表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
20/56

聖女

「王都はもうじき制圧できる。いい加減諦めたらどう?」


「諦めません。今回は王都を制圧されました。しかし勇者たちを逃がせました。住民の避難も直に終わる。ならばまだ希望は残っている。この状況、諦めるにはまだ早すぎる」


「そう。なら、先に貴方を殺すわ」

「死ね、クソ魔族」


 王城の一郭。移動しながら破壊と殺戮の嵐を巻き起こして進む二人。通った後に残されるのはかつて何かしらの物であったであろう残骸のみ。


 移動を辞め、向き合い、それだけで死にそうなほどの殺意をその視線に込め続ける。ネズミは卒倒し、虫は跳梁跋扈し、鳩は空から地へと縫い付けられる。。中二病の人間が書いた文章のような地獄絵図のような場所がそこに作られる。


「4年前の私と同等にあつかうな。貴様が生きている可能性に備え、今度こそは確実に殺せるようにと鍛え続けた。受けろ‼聖剣・光輝断罪(エクス・カリバー)ッ‼」


 聖剣の力を解放する。神々の顕現した時代に残されたという聖遺物。それが聖女のもつ聖剣。帝国に伝わる不壊の剣と同等以上の力を持っている。


 荒々しく合理的な一撃が真っ直ぐ振り下ろされる。聖剣が光を纏い、圧倒的な風圧がサーシャに降りかかる。一方のサーシャは腰を落とし、刀を鞘に収めている。


「日魔流闘術 奥義 岩無空然(がんむくうぜん)遡上鯉(そじょうごい)


 刀の鞘の尾をを太刀のように上に向け、抜き、切り上げる。刀にはこれまでよりもさらに濃密な闇の霧が纏われる。聖邪が交錯し、風圧が辺り一帯を襲い、建物を破壊する。


 押し合い、ギリギリと不快な音がなる。最初は互角であったが、徐々に闇の霧が光を飲み込み、押されていく。聖女も更に力をこめる。だが押し返すことは叶わない。


 聖女の目が驚愕に染まる。全てをつぎ込み、確実に殺すための一撃だったが故にその驚きは大きい。ついには完全に押しきられ、聖剣は弾かれる。闇の霧が体に纏わりつく。毒は神の加護で中和できるが、魔力を吸いとられる。


 闇の奔流が終わった後、そこには綺麗な更地が広がっていた。一方は静かに佇む。もう一人はぼろぼろになりながら息を荒々しく吐き、何とか立っているといった具合。


「4年?甘いわ。私は25年よ。例え貴方に神の加護がついていようとも、私の百年を超える魔生とこの世界を去ってからの25年。そうそう追い越せる訳がないわよ」


 そう言って聖女に歩み寄るサーシャ。聖女は動けない体に無理を聞かせて必死に動かす。こんな体で目の前にいる女に勝てる訳がない。ある種の信頼を以てそう確信している。


 体は冷えきっており、足は棒で、魔力は空っぽ。幾度の戦場を超えてこれが初めての敗北。過去に引き分けはあれど只の一度の敗走もなく、魔族からは理解されない。と、固有結界が発動しそうな状況。


 客観視もするまでもなく絶望的状況だ。それでも心は折れていない。そこに絶望があろうと確実な死が待っていようとも無様に生き足掻き続けるのが自己流だと、そう思って生きることを全く諦めない。諦めは一番嫌いな行為だから。


「止まれ、サーシャ・シルバー」


 静かな声が何の前触れも気配もなく、されど聞く者の耳に響き、妙に残る、男とも女とも取れない中性的な声が鳴り渡る。サーシャは警戒する。ここまでの気配遮断、相当なやり手だと睨む。


「神託者か」


 何者かと思案している最中に、聖女がその者の正体を口に出す。神託者。神の声を聞き、その言葉を神の代弁者として伝える者。聖女と並ぶ聖光教会の最高権力者。滅多に人前に出ない引きこもりで殆どの者が正体を知らない。


 と、知っていることを頭の中で並べ立てる。顔の前には布を垂らし、その顔を見ることは出来ない。服も起伏がわからないような大きな布を羽織っているので本格的に性別が謎だ。


「今回は退くぞ、聖女。サーシャ・シルバー、また会おう」


「逃がすと思う?」

「止まらんだろうな。だからこそ、【神言】を伝える。止まれ、サーシャ・シルバー」


 聖女に止めを刺すために動いていた体が不意に止まる。一瞬。即座に暗示の類いだと察したサーシャは膨大な魔力と強靭な精神を以て弾き返し、再び走り出す。


「【転移】」


 しかし聖女は神託者とともに眼前から消えていた。スキルの構築のスピードが半端ではなく早い。相当な【思考加速】系スキルの持ち主だろう。【転移】は構築時間と燃費が大きなデメリットの筈。それをあの一瞬でするとは。侮りがたい。


 そして一番の問題点はあの【神言】というスキル。一瞬。ほんの一瞬。それでも精神を少し持っていかれた。暗示は産まれてこのかた全て無意識で弾いてきた。暗示かかった経験は一度、暗示にかかってみたいと思って自分自身にかけた自己暗示くらい。


 それなのに、そのくらい強靭な精神と魔力を持っているというのに一瞬だが、たった一言で暗示にかかってしまったという事実。あれは危険だ。夫と息子とけーちゃん辺りは関係ないだろうけど他の者がかかれば最悪向こうの傀儡になる。


 まずい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ