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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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勇者と魔族

悔しそうにして壁を叩く男、クレルスの顔が、悔しさの表情から、邪悪ともとれるような、まるで人を騙した狐のような表情へと変わる。


「どうしたんだい?」


迎えに来たクレルスの父親、バウム・ベルクが尋ねる。とは言え、息子の感情を大方読めているのか、大して不思議に思っていないような聞き方だ。


「してやられたが、もう一つ、念のため並行して進めていた作戦がうまくいった。勇者の居場所は掴めた」


今、先程逃げられたばかりの勇者の居場所を掴めたと、普通に考えると妄言の類いに聞こえる言葉。だがバウムは息子を信じた。


息子は自分や妻を模擬戦闘で倒すために、あらゆる策略や謀略を手段として使ってきた。ならば今回も何かあるのだろうという無条件の信頼があった。



※※※※※※



勇者サイド

帝国


「ミラの奴、まさか本当に勇者を投げるとはな。クックククク。教会の頭のお堅い枢機卿どもが聞けばさぞお怒りだろうな」


全身鎧の兜の中から、反響して聞こえにくい声が聞こえる。勇者たちは驚く。中から聞こえてきた声は女の者だった。兜を外していないのは女ということを隠すためだろうかと、勘のいい者は推測する。


「んんっ、皇帝閣下。それ以上は控えるべきかと」


帝国十傑という、武力主義帝国でもトップクラスの武力を持ったもの。その中でも、かつてクレルスが戦った者と比べるのが失礼なほど強い者が帝国の王たる皇帝を止める。


クレルスが戦った者は十傑最弱。今いるのは十傑最強。同じ十傑でもかなりの差が開く。最弱でもかなりの実力者なのだが、彼は精神的にまだ未熟故の失敗が多く、最弱の烙印を押されている。


「受け入れ、ありがとうございます。それで、今後のことなのですが・・・・・」


「何、礼などいらぬ。その代わり、さっきの発言については黙っておいてくれ」


皇帝が少し茶目っ気のある声で言う。聞かれたらかなり立場の危うい類いの発言なので当然と言えば当然だが、皇帝には誤算があった。


「聞こえてますよ」


冷えきった聖女の声が響く。兜の下なので表情は見えないが、ぎょっとしたように振り返る様を見れば手に取るように焦りが伝わってくる。


「あー、黙っておいてくれぬか、ほら、女子会仲間のよしみで、な」


「はぁ、分かりました。次はないですからね」


そんなやり取りと、女子会という文化がこの世界にあることに驚きつつも、御子神が代表として話しかける。社交能力は普通の一般市民の割にはかなり高いことに定評のある御子神を皆が期待して眺める。


「それで、今後のことなのですが、まずはぐれた友人たちは、どうしてるか分かりますか?」


「えー、皇帝閣下に変わり、失礼ながら、私が説明を致します。まず、御友人の方々に関しましては、今回の件で、一ヶ所に固めておくのは危ないと感じ、各国に散らばらせて頂きました。しかし、あの場で亡くなられた方々以外は全員、無事を確認しています」


まさに紳士といった雰囲気の言葉遣いをする、先程皇帝を止めた帝国十傑の一位が説明する。生き残りが無事だという安堵とともに、死んだクラスメイトがいるという現実に押し潰されそうになる。


「何で、クレルス君は、あんなことしたのかな」


皆が押し黙る。聖女や教師も安易な答えを出すことはできない。そんな中、一人、事情を知らないが故に平然としている皇帝は問う。


「その者は魔族なのだろう?ならば人と戦うのは世の常。戦争だから、そこ一言に限るだろうな」


戦争。平和な日本では社会科や道徳の授業でしか聞かない遠くかけ離れた世界の出来事。その言葉が身近な現実となってまるで体の中に鉛を入れたかのような重みという形で心にのしかかる。


「あの、一ついいですか?」


「何ですか?」


田畑の問いに先程までのサーシャとの罵倒しながらの激戦がまるで嘘だったかのように優しく、お淑やかな口調で聖女が話す。その姿は疲労に押されていても、一輪、そこに咲いて全てを魅了する百合の花のようだ。


「もし、クー・・・・・、クレルスと戦うなら、私にやらせて下さい」


場が、南極でもこうはなるまいというほどに凍りついた。

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