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集団召喚、だが協力しない  作者: インドア猫
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決別

「息子に言うのも何だが、お前の母ちゃん頭おかしいぞ」

「過小評価のしすぎだな。頭どころか肉体もおかしい。本当に化け物かよ。クソッ……こういうところを直せば非の打ち所母親何だが」


 場を沈黙が支配する。皆が苦労人の姿に注目し、押し黙る。その中、おずおずと声をだすミラ。

「苦労、してんだな。敵だけど、頑張れよ」


 怒濤の勢いで周りの人間、特に王国の人間たちから同情されるクレルス。敵同士なのに何故か場がしみじみとした雰囲気になる。当の本人たちは気にせず殺しあっている。


「何か雰囲気ブチ壊れたんだが、取り敢えず、ヤるか」

「あー、ウチの母親とそっちの聖女が全部悪い。気にするな」

「あいつも何かたまに脳筋何だわ。アマゾネスもびっくりするぐらい。つってもまぁ普段はいい奴だから友達やってんだが」


 話し合いも程々にして開戦する。決戦で盛り上がっていた雰囲気が壊されて微妙になり、やる気が失せても戦争なので仕方ない。双方ともにそう頭に思い込ませる。仕方ない。仕方ないのだ。大事なことなので二回言った。


 死ノ鎖がうねり、穿つ。相対する側はそれを獣のように走りながら弾く。クレルスからは目を離さない。鎖は見なくても直感が場所を教えてくれる。


 剣の間合いに入り、縦横無尽に振るう。それを死ノ鎖の持ち手を指に挟みながら硬化させた竜の爪で弾き返す。火花が散る。衝撃が走る。直ぐに二撃、三撃と剣を力の限り振り続ける。


 鎖が戻り、短剣が背後からミラを突き刺そうとする。それをあろうことか、某緑の勇者のごとき見事な回転切りでクレルスごと吹き飛ばす。最近の緑の勇者、当たり前を見直して水色の勇者になったり槍とか両手剣とか色んな武器使ってるけどあんな感じ。


 【魔壁】を三重に張って防ぐも後ろに飛ばされる。【魔壁】を再度、後ろに展開し、踏み台にして直進。回転切りの直後の隙に付け入る。


 その手には逆手持ちで死ノ鎖の先端の短剣部分が握られている。横から大振りで、弧を描くようにして切り裂く。それを手に嵌めた籠手で防ぐ。


「甘ぇ‼」

「想定内だ」


 クレルスはもう一方の手に握る短剣を使い、下から斜めに切り上げる。剣から手を離し、防ぐという二回のプロセスを踏んでいたら間に合わない。当然剣で防ごうにも今から重い剣の刃で短剣を防ぐ余裕などない。最善手は回避に見える。


 しかし回避せず。剣から手を離さず。刃を当てにもいかず。剣の柄の先の方を少し動かし、人外としか言い様のない筋力を以て柄で受け止め、最短最小の動きで防ぎ、全く隙を作らない。


 そのまま剛蹴。男の弱点を狙い、寸分違わない。それを見ていた男たちが声にならない悲鳴を上げ、見つめる。


 誰もがおそらく彼に伝わるであろう痛みと不幸に目を背ける。だがその足がクレルスの股間を穿つことはない。上がることすらない。


 聞こえるのはギリギリと小さく鳴る金属の擦れる音。ミラの足を締め付け、地面に縫い止める死ノ鎖。短剣として使っている二本ではなく、もう二本で足を縛っている。


 クレルスが蹴りの体制に入る。片足は縫い止められ、両手はふさがり、脱出や体制を変えて回避しようとすれば手が力負けして短剣が襲う。


 直感で避けられるなら避けられない状況を作ればいい。直感に罠だと気付かれる可能性があったが、相手の性分的に罠を食い破るタイプだと考えたため、一つ一つの攻撃の危険度をわざと下げて対応させた。


「野郎、ッ‼」

「腸を、ぶちまけろ‼」


 ミラが腹筋に力を込め、歯を食い縛り、魔力を鳩尾に集中させる。だがそんなものどうしたというのだ。ドラゴニュートの筋肉の前に屈する。足が鳩尾を捉える。


 ブーツを突き破り、展開されていた竜爪がミラの肌を破って食い込み、内蔵に突き刺さり、吹き飛ぶことを許さない。後ろに飛んで衝撃を逃がすことを許されないため、発生した衝撃が内蔵に直で伝わり、傷ついた内蔵に更なる負荷を与える。


「ガアァァァ‼【気合い】‼」


 考える。何せツッコミどころが多すぎる。(おいおい何だよそのスキル。ネーミング適当だな。というかそんなスキルあり?そもそも気合いで何とかできるのかよ)と、いった感じだ。


 だが問題はその瞬間、気合いに気圧され、0.1秒でも怯んだことだ。ステータス、スキル、技術どれもほぼ互角のこの勝負は常人が『たった』と思う一瞬一瞬、一手一手の差で決まる。油断も隙も許されない。


 籠手で防がれていた方の短剣を弾かれ、拳を自由にしてしまう。一瞬でも十二分。見事なストレートが腹を抉っていく。硬化を使っても余りある威力。一瞬で貯めたにしては強すぎる。おそらく火事場の馬鹿力という奴だろう。


 ダメージを受けた隙にミラが血が吹き出るのも構わず、【竜爪】から抜け出し、駆ける。勇者を一瞬の早業で数人を一束にして縄をくくり、崩壊した城から飛び出す。


 崩壊して一階分抜けたとは言えかなりの高さがある状況で正気の沙汰とは思えないような思いきった行動だ。


 この勝負、ミラの勝利条件は勇者を逃がすこと。クレルスの勝利条件は勇者を殺すこと。決して互いの勝負に決着をつけることではない。


 このままだと逃げられる。そう判断すると強烈に自己主張してくる痛みを堪えながら駆け出す。だが遅い。飛出したミラとの距離はかなり開いている。飛び出す。四枚の羽をうねらせ、死ノ鎖を民家の屋根に突き刺し、引っ張ることで加速する。


 ミラは【念話】を発動し、知り合いに連絡する。目視したのは追い付こうと足掻くクレルス。このままでは追い付かれるのも時間の問題。何もない虚空を蹴る。普通ならそのエネルギーは虚しく散るだけだ。しかし爆発的な衝撃が起こり、加速する。


 死ノ鎖を必死に伸ばすも、あと少しで捉えきれない。本当にあと少し、リンゴ一個分くらいの距離。それが余計に焦燥感を掻き立て、イライラさせる。手を伸ばす。魔力を固め、魔弾にして撃つ。大声で叫ぶ。


「当たれええええッ!」


 クレルスの口から裂帛の気合が迸り、魔力によって大気が歪む。空間を裂き、魔弾が標的を目掛けてただひたすらに突き進む。無我夢中。死ノ鎖を動かすことすら忘れ、一人でも多く殺そうとする亡霊のごとき執念。任務への献身。


 だがその魔弾が急に衰える。体が急速に熱され、目眩を催す。オーバーヒート。魔力の使いすぎによって魔力が余っていようと無かろうと体が悲鳴を上げ、魔法の行使を無理矢理抑えてしまう現象。クレルスの魔力はまだ四割近く残っている。


 しかし魔弾は衰えたとは言えども、依然として殺傷能力を秘めており、このまま行けば一人や二人であれば殺すことも出来るだろう。オーバーヒートの最中、扱えるだけのすべての魔力を以て、最後に魔弾に命令する。


「行けえええええ‼」


 ミラに防がれるかもしれないと思った。だがそれでも進ませるしかない。だが意外なところ、本来警戒すべきだが怠っていたところから邪魔が入る。


「これで決別だ、クレルス。不壊剣・絶世降臨(デュランダル)‼」


 御子神がその手にもつ剣を、クラスメイトからの強化とともに振り下ろす。帝国に伝わり、勇者の為に献上された不壊の剣。地球のそれと同じ意味を以て名付けられた伝説の剣の名を叫び、その力を解放する。


 魔弾が掻き消える。オーバーヒートの状態で無理矢理魔力を使った影響で熱された体が思うように動かなくなる。驚異が去ったことを確認したミラはその人間とは思えないような腕力を以て勇者たちを、ぶん投げた。


 急な加速と縄を回して投げられたことによって勇者たちに強烈な重力と遠心力がかかる。理科が苦手な者も、今この瞬間を以て力の範囲の実習を自らの身体で体感したことによって完璧に理解した。


「ぎゃあああーーーーー‼」


 ジェットコースターもかくやの絶叫が走り、その声が段々と遠くなっていく。逃げられたことを確信し、自分に対して不甲斐なさが襲う。そんな中、やけに明瞭な音が耳に届く。


「今回の勝負は預ける。次こそ決着だ。クレルス、精々訓練して待っとけ‼」


「クソッ……」


 自分の口からか細い声が漏れでる。勝負はお預けと言われたが実質は勝ち逃げされたも同然の結果だ。次があるのなら次こそ、次こそは勝つ。



ーーーーー



「クソッ」


 大局を見れば勝ちだ。誇るべき勝利だ。でもやってることは無様な敗走。次こそ決着とか言った。でも敗けだ。

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