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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
33/56

蹂躙、略奪、真勇

「『疾ッ』──‼」


 魔弾や魔纏のような弱い魔法、もしくは先程のように効率度外視で放つ魔法には必要がなかった魔法の詠唱。魔法スキルには、その力を制御するための詠唱がある。


 魔族のとある学者の一説によると、一種の自己暗示らしい。どのような言語でもいいのだが、暗示の掛けやすさ一位の魔族の神代語が魔族の中では使われる。


 余談だが、人間やその他人族連合はエルフ語を用いている。


 【嵐雷魔法】の内の一つ、【疾風脚】を使い音を置き去り駆ける。縦横無尽な機動では死ノ鎖が上手だが、死ノ鎖は発射してから何処かに刺す、もしくは巻き付けるという行程が必要なため、直線的な軌道であれば【疾風脚】か上手だ。


 勢いそのまま、田畑と華谷に近付き、その頭蓋を握る。


「クッ……何を‼」


 心臓の次に魔力が多いのが、多くの血管と魔力菅、魔法スキルを使う際に命令を伝えている管が集まる脳だ。握り潰しはしない。魔力を貰う。


 流石、魔法特化型勇者というべきか、魔力は潤沢。華谷は【魔力回復】の魔法で抵抗しようとするが、構築が遅く、また、詠唱のための口も手によって塞がれていたため、あえなく沈没する。


「これで暫くは戦えないだろう。邪魔だから寝ていろ。『飛べ』」


 簡単な【嵐雷魔法】で、魔力が尽き、魔力欠乏症を起こした二人を安全圏まで吹き飛ばす。受け身はとれずとも、そう酷い傷が付かない程度のスピードで。


 戦場において致命的な甘さと配慮。だが、その強さが圧倒的であれば甘かろうと勝てる。最強と名高い三代目魔王ジギル・アーラーンは、捕らわれた傷だらけの魔族を巻き込まずに逆に犬系獣人の万軍を殺さず捕らえたという。


 ───それが現在味方であるコボルト族の始まりだ。


 流石にかの最強程の力は無いだろうが、最強に一矢酬いられるくらいの力は持っていると自負している。なれば理想を為し遂げよう。


「クレルス───ッ‼」


 御子神がデュランダルを横に構えて斬りかかってくる。死ノ鎖を飛ばし、御子神の背後にある二階建ての建物に突き刺し、颯爽とその屋根に飛び乗り回避。そして振り返り、御子神を見下ろす。


「打て──ッ‼」


 クラスカーストで言えば二番手くらいの六人グループのトップ、佐伯菜乃花(さえきなのか)が指令を出し、全方位に散らばっていた二番手グループ、通称佐伯グループが遠距離攻撃を仕掛けてくる。そういえば先程、路地裏の戦いで矢を放ってきたのもこいつらだったか。


 まだぎりぎり効果の残っている【疾風脚】で加速された脚で屋根伝いに右方へと駆ける。空間を把握し、此方を囲むように放たれた矢と多種多様な魔法。


 【思考加速】によって遅くなった世界で右斜め前方からの矢を左斜め後方にバックステップで避け、即座に右にサイドステップで燃え盛る業火の竜巻から逃れる。


 その後屈んで頭を狙って放たれたミサイルのような魔法で形成された風の槍を避け、後方宙返り。上方から龍が喰らい付くように襲い掛かる雷を回避。そして雷が過ぎ去った前方に猛然と走る。


 中々連携がとれている。外れた場合の保健を用意し、相手を誘導するための攻撃の使い方も弁えている。普段から口にはしない言葉のやり取りをしている女子グループだけあってその無言の連携は素晴らしい。


 後方から追ってくる誘導巨大魔弾群。誘導のための攻撃をした四人に時間を稼がせ、場所を指定し、魔法特化の二人で編んだ術式だけあって強力無比。だが当たらなければどうということはない。


 両手のの死ノ鎖合計八本をバラバラに突き刺し、右手の死ノ鎖を用いてジグザグと稲妻のように機動。誘導魔弾がそれに合わせて右へ左へと揺れる。右へ揺れたタイミングで左手の死ノ鎖の四本の内二本(・・)を用いて左へと急旋回。


 目標を見失った誘導魔弾は大きく逸れる、が、それでもクレルスを割り出し、大回りの旋回で追う。再び佐伯グループの女子たちが足止めのために遠距離攻撃。そこにエルフの長が地味な嫌がらせの【雷電魔法】による狙撃をしてくるので鬱陶(うっとう)しい。


 身を、まるで海を泳ぐペンギンのような体勢と動きで捻り、遠距離攻撃を回避。先程降り立った二階建て家屋とは道を挟んで反対側にある家屋の壁を走り、勇者の内の盾役である辰野誠(たつのまこと)に肉薄する。


 柔道部だけあって筋肉と体重があり、足腰が強いため、タンカーや重戦士にはぴったりだったのだろう。突然の肉薄に驚いた表情を見せ、少し怯むが、柔道で鍛えられた賜物たる精神で、通常の重歩兵よりも更に重いタワーシールドを振りかぶる。


 そのタワーシールドの攻撃に合わせて急停止。慣性力をもろともせずにバク転。日魔流闘術 体術───


土竜旋撃(どりゅうせんげき)──ッ」


 バク転に合わせて蹴りを入れ、あわよくば(おとがい)を狙い、脳震盪で動きを止める。が、実際は牽制が主な役割の、余り目立った戦果は挙げない技。しかし牽制技としてはとても有用な技である。


 案の定、辰野は攻めあぐね、中途半端な体勢で固まる。そして丁度いい位置にあるタワーシールドを踏みつけて、跳躍。誘導魔弾?──遅れてきて辰野に当たって全部誘爆した。


「やったか?いや、距離を稼いだせいでかなり減衰していたな。精々戦闘不能、か」


 他力本願。戦闘中に自己の力を極限まで温存し、敵の力を以て敵を制するという、親鸞が唱え、後に武術家が武術の哲学に組み込んだ武術の一種の(いただき)である。


「やれ、優雅に一服と洒落混みたいところだが、残念ながらそうは問屋が卸さない、か。神託者、だったか。面倒なモノを持ち込んだものだ」


 残心を解かず、来る天使に備える。とあるイタリア料理を出すファミレス天井に描かれているような可愛らしいものであれば良かったのだが、ここにいるのは誠に物騒な天使だ。


 それにしても何故あのファミレスには天使の絵が飾ってあるのだろうか?やっぱり日本人がイタリアっぽいって感じるからだろうか?


 物騒な両手剣を持った天使がその両手剣で此方の頭を叩き割らんと振り下ろす。現在の天使の武器は両手剣2、槍1、大盾1、弓1。先に倒した奴等は、厄介な奴を優先し、回復役一匹と遠距離攻撃手段を持つ魔法担当二匹、弓の片割れ一匹を倒しておいた。


 愚直だが速い斬撃。まだ左手の死ノ鎖の回収が追い付いていない。右に体をずらして避けるとすかさず切り上げてくる。更に今度は左に体をずらして回避。地が裂ける。亀裂が伝い、渓谷を産み出す。


 想定通りッ‼左に避けたことで右手が天使の真正面に。右手に握った死ノ鎖四本。それが二本づつ、先程天使を穿った時のように螺旋を描いて高速回転。【魔纏】で表面をコーティングし、保護。突撃槍(ランス)のような形状で死ノ鎖が猛獣の如く唸る。


 天使も馬鹿ではない。咄嗟に危険視し、防御の体勢をとるが、もう既に遅い。日魔流闘術 特殊槍術 金剛牙突(こんごうがとつ)・改 死ノ鎖


金剛貫神(こんごうかんこう)──ッ‼貫けッ‼」


 爺さんと婆さん、父さんと母さん、四人の類い稀なる戦士に因って編み出された日魔流闘術をついに自己流に改編し、俺だけの技にする。


 自分だけの武術。正確にはこれが武術と言えるのかは微妙だが。中学二年生あたりに憧れる人も多いだろう。ロマンという奴だ。そのロマンが、天使を構えた両手剣ごと穿つ。


 両手剣の天使の陰に隠れるようにして接近してきていたランサーの天使の首が突如、滑るように落ちる。首だけではない。四肢が滑り落ち、地面を赤く染める。今更だが、天使の血も赤をしているらしい。


 原因は勿論クレルス。カバーを外し、糸のようになった死ノ鎖を張り巡らせていた。左手の四本の内の二本(・・)を用いて急旋回。残りの二本こそがズバリ、このトラップである。


 ピアノ線、強靭な張り詰めたワイヤーが触れた瞬間高速振動するのだから正しく脅威。強欲ノ魔眼の収得によってもうすっかり忘れられてしまった、暗殺者という職種向けの力だ。とある有名な仕事人のような。


 斯くして、ランサーは死んだ。この人でなし‼


 更に盾使いを捕らえる。タンカーをしているだけあって他の個体よりも防御力が高い。丁度いいと、捕らえた盾使いごと、死ノ鎖を振り回す。まるで星球式鎚矛(モーニングスター)のように。


 真横で盾使いを振り回した後、遠心力を加えて発射。銃弾のようなスピードで、死ノ鎖が巻き付いた盾使いが大盾ごとアーチャーに向かって一直線。


 生物の肉体同士がぶつかったとは思えない程の轟音と衝撃が空を走る。盾使いをそのまま振り上げ、振り下ろそうとする。しかし、アーチャーの回復速度がクレルスの想定よりも速く、早々に衝撃から復活。逃亡を試みる。


 先程までの天使の優雅な戦いとは真逆。対極にある憐れで惨めな敵前逃亡。だが、それは抑えられる。魔王ケリーに因って。


 【血液操作】によって操作された血液が天使を縫い止め、硬直させる。天使を切り裂く程の力は無いものの、足止めには使用できる。


 ケリーに対する感謝と共に、クレルスはタンカーをモーニングスターとして振り下ろす。日魔流闘術 特殊棍術


重隕(じゅういん)髑髏砕き(ドクロくだき)


 アーチャーは潰れ、大地の小さな染みと化してこの世から跡形もなく消え去る。ボロボロになった盾使いを死ノ鎖の高速振動で切り裂き、染みを水溜まりに変えて残心。


「おのれ、………おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ‼……魔族ごときが、神の御使いをォ」


 神託者が言語を忘れたかのような怨嗟の呪詛を唱える。おぞましく、聞くに堪えない。中性的な美しい声が様変わりし、酷く耳にこびりつく。


 それを無視して御子神への対応しれっと斬りかかろうとしていた御子神を俺ごと、結界の中へ閉じ込める。


 死ノ鎖の技能の一つ、三点以上の短剣部を突き刺した点を結ぶことに因って結界を生成することが可能。それを八点。点が多くなるほど強靭な結界が生まれる死ノ鎖において最強の結界が生まれる。外から御子神を心配する他の勇者たちが攻撃を仕掛けるが、もろともしない。


「ハアッ‼」


 攻撃を程々にいなし、右手の拳を硬く、堅く握り締める。拳を捻り、回転を加えて胸骨を目掛けて振り抜く。日魔流闘術 体術 ───


破城(はじょう)心壊骨破しんかいこっぱ──‼」


 御子神の口から、空気と、血と、心が抜け落ち、絶望に染められ、崩れ落ちかける。そこに更なる容赦なき追撃。日魔流闘術 体術 独楽(どくらく)裏独楽(うらどくらく)


独楽演舞(どくらくえんぶ)


 従来の回転蹴りに加えて上段、中段、下段、踵落とし、アッパーカット。流水のような自然な舞による蹴撃の連続。そして最後に、……


「そのスキル、奪ってやろう」


 スキル、【真勇】を奪う。曰く、世界の法則をねじ曲げる力。曰く、自分の都合に世界を巻き込む特異点。主人公補正とでも言えるイレギュラー。所有者に、試練と力を与える異能。


 事実、ここまでことが人間側に巧く進んだのは間違いなくこのスキルのお蔭。このスキルが無ければ人間側は天使が出る前に敗北していた。


 そのスキルを、奪う。


「このスキルは狂愛ノ魔眼のように汚染はされていない、か。【略奪】開始」



※※※※※※



 段々力が抜けていく。


 このまま奪われるのか


 思えば何も、クレルスには勝てない人生だった。


 座学も、運動も常に敗北していた。


 あぁ、願わくば神よ。


 どうか一度だけ、彼に


 ───彼に勝たせて下さい。

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