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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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開幕

 人間による包囲網が完成する。中距離で槍を構えて牽制する者、遠くから弓に矢をつがえる者、遠距離魔法や強化魔法の準備をする者。


 そして彼らを纏める聖女、皇帝、帝国十傑、エルフの長。包囲網の中心に近い位置で、各々武器を構える。じわりじわりと、紙を浸食する液体のように詰め寄る。


 破ることすら躊躇われるような緊迫感が漂う。だが、そんなことは全く御存知ではないのが我らがサーシャ。緊張感なぞ要らぬ。一点突破。薄い所を狙う。


「カアアアアッ───‼」


 猛獣の叫びのような声を上げて追いかける聖女。それに帝国十傑の筆頭、剛槍のザントが続く。それを阻むはジョーカス。その豪腕とミノタウロスの四足故の強靭な足腰。それを以て普通、持つだけで動けなくなるような重さの武器を振るう。


 魔剣サタン。人間に対して激しい怒りを、憎悪を抱いていたという悪魔からつけられた、魔族に神代から伝えられる、デュランダルやエクスカリバーに並ぶ伝説の武器。


 そして異常に重い大盾。三代から四代魔王の時代に活躍したゴブリンの最高峰とも、最底辺とも言われる凄腕職人、鍛炉が作ったと伝えられている。


 大昔の古代から残っているくらいには、壊れず、錆びず、丈夫なのだが、……扱える者を選別した上で更にふるいにかけるような激重武器ばかり作っている。


 理由として、一番挙げられるのが、現代人の弱さ。神代や古代の生物は強靭な肉体を持っており、空気中の魔力の濃度も現在より高く、今の生物がかつての戦いに参戦しても確実に、人間にすら敗北するとまで言われている。


 更に、考古学者の一説によると、魔盾ベルフェゴールや、御子神の持つデュランダルのような壊れないという極地を目指して武器や防具を作っていたと言われている。が、残念ながらもうその頃の文献は戦争で失われ、当然その頃から生きているなどいないので、真実は定かではない。


 その重い大盾で攻撃を受け止められ、動きを止めたが最後、魔剣サタンで胴と頭は分断される。それを分かっているからこそ、人間たちは動きをとめず、数の利を生かしたら戦いをする。


 ジョーカスだけでは耐えられないと察し、魔王が参戦。魔法戦を全て引き受ける。サーシャと同学年で、魔法の才は随一。サーシャとライバルでずっと技術を磨き続けた。敵から呼ばれた異名は吸血鬼。魔族に呼ばれた異名は全能魔法使いオールラウンドキャスター


 赤血ノ魔眼の能力の一つ、血液操作。一応、【操作】という才能が圧倒的にない限り使えないという微妙なスキルの特殊変化になる。【操作】スキルは、そのスキル名に刻まれる操作対象が細かくなるほど扱いやすくなる。


 血液なんて極限レベルで限定的なモノであれば、自由に、まるで手足のように扱える。実に戦場向きだ。戦場はいつだって血が流れ続ける。


 血液が人間たちを触手のように絡めとり、鎧の合間に入っては血を圧縮し、刄として切り刻む。嫌らしいと呼ばれる理由でもある。時間稼ぎには持ってこいの能力だ。


 その隙にサーシャたちベルク夫妻が連合包囲網を突破する。埒があかない。そう思った聖女。このままでは突破されるのも時間の問題。プランB、全勢力による打破に移行する。


聖剣・光輝断罪(エクスカリバー)‼」


 不味いッ。そう感じた魔王とジョーカスは咄嗟に避ける。だが、結果として、その必要は無かったかもしれない。寧ろ避けない方が良かった。聖女の大きな隙を逃すことになるからだ。


 聖剣の光と斬撃は放たれた。上空に向かって、だ。これは攻撃ではなく、連絡。いわば照明弾のようなものだ。誰も聖剣をこんなことに使うとは思っていなかった。


 サーシャですら、驚愕に目を見開く。

 そして遠くから響く大声。


「「よっしゃアアアアーッ‼」」


 獣王。そしてアマゾネスの女帝、ミラ。最高戦力たちが集まった。遅れて勇者も参戦する。そして余人が入ることの許されない究極の戦闘が始まる。一瞬ですら気を抜けない。


 彼ら彼女らは極限に集中していた。そう、集中し過ぎていた。集中は力をもたらし、脳の回転を早める。それは正しい。だが、視野を狭窄的にするのもまた集中。


 それだけしなければこの布陣には勝てない。その通りだ。魔族の精鋭の中の精鋭。他の魔族が入れば逆に足手まといになる程に強い。他の魔族がしているのは支援の強化魔法送りと他の場所の警戒。


 それは人族側にも言える。既に一般兵は引いている。彼らもまた邪魔でしかないからだ。勇者、帝国十傑、獣王直属戦士、アマゾネス四天王。数の上では圧倒的な優勢を保っている。


 しかし、個々の力では魔族に軍配が上がる。だからこそ、気を抜くなど言語道断。それが誤りだ。彼ら彼女らの頭からはすっかり、クレルス・ベルクのこと等抜けている。


 ───神敵にして仇敵と定めていたのに。


 サキュバスの魅了の力を応用した魔王の思考誘導。エルフの長に感付かれないように非常に微弱な魔力量で行っているため、ほんの少ししか効果はない。


 だが、戦場に立ち、雰囲気に呑まれ、アドレナリンが大量放出されている状況下なら、かけ算で本来の何倍もの化学反応ならぬ魔法反応を起こす。


「【幻術・透明化】這い寄れ、死ノ鎖」


 アマゾネスの女帝、ミラはふと考える。他の奴は足手まといだと分かる。だが、クレルス・ベルクは何処だ?


 少しの違和感は瞬く間に肥大し、微弱にも程がある気配に、天性の、人族随一の戦場における直感、【狂戦士の勘】が気付く。


「伏せろオオオオォッ‼」


 一体、どれだけの者が反応できただろうか。叫んだ当人以外に反応出来たのは、常に戦場に身を晒してきた聖女と皇帝、獣王。そして獣王直属戦士の中でも、気配感知に長ける兎人の女。


 凪ぎ払われる死ノ鎖一本。残りの七本は個人を狙っている。聖女と皇帝、獣王を狙った物はあえなく外れたが、残りの四本、獣王直属戦士の内、兎人以外の二人を狙った物と、帝国十傑を狙った物は胸を貫き、確実に殺した。


 獣王は鳥、隼の獣人らしく飛び上がり、クレルスの潜む路地に弓を射る。同時に兎人の女も自慢の脚力で一瞬の内に距離を詰める。寸分違わず、矢と蹴りは命中した。


「やったか!」


 誰かが叫んだ。勇者やベルク夫妻、そしてクレルス(・・・・)の地球組はげんなりとした表情をする。それ、死亡フラグだぞと、顔が雄弁に語っている。


 実際、クレルスは生きている。矢が突き刺さり、蹴りが命中したクレルスは霧のように粒子に成って消えた。幻術による幻影である。もうそこにクレルスはいない。


 所謂、「残像だ」である。


 敵を見失った兎人の真横に現れて逆に兎人を蹴り飛ばす。煉瓦の家屋を何棟か突き破る。そして見事な死亡フラグを決めた、何時だか戦った帝国十傑の剣士。お望み通り死ノ鎖を突き立てる。


 頭から貫かれ、即死。ついでに近くにいた勇者を目掛けて死ノ鎖を伸ばそうとするが、その蛮行を許す程、獣王は甘くはなかった。空を滑空し、体勢を整えると、器用に空中から多角的に矢を放つ。


 死ノ鎖で叩き落とすが、ここではいい的になるだけだ。死ノ鎖を路地の奥に突き刺し、引っ張ることで立体起動装置擬きとして扱い、一気に暗い路地裏に入る。


 それを追う獣王、ミラ、そして遠山。


「ようこそ魔獣の口の中へ。ここから先は俺のテリトリーだ」

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