている方だとは思う。


 家系にも恵まれた。父親は警察のトップ。母は専業主婦。父は多忙で、滅多に帰ってこない。が、その分、俺や姉、妹への出資は決して惜しまず、高い個別指導塾。その上に更に家庭教師をつけてくれた。消耗品のスパイクやスポーツ用品の類いお金も直ぐに出してくれた。


 母も、滅多に帰ってこれない父の代わりに、家事育児を雇っている家政婦に任せず、なるべく自分でしていた。自分の時間を削り、子供のために、と。


 恵まれている者は、それだけ努力しないと。そう考えて、行動に写してきた自覚はある。自分がどのくらいの位置にいるのか、世間で言えばかなり上位の部類なのも理解している。


 ───だけど、だけど、だけど、だけどだけどだけどだけど、


 だけど、周りの人が自分を誉めれば誉めるほど、劣等感を感じる。その周囲の人との価値観の差を嘆き、孤独を深める。自分を一番理解できるのは、自分なんだって。そう想った。


 ……その事を察しられないように外面は鍛えた。


 それが見事に、逆方向に、望まぬ方向に働いた。巧く立ち回れば更に誉められ、自分がまだまだだと言えば謙遜していると捉えられ、謙虚と誉められた。


 そう、俺はまだまだなんだ。どうしても越えられない壁がある。何時も俺より先んじていて、追い付いたと思ったらまた遠くなる。しかも、今までの何十倍も距離を開いて。


 最初は、彼の才能を妬んだ。彼の両親も祖父母も優秀で、その一家の血を色濃く受け継いでいるのだと。


 彼の両親の顔立ちが整っていて、その面影のある彼もまた、イケメンだった。彼の母親の透き通るような銀髪と、父親の凛々しい瞳。俺みたいに、人に取り入ろうとはしないから、モテこそしなかったものの、容姿だけなら俺よりも遥かに上だ。


 いや、嘘を吐いた。容姿だけではない。成績は学年2位。……1位は基本的には華谷だが、たまに同率、もしくは単独1位をとることすらあった。


 実家の武道をしていたから、大会にこそ出なかったものの、運動神経はずば抜けていて、走れば俺より速く、何をしても俺が手にするのは敗北の二文字。


 俺にとって正しく、嫌いなヤツだった。自分の環境の良さを棚に上げて、彼を憎んで、妬んでいた。人生で始めての挫折であり、嫉妬であった。


 だが、その評価は直ぐに変わった。


 努力の人。彼に対してそう感じることとなった。決して彼は努力を誇らない。ただ、本当に、小さな子供のように、親に追い付こうと必死だった。


 擦りきれ、茶色くなった参考書。付箋だらけの教科書。手汗の滲んだワーク。洗濯してもとうてい落ちない鉛筆の黒鉛が輪を描く制服の袖口。


 鍛え上げられ、絞られた肉体美。くっきりと浮かぶ筋肉。虐待されているのではと疑われる程に傷だらけの体。流れる水のように迷い無い動作。


 全てにおいて努力の痕跡が残されている。


 勝てない、勝てない、勝てない、勝てない、勝てない。敗北を積み重ね、研鑽しても尚届かない。


 その上、人に取り入ろう、ご機嫌とりをしよう、皆と仲良くしよう、などと考えないだけで、彼はいいヤツと認めた相手には優しく接するなど、根本の性格自体はいいヤツ。嫉妬していた自分の方が惨めだった。


 華谷が女王的な存在だとすれば、彼は英雄。そんなタイプの人間、いや、魔族だ。


 そう、彼は人間ではなかった。クラスメイトは彼の強さの秘密が判明したと、魔族だからスペックが高かったのだと言ったが、俺はそうは思わない。


 確かにそれもあるのだろう。一理はある。が、それだけではない。そんな、魔族だからなどという理由で彼の研鑽が汚されるのは許せない。


 だが、俺が裏切り者と言われるのが怖くて反論できない。勇者という称号に、【真勇】というスキルに相応しくない人間だ。


 だから、勝ちたかった。この戦いで、勝って、【真勇】に相応しい人間だと証明したかった。彼の非道を止める等と建前言っておきながら薄汚い欲望で戦っていたのだ。


 ───問おう。本当に下劣なのは、一体誰なのか。


 高潔で、騎士らしく、真に正しく勇者らしいのは、一体誰なのか


 前者が自分で後者が彼。


 段々力が抜けていく。


 このまま奪われるのか。


 あぁ、願わくば神よ。この世界に彼と自分とクラスメイトを引き込んだという神よ。一度だけ会ったあの正体不明で、深淵のように先の見えぬ(おぞ)ましい神よ。


 どうか一度だけ、彼に


 ───彼に勝たせて下さい。


 そのためになら、どんなことだって、……



※※※※※※



「【真勇】略奪、完了」


 【真勇】がクレルスの手に宿る。それと同時に、御子神の握っていたデュランダルが弾けるように彼の手から離れる。空中でクルクルと風切り音を立てながら回る不壊の剣の柄を横から掴み盗る。


 予想通り、デュランダルは【真勇】と反応してクレルスを自らを扱うに値する主と認め、その手に馴染み、まるで長年使用してきた愛刀のように、粘土で作られた型のように手に馴染んだ。


 剣の腹の部分で御子神の首を打ち据え、意識を刈り取る。そこに微塵の迷いも無く、粛々と。価値が無くなったと言わんばかりに。


 意識を刈り取る前に、御子神の耳元で、至近距離の御子神だけに聞こえる小さな声で呟いた。


「これでお前は《勇者》の責務から解放される。こんな下らない宗教戦争になんか関わらず、クラスメイトと隠居生活でもしていろ」


 そして、死ノ鎖によって張られた結界を解除すると、いつぞや魔族の神から貰った仮面をつけて、その表情を闇に隠して言う。


「あとのことは、俺が片付ける」


 その言葉に、認識阻害効果のついた魔道具、神造の魔道具(アーティファクト)の仮面ですら欠片も隠せない覚悟と殺気を乗せて。



※※※※※※



 第1段階、天使の排除、完了。

 第2段階、勇者陣営主格の無力化、完了。


「さて、第3段階、聖女及び神託者の排除、開始」


 呟くと同時に筋肉をしならせ、銃弾のように加速。加速段階のバレルから解き放たれた銃弾があとは目標を破壊するだけのように、クレルスもまた、目標を制圧しに向かう。


 聖女の懐───


 ───ヒヒーン


 あらゆる種族が入り交じり、最強たちが競い合い、泥沼試合と化したこの戦場では最早忘れかけられていた生物の高い鳴き声が響く。


 さて、ギリシャ神話のアキレウスの戦車を牽く二頭神馬と一頭の名馬でも連れてきたか、ヘラクレスの退治した人喰い馬でも連れてきたかと思えば、なんのことは無い、そこにいたのは伝説など持ち合わせていない、至極普通の軍用馬だった。


 来たのは数名の騎士、騎士団長、そして佐藤先生だった。



※※※※※※



 数分前、王都奪還軍本拠地


 王都近くに建てられた簡易櫓と作戦室。本拠地というには些かお粗末な場所に、オーガ、ゴーレム、ドラゴニュートの屈強なる戦士達が詰め寄せていた。


 千名にも満たない少ない部隊、しかもその三割救護班という、弱小戦力しか残されていない場所には、過剰戦力が過ぎるのではないかというほどの勢力を以て。


「これが銃とやらか、実戦で使うのは初めてだが、使いやすい‼」


 クラフト……ゴブリンの長がそんな事を呟きながら、魔導ライフル銃を高台の上から構え、引き金を引く。ボルトアクションタイプなので乱戦では使いにくいが、高台をとって狙撃する芋タイプの戦略を実に採り易い。


 ボルトアクションタイプなのは単純に連射機構が再現出来なかっただけ、というつまらない真実なのだが。


 仕組みは簡単だ。銃弾を入れる。(土魔法で適当に造った弾でもOK)引き金を引く、魔力が吸われる、魔法の爆発。銃弾が撃てるというごく単純なシステム。異能の力と科学、叡智の結晶が融合した世にも珍しい逸品だ。


 しかも、各所魔法スキルによる強化が入っているので、普通の地球の銃を数倍上回るクオリティーを発揮する。威力は充分。分厚い鎧を貫き、人間を仕留める。


 魔道具は普通の魔法よりも魔力消費量が少ないので、ローコストハイリターンの便利アイテムなのだ。その分、制作にコストがかかるが、長期間使用する事を考えれば、やはりリターンがコストを上回る。


 その距離は1000メートル。最早それは狙撃の達人の域。魔道具

にゴブリンの技術の粋を凝らした手ブレ補正や演算スコープがついていても素人には至難の技。あらゆる魔道具を制作し、使用してきた彼女だからこそ成せる技なのだ。


 指揮をとっているのは酒牙……オーガの長。クラフトより頭は悪いが、軍務大臣だけあって乱戦にはとても強く、経験からくる的確な指示を出す。


「救護班の物資を狙え‼回復の魔道具やポーション薬の類いを使わせるな‼」


 回復の魔道具は名前のまま、傷を癒す回復魔法が込められた魔道具だ。ポーション薬は飲んでよし、振り掛けてよしの傷を癒す万能薬のこと。


 その昔、アホみたいに回復の魔道具を戦場に持ち込んで、物量作戦無限回復で攻め込んできたどこぞのイカれた帝国軍とか帝国軍とか帝国軍とか、具体的には帝国軍がいたので、酒牙は回復アイテムの厄介さをよく知っているのだ。


「ドラゴニュート部隊。空から一斉掃射。魔力を回せ、決めに行くぞ‼」


 酒牙がどこぞの赤い弓兵さんみたいな事を言いながら指示する。航空戦力として、相手方にも鳥系獣人がいるのだが、手が翼になっている種族と、翼に加えて手がある種族の戦力差は一目瞭然。ドラゴニュートの圧倒的有利である。


「団長、……どうか勇者様方の教諭殿を連れてお逃げ下さい。王都には神託者様も向かいました、先に王都を奪還すれば、籠城戦が出来ましょう」

「……────すまぬ……ッ」

「そんな三文芝居には付き合って上げられないわよ。悪いけど、ここは通さないわ。安心しなさい、異邦の哀れな被害者さんは戦闘の意思を見せない限り殺しはしないから。……クラフト‼」


 号令がかかると同時に待ってましたとばかりに銃声。が、回避行動をしてももう遅い。銃声が聞こえる頃には、音速を越えたマッハ5の銃弾は既に着弾している。


 騎士団長に進言していた男の頭は吹き飛び、鮮血のヒガンバナが男の首の上に、一瞬だけの華を創り、咲き誇る。余りの衝撃にスローになった視界で、騎士団長はその華のカタチと散り様をしかとその脳裏に焼き付ける。


 コーヒーの実を口一杯に含んで噛み潰したかのような苦々しい後悔の顔をして、クレルスの担任の佐藤を抱え、走る。


 立ち塞がる酒牙。大太刀をその手に、抜刀術の構えで腰を落とし、大太刀の柄に手をかけ、鞘を握る。


「団長の盾となれ‼道を創るのだ‼」


 人間の兵士達が酒牙の居合い斬りを受け、バラバラと、バランスを崩したジェンガのように、先程まで立っていたのが嘘のように崩れ落ちる。


 一応、酒牙は魔王軍の中でも、いや、この世界全体でも超上位の部類なのだ。クレルスとかサーシャとか聖女とかがおかしいだけであって。決してこの世界の中で弱いという訳ではない。


 酒牙が大太刀を両手で縦に構える。人間の兵士達が怯え、震えながらも必死に盾を構え、騎士団長のジーク・グラキオスを守ろうとする。


 しかし、長く、見るからに重そうな大太刀・鉄獅子。その切れ味を以てすれば斬鉄くらいは余裕である。刀身に魔力を纏わせ、振り下ろす。そこに割り込む影。


「死なせません。もう、誰も」


 佐藤愛華である。盾は持っておらず、唯一あるのは籠手だけ。その籠手は先程の一撃で砕け、クロスした腕だけで鉄獅子を受け止めている。


 腕は固く、空間が断絶しているのかのように斬れない。ギリギリと耳障りな音を立てながら鉄獅子と腕が拮抗し、遂には鉄獅子の方が悲鳴を上げ始める。


 ガキンッ


 酒牙のノーモーションのミドルキックの音。隙を突き、ガードはされていないが、おおよそ人体が発するとは思えないような硬質な音が響く。


 酒牙の預かり知らぬことだが、その漆黒だった瞳は灰色に変わっている。【不殺ノ魔眼】。外来の神々側に奪われた魔眼の一つ。遠山の慈愛ノ魔眼と同じく戒言系の魔眼。


 神々が慈愛ノ魔眼に狂気を仕込んでいたように、この魔眼にも■■が仕込んである。魔眼本来の能力は、自分が他者を殺せなくなる代わりに他者の自分に対する攻撃の一切を無効化する。


 永久のステイルメイト。いや、自分は一切の攻撃を受けないのに、他者は殺害こそ出来ないものの無力化は出来るのだから、どんな存在を相手どっても勝利できる。


 裏技として■■■■■をとったり、遠山の狂気が慈愛ノ魔眼を狂愛ノ魔眼に歪めたように、仕込まれた■■が暴発した場合は別だが。


「佐藤殿、今です、逃げましょう‼」

「しかし、まだ戦っている人が‼」


 反論する愛華だが、馬に騎乗したジークに無理矢理連れ去られる。少なくとも今は絶対に彼女が死なない事を知らないジークとしては彼女を命の危険に晒す訳にはいかないので、最善の選択なのだ。


「いいですか。本丸である王都と王城を奪還できればより多くの人を救えます‼無念なのは私も同じ。……しかし、しかし、今はより多くを救うために決断しないといけないのです。そのためには佐藤殿のお力が必要です……」


 全員なんて救えない。誰かを救うために誰かを救わない決断をしなくてはならない。分かっている。心中ではそれは分かっているのだ。それでも、無念そうな愛華。しかし、無情にも馬は疾く駆ける。

みんなの親族について

御子神、華谷家・超エリート大富豪。警察庁のトップやら外科医やら弁護士やら、親族が無茶苦茶優秀。そして本人らも優秀。やだ、何このチート


遠山家・ごく普通の一般サラリーマン。特に語るべき所がないザ・ベストオブ普通。みんな一般企業の社畜やってる。


田畑家・農家。アホみたいに土地は持っている。結構価値が高い所なので売れば大金持ち。祖先から受け継いだ土地という理由で売らない。農業でもわりと普通に儲けてたりする。隠れ富豪。


佐藤家・公務員。教師と役人で構成されている。佐藤愛華は東京都周辺に住んでいて東京に働きに行くタイプの人。千葉県民。一家の自慢は某千葉なのに東京な夢の国の近くに住んでいること。家から見える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ