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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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盤上遊戯

「全軍進め‼王都を奪還せよ‼」


「「「「ウオォォォォ‼」」」」


 鬨が挙がり、帝国軍、獣王騎士団、エルフの魔術師団、アマゾネス戦士団が大軍で押し寄せる。魔族軍が一時補給の為に立ち去った今攻めるにしては過剰過ぎる軍勢。


 この後、そのまま王都を起点として魔族と戦うという目的もある。ただ、この軍勢を動かす理由。それは皇帝。否、女帝というべきか。彼女の直感。「厭な予感がする」と。


 アマゾネスの女帝、ミラの直感が戦闘中に強く働く勘。それに対し、皇帝の勘は軍を動かす、大局を見る時に働く勘である。それが厭な予感を告げた。たったそれだけの理由で大軍を動かした。それだけ信用されているということだ。


「風の精がざわめいている。やはり、厭な予感がする」



※※※※※※※



「こうも、見事に引っ掛かるとは思ってなかったわ。向こうは皇帝の【覇王の勘】がある筈なんだけど。びっくり」 

「母さん、戦闘前にふざけるのはまだ良しとしても、間違っても気配だけは洩らすなよ。これまでの工作が水の泡になる」

「誰に向かって言ってるの?クレルス」


 王城の一角の屋根の上から見下ろすクレルスとサーシャ。サーシャは、向こうのかかり方の自然さに逆に疑念を抱いている。無理もない。何度も死にかけ、苦労させられてきたのだから。


 サーシャは戦場において無敵の称号を欲しいままにしている。だが、決して完全でも不死身でもない。殺されれば死ぬ。生物と言う枠組みに収まっている。


「神託が下ったんだと。向こうの神がアホなのか、それだけの戦力があるのか、それとも……何か別の要因があるのか」


 クレルスは知らない。何せ産まれてから、神と言う存在を認識したことはあっても、信仰したことなど一度もないのだから。盲信が、狂信が、生物の勘や理性を鈍らせることを。


 更には自分が、神にすら行動予測出来ない、イレギュラーだと言うことを。そしてイレギュラーがイレギュラーたる理由に、魔族の神とは違う、ある神が関わっていると言うことを。


『ダーリン、ジョーカス、準備はいい?』


 ミノタウロスの族長と自分の夫に【念話】、遠距離通信スキルで語りかけるサーシャ。返ってきたのは肯定の意。ミノタウロスの族長、ジョーカスはサーシャに次ぐ実力者。考えうる限り魔族最強の集いである。

 そして最後の1ピースから【念話】が届く。


『軍に指令は出した。あとは酒牙に引き継いだ。もう少ししたら合流する。エルフに悟られないようにこれ以上の【念話】は控えろ』


 魔王。魔族の長。それは世襲制ではない。民に選ばれた者が歴代魔王の遺体が収められている霊廟に赴き、認められた者だけがなれる役職。


 それは何か光る才能のある者にしか勤まらない大役である。何せ様々な個性的な種族を纏めなければならないのだから。歴代魔王の苦労譚も残されている。


 例えば初代魔王はその知略を以て国を治めた。三代目魔王は初代にも劣らぬ知性と今も尚、最強と言われるその力の両方を以て国を治めた。


 四代目は少し特殊で、三代目の親戚。だが、世襲ではない。特別な魔眼の力を持っていたと言う。三代目の意志を次いで聖光教会と徹底的に敵対しながらも、善政をしたと言う話だ。


 そして今世の魔王。吸血鬼と呼ばれているが、純血のサキュバスだ。その才能は四代目と同じく魔眼。赤血(せきけつ)ノ魔眼。能力としては血を操れるというもの。そしてもう一つ。彼女が異名として吸血鬼と呼ばれる理由。血を飲むことで力に変えられる能力。


「来たか」


 兵士の姿を発見する。手薄という誤情報を信じきっているのか、かなり雰囲気が緩んでいる。上官らしき男に注意されているが、無駄なようだ。



※※※※※※



数日前 帝国 演説中


「神託が下った。神はおっしゃられた。我等が正義を執行し、信じる道を進み続ける限り、敗北はない」


 普段は人前に出ず、存在すら疑われる程の神託者がわざわざ公衆の面前に出たことが功を奏したのか、帝国民はすっかり戦勝を確信している。これが信仰の恐ろしさ。人に取り憑いて、変えてしまう。



※※※※※※



「む、霧か?」

「魔力を感じる。自然ならざる物だな」


 皇帝の洩らした言葉にエルフの長老が答える。王都の民が亡命するまでの間、ジョーカス相手に時間を稼いだ実力者。帝国十傑の老魔導師の弟子で、単純な魔力量では師匠を越えている。


 魔法の才能も最上級で、最近では帝国十傑の老魔導師がいつ追い越されるか心配で憂いているらしい。そのせいで、帝国軍人の訓練が厳しくなっているのは余談である。


「この気配、サーシャ・シルバー‼」


 聖女が反応する。忘れる筈がない、天敵。何度も苦汁を嘗めさされ、つい先日、負けたばかりの仇敵。間違える訳がない。いない筈?そんな常識は棄てた。サーシャ・シルバーであればどんな不測の事態もあり得ると思っている。


 端的に言うと調教されている。


 突如の襲撃。隊列は乱れ、驚愕に目を見開く兵士。それでも流石は帝国軍人というべきか。ジョーカス相手に逃げ出した王国の兵士に比べればマシどころか上々である。


「敵影、四人、隊列を乱すな。少数が相手だ。囲め!サーシャ・シルバーと魔王には注意せよ‼」


 魔王も合わせて四人。そう、四人(・・)である。そこにクレルス・ベルクはいない。暗殺者は表立つモノではない。機をじっくり待ち、影から命を奪う者である。

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