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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
31/56

強欲の覚醒

 肺をやられた。血が片方の肺にたまり、呼吸を制限する。抜かれた短刀がクレルスの血を纏い、怪しく煌めく。


 死


 【並列思考】と【思考加速】を組み合わせ、最有力の未来をほぼ確実に演算。そしてその結果が死。このままではほぼ確実に殺られるという結論にたどり着いた。


 スキル乱用の影響で魔力が切れかけている。戦闘開始からずっと【魔纏】スキルを駆使し、身体能力の向上を図っていたのがここにきてまさか裏目にでるとは。いや、そもそもいくら魔力があってもこの短時間で【転移】スキルの発動など出来まい。


 死ノ鎖を伸ばしても、攻撃、防御、逃避、全て間に合わない。


 終わった。詰み。チェックメイト。一手詰みの詰め将棋。勿論俺が詰められる側。


(だが知らぬ‼


 更に考えろ、少しでも体を動かせ、少しの足しにしかならなくても【硬化】になけなしの魔力を注げ。暴発を起こそうが知ったことではない‼


 蔑まれようと構わない。ここで死ぬことはあってはならない。名誉を守れ。両親の名に懸けて、簡単にくたばる訳にはいかない‼


 逃げるでもない。勝つでもない。生きるのだ。唯、必死に生きる‼)


『汝、生きようと足掻くか?』

(は?何、この声、何処から?)


『再三は問わぬ。正直に答えよ。汝、生きようと足掻くか?』 

(イエス。ああ。生きたい)


『汝、誰かを恨み、殺さんとするか?』

(ノー。違う。今死にかけているのは自分の未熟。誰かを恨んでなどいない)


『汝、大望を持つか』

(大望といえば大望か?俺は唯、皆を救いたいとか正義のヒーローになりたいとかじゃなくて、唯、家族が笑顔で暮らして欲しい。それだけだが)


『善かろう。それは大望なり。汝、強欲ナル者。我を使いこなしてみせよ』

『ああ、ちょっと魔眼、なにしてるんだヨ。こういうときはちゃんと説明しないとネ』



※※※※※※



 ここは、何処だ?冥界か?クレルスの頭の中を疑問が埋め尽くす。さっきまで戦場にいたのが嘘のように何もない空間。辺りに魔法は飛び交っていないし血の一滴も落ちていない。まるで星の上、宇宙空間にいるような薄暗さと静謐(せいひつ)さ。


 いったい、何が?


「やあやあやあ。初めまして、だネ。ボクの名はゲレン。遊興の神ゲレン。端的に言うと一応中立を名乗っている魔族側の神カナ。と言っても、神の抗争なんて分からないカ……。それはともかく、まぁ、ボクの本質は嘘つきサ。ボクの名前のゲレンが魔族の古語の更に古語。神代の言葉で嘘つきだからネ」


 何処からともなく、この空間に似合い静謐な空気を纏った少女が現れる。


(神?GOD?この少女から溢れる妙な威圧感と気配は何だ?一応、対話はできるみたいだな。対話が出来るのなら何とかなるかもしれないが……。先程問い掛けてきた方か仲裁してきた方か。口調的には仲裁者の方に感じられるが……)


「嘘つきとか、態々対話が不利になるようなことを言って何がしたい?それとも会話する気すらないのか?」


「いや、流石に対話する気くらいはあるサ。しかし君、面白くてイイネ。レバート君ほどじゃないけど、初対面でこれだけ威圧感垂れ流してる神に対して高圧的に話せるのがポイント高いよネ」


 対話の意思があることに一先ず安心する。対話が出来なければ死んでいた。クレルスがそう確信するほどに両者の戦力差はかけ離れている。

 初対面で高圧的にと言うが、実際には気丈に振る舞うのが精一杯だっただけなのだ。


 しかし彼女は聞き捨てならないワードを言った。レバートといえば魔族が最初に思い付くのは四代目魔王レバート・アーラーンのこと。まるでレバート・アーラーンと知り合いで、似たような問答があったかのような言い方だ。


「先程の仲裁者か?先程の尋問は何だ」

「あぁ。一つ目はそうサ。二つ目については、君の(まなこ)に直接聞いた方が早いんじゃないかナ」


 そう言うと、遊興の神ゲレンと名乗った少女は何もない空間から手鏡を取り出す。すると、それを無造作に投げてこちらに渡してくる。


 手鏡を覗くと、瞳は煌めく黄金色に。虹彩がまるで竜巻のような形状に変型していた。これで目が見えているのが不可思議なほどに歪な虹彩だった。


「一応補足しとくケド、その虹彩モドキ、本物の虹彩じゃないから安心しなヨ」


『我は強欲ノ魔眼。汝が目。貴様の死の寸前に発せし魂の鼓動を聞き、貴様の力にならんとする魔眼よ』


 突如として脳裏に流れ込む情報、そして何より特筆すべしパワー。語彙力が無いのが恥ずかしいが、


 凄い‼


 ステータスを見てみると


──────

クレルス・ベルク


種族サキュバス、悪魔、ドラゴニュート、ゴーレム

ステータス


レベル83


力10300

体力9600

防御力10300

魔力11000

器用9300

知力10200


スキル

【魔弾:属性付与可】【魔纏:属性付与可】【魔壁:属性付与可】【転移】【思考加速】【平行思考】【完全記憶】【覚醒:限界突破、覇王、狂化、覚醒、真狂化】【幻影術】【竜化:竜鱗、竜爪、竜砲】【硬化】【複製】【念話】【強欲ノ魔眼:強欲、略奪、願望活路、嵐電魔法、嵐電耐性】【略奪者の勘】

─────


「まぁ、ボクから言うことは今は特に無いヨ。とっととあの天使共を倒して、君は愛する娘を救ってきナ。君と同じ魔眼による、神の呪縛から解き放ってあげるんだヨ。そして、願わくば、君があの神々を倒しうる者大成することを。幸運を祈るヨ‼【操作:祝福】」


 膨大な力を一身に受ける。そして空間が歪んで、割れて、消える。



※※※※※※



 戻ってきた。よし。って、何がよしだ。全然よくないッ‼何も状況は変わっていない。どうする、時間は経っていないみたいだが。


 何だ?見える。今までに無かった手が、得たチカラが、それによって広がった可能性が。これが【願望活路】の能力か。凄まじいな。


 スキルによる魔法の構築も、速い。早速、新たに得た【嵐電魔法】を解き放つ。


 竜巻が横向きに現れ、踏み締めていた重い瓦ごと遠山を突き飛ばす。何とか間に合った。


 遠山を魔力袋にするのは気が引けるが、背に腹は変えられない。絶対に助ける。そう心の中で宣言して、【強欲】によって魔力を奪い取る。


 【強欲】の能力は視界に入った者の魔力や生命力を奪い取る。

しかし、それだけでは大抵抵抗力が働き、雨水の一滴に等しい量しか得られない。だが触れることによって、より強力に魔力を奪い取る。


 間合いを詰め、遠山の頬に手を当てて魔力を奪う。奪い取った魔力で【魔纏】を展開し、光の回復属性を付与。肺を治す。遠山は美しく、嬉しそうにはにかみ、こちらを信じきった表情で目を閉じる。まるでキスでも待っているみたいに。


 脳に甘い考えが浮かび上がってくるが、即座に切り捨て、【略奪】を開始する。【略奪】は触れた者のスキルや魔眼を恒久的に奪い取るチカラ。魔眼が原因なら、魔眼を引き剥がす。


 【強欲ノ魔眼】の魔力が遠山を侵食し、魔眼を奪い取ろうとする。そして【慈愛ノ魔眼】改め【狂愛ノ魔眼】を見つける。


 これが、神々の呪縛……か。


 無理に剥がして何らかの異常が起きないように慎重に丁寧に剥がしていく。が、空気を読んでくれるほど、甘く都合のいいクラスメイトではなかったらしい。一斉に魔法が吹き荒れ、そして恐れていた天使がこちらに向かってくる。


 遠山を所謂、お姫様抱っこというやつで持ち、避ける。【思考加速】と【並列思考】の演算だけではなく、【願望活路】と【略奪者の勘】が最適ルートを教えてくれる。


 遠山を気絶させ、ゆっくりと慎重に降ろすと、クラスメイトと天使に向き直る。


 絶対に生き延びるという覚悟を胸に


「かかってこい。殺せるものなら殺して見せろ」

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