殺す覚悟
「先制攻撃を仕掛ける!」
魔王、ケリー・Q・エバンスは宣言した。このまま悠長に勇者の成長を待ってやる義理もない。兵は少ないが、今が好機。突貫すると。
皆その言葉に賛同した。ある程度の回復は済んだ。これはクレルスの母のサーシャと父のガウェウスの尽力の賜物である。
作戦も概ね決定し、会議は終結した。が、魔王様に呼び出された。内容も、言いたいことも分かっている。覚悟は、とうの昔にしている。
人を殺すことに躊躇はない。それが戦争だ。罪なき無辜の民はともかく、軍人が戦場にて散るのは軍人になった者の定め。それに、人間の国は、というかこの世界の軍人は職業軍人だ。
なら殺すことに躊躇わなくて済む。だが言いたいのはそこではない。クラスメイトと、友と対立し、場合によっては手にかけなくてはならないということだ。
「クレルス、もし、友を殺せと私に言われたなら殺せるか?」
辛い、キツい選択をさせているのは分かっているのだろう。だから、声のトーンはいつもより低く、自分に命令されたらという仮定をつけることで責任を持とうとしている。
クラスメイトと言っても、半数以上はどうでもいい。ただ、田畑、遠山といった親しい奴らを果たして俺は殺せるのだろうか?
何のために戦争に参加しているかと聞かれると、魔族を排他し、皆殺しにすべしという他の種族の考えが気に入らないからだ。
だが今勇者と呼ばれている者たちは被害者なのだ。それを殺すということは無辜の民を殺すことと変わらない。後々脅威になるかどうかだ。
これは父さんにも母さんにも言われた。不服だが、人間側の者たちにも常々言われてきた。戦争を舐めるなよ。生半可な気持ちで参加するなと。
覚悟は、決まっている。
「殺せます」
そう、出来るだけ明瞭に、そして出来るだけ不安感などを外に出さない様にしながら言った。この言葉を発した以上、後戻りはできない。
分かっている。分かっているさ。自分はきっと迷うだろう。今までの記憶を思い出すだろう。そして殺した後で悲しむだろう。
そういうものを、未練を、迷いを、断ち切り、剣を決して鈍らせないためにも、ここで言葉に出し、しっかりと覚悟することで殺せるように。そういう意図を込めての一言だ。
それに対する返答は、
「分かった。ならばその力、一大戦力として大いに期待する」
という者だった。その言葉の奥に大きな慈愛が、優しさが、あるのが分かる。気を使われたな。気を使わせないようにしたのにな。
親しい者を殺す覚悟。それは厳しい。それを心を鬼にして成した人々に深い尊敬の念を抱いた。




