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4.考えてみれば無かった、居住

「リュステニア王国ユーレリア地方の教会で、わたくしアリシア・バートラントとミルオーデ・テルメスタの結婚式が行われる当日、控室から出ようとしたわたくしは突然変な感覚に襲われ、先程の草原に放り出されたのですわ。」


街に着いたが特にイベントらしいイベントも起きなかった。とりあえずクエストの報告だけはして、ターリスアインという宿屋兼酒場に集まって素性を聞いているところだ。

ウェディングドレスの理由は分かったが、それ以上の事は不明だ。地名も名前も聞いた事が無いし、ヘルプにも載っていない。

イベントが起きないのであれば、付き合う意味も無いので、俺は次のクエストに出発しようかと考えていた。


「わたくしとしては、バートラント子爵家の娘としてテルメスタ男爵家に嫁ぐのは不本意でしたので、結果としては悪いとは思っていません。ただ、帰れないのは困ってしまいますわ。」

テーブルに座りアリシアは肩を落としてそう言った。

どっかに貴族の島でもあるのかもしれない。

が、興味無い。


「アヤカ、次のクエストどうする?」

と、聞いた瞬間、何故か鋭い目つきで睨まれる。俺、なんかしたかな?

「一度クエストを一緒にしたくらいで、随分と馴れ馴れしい態度ですわね?」

・・・

いや、そうかもしれないけどさ。

もうちょっと言い方ってあるんじゃないのかな・・・

「そりゃ申し訳ありませんでした。」

俺はそう言って席を立つ。貴族の令嬢にも財閥の令嬢?にも関わるんじゃなかったな。もういいや、とりあえず一人でクエストの続きでもやりに行こう。

何の為にログインしてんのか。

まだログインして最初のクエストしかやってない。今日中に、もう幾つか終わらせておきたいところだ。せっかく楽しみにしてたんだからな。

俺はそう思いながら、ターリスアインの出口に向かって宿屋を出ると、新しいクエストの情報を受け取りにクエスト屋を目指した。


クエスト情報を受け取った俺は、システムデバイスから内容を確認する。

(うーん。薬草の納品と、氷トカゲ10体退治、銅石の採集か。クリア後の報酬以外にも、薬草の納品は薬の調合解放、銅石は鍛冶が解放か。装備は重要だよな、銅石から行くか。)

場所は街から北にあるウゼンナ山、そこで採集が可能だ。クエストを決めた俺はシステムデバイスを閉じて、早速向かう事にした。

・・・

街の出口の方に顔を向けた瞬間、並んで立っている令嬢s’がいた。

別に俺を追って来たわけじゃないよな。クエスト情報を取得しに来たんだろう。

「じゃぁな。」

そう思うと、俺は言いながら二人を避けて街の出口へと歩きだす。馴れ馴れしいとか言われるのも癪だから適当に挨拶をして、これ以上関わらないように。

「一人で行こうとするなんて、酷いと思いませんの?」

「女性をエスコートするのは殿方の務めではありませんか。」

・・・

堪えろ、俺。

相手にするだけ俺が損だ、疲れるだけで得は無い。二人の態度がかなりむかつくからと言って、相手にしたら負けだ。

ふう、よし。

何とか堪えた、無視してクエストに行こう。

「今度は銅石を集めるようですわ。」

「情報も今は得られませんし、あなたたちに同行しますわ。」

って付いて来る気満々かよ!何で俺の行先がばれたんだ?

あ、パーティ解除してないからか・・・。

「俺は馴れ馴れしいから嫌なんだろ。」

「確かに馴れ馴れしいとは言いましたけれど、嫌とは言っていませんわ。」

「女性を置き去りにしようなど、殿方として恥ずかしいとは思いませんの?」

なんなんだ、こいつらは。俺に何を求めてんだよ。考えてる事が全然わからねぇ。

「私は疎いのですから、慣れるまで付き合いなさい。」

しかも命令来た・・・。

「へいへい。」

もうどうにでもなれ。

メリットと言えば早く数がこなせるところだが、この調子じゃ一人でやった方が早い気がする。遅れていく上に、貶されるとか俺だけ損じゃねぇか。

まあ今更だけど。

「ところでアリシアの服装は変わらないのか?流石にその恰好では行けないだろう?」

「言われてみればそうですわ。何処かに服を売っているお店はありますの?」

NPCなんだかプレイヤーなんだか不明だけど、プレイヤーなら初期装備渡されるもんな。でもNPCって感じもしないんだよな。


俺とアヤカは装備品の店にアリシアを連れて来ていた。ってかゲームの中なんだから、服装変えられるところなんてここしかない。もしかすると、別の場所にあったり、後で出来るかもしれないけど。

ゲーム内で街中を歩くのに、見た目変えられたらって思う奴は絶対いるはずだ。そう考えれば出来る方が当たり前な気がする。

「お待たせしましたわ。」

女性の着替えには付いて来るなと言われたので、待っていたところにアリシアが出て来る。

ってかもしプレイヤーなら、システムデバイスから選択すれば書き換わるだけなのに・・・。

「お・・・闘えるのか?」

腰に下げた細身の剣を見て疑問を口にしてしまう。パンツスタイルにロングブーツ、武器はレイピアみたいだが、プレイヤーの武器にレイピアは無かったと思う。

そうなると、やっぱりNPCなのかという気がした。

「これでも子爵家の娘、剣くらい扱えて当然ですわ。」

貴族の嗜み?かどうかなんて知らないし興味も無い。そもそも俺の周りには、貴族なんて居ないのだから、生活スタイルなんて知るわけもない。

「まぁ、それならいいんだが。」

俺とアヤカの武器は消えていて、アリシアの武器が見えているのはやはりNPCか。となると、このまま同行していたらイベントかクエストが発生するかもな。

面倒だが、ここは連れて行くしかないな。

「それじゃ、向かいましょう。」

俺たちはアヤカの言葉で、ウゼンナ山へ向かって出発した。




暗いマシンルームでは何十ものラックが建ち並び、搭載された機器が闇の中にランプの光を撒いている。それは赤だったり橙だったり青だったり緑だったり、多種の色を鏤めているようだった。

そのマシンルームの片隅にある小さい部屋からは、白光がマシンルームを照らすように漏れていた。その部屋では二人の男性が話している。

「プログラムが正常に実行されました。」

椅子に座った若い男性が、背後に立つ眼鏡の中年に向かって言う。二人は幾つもあるディスプレイを注視していた。

「これで、存在の証明が確認されたわけだ。」

「はい、予定通り他のプレイヤーと接触しましたので、これより観測へと移行します。」

若い男性が手元に映る液晶キーボードを忙しなく指で触れながら、背後の男性へと言った。

「うむ。」

中年男性はその仕草とディスプレイを見て頷くと、言葉を続ける。

「一旦様子を見よう。そのプログラムはサーバーから削除しておけ。」

「はい。ログの方は改竄しておきますか?」

「念のため、やっておくか。」

椅子に座った男性の問いに、中年男性は少し考えてそう答えた。

「分かりました。私としてはサーバーのログよりも、アハトサーバーのみにファイアウォールで開けているポートの方が心配なのですが。」

「仕方あるまい。ネットワークを別にするよりはましだろう。何処かに穴が無い限り、計画が立ち行かないのも事実だ。」

手を休めずに懸念を口にした男性に、中年男性は若干諦めを含んでいるように答えた。

「そうですねぇ。」

「どのみち管理者は我々だ。何か問題があったところでログを公表するわけでもなく、不具合情報に対する修正内容を出せば済むだけの話しだ。」

「社内に出す情報もこちらで精査出来ますし、その点は適当に誤魔化せるので気にしなくてもいいですね。」

「ああ、誰かが穴に気付いてしまわない限りはな。」

二人は不敵な笑みを浮かべながら会話していたが、その視線は常にディスプレイに固定されていた。映される映像と、流れる文字に対して眼球だけが動いている。

「でも、凄い事を考えますよね。」

「我々にとっては面白い結果だがね。それなりの資金も提供されている。後は望まれた結果を提出出来れば大躍進だな。」

「だといいんですが。」

「このプロジェクト・エデンも第二段階に移行したんだ、もう我々が抜ける事は出来ない。いや、抜ける事が許されないと言った方が正解か。」

「成功するにしろ、失敗するにしろ、もう地獄まで一蓮托生ですね。」

男性は手を止めると、後ろは振り向かずに苦笑混じりに言った。

「この話しが来た時点で、初めから分かっていた事だ。選択肢が無い事もな。今更もう足掻く気力も残ってはいない。」

中年男性は生気の無い瞳をディスプレイに向けたまま、力ない声を漏らした。

「帰って休んだらどうですか?」

男性がそう言うも、中年男性は首を振る。

「それも今更だ。殆どの時間をこのプロジェクトに費やして来たんだ。それに移行直後で気を抜くわけにもいかないだろう。」

「そうですが、身体を休めなければ仕事にも支障が出るのではないですか?」

男性の言葉に、中年男性は考え込む。

「一理あるな、社内のアトリウムで休憩でもしてくるか。」

「そうじゃなくて、家に帰ってしっかり休んでくださいよ。」

何を言っているんだこの人は、そんな事を思い苦笑しながら男性は突っ込んだ。

「家に帰っても特にする事も無い。酒を飲んで寝るだけなら、移動時間分社内で休んだ方が建設的だろう?」

「そう・・・ですか。」

男性はうっかり余計な事を言ってしまったと思い、返事が曖昧になった。

「仕事仕事で妻と娘に逃げられたんだ。家に戻る意味もさほど無くなったが、このプロジェクトを受けた以上二人にとっては、私と離れた事は正解だったろう。」

事情を知ってはいたが、軽はずみに家に帰れと言った事を男性は後悔する。

「僕には、何とも言えませんけれど、確かに彼女がいたとしたら、巻き込みたくはないですね。」

同時に、中年男性の言っている事も理解出来た。

「そうだな。だから妻が自分から出ていってくれた事は、むしろ良かったと思っている。いや、このプロジェクトが無くても私からは離れていただろう。」

男性はなんと言っていいか分からずに、沈黙で返した。

「それはいいとして、少し言葉に甘えて休憩でもしてくるか。」

「どうぞ、ごゆっくり。」

「社内には居る。何かあればすぐ連絡をくれ。」

「はい。」

男性は暗い話しから解放された事に安堵しながら返事をして、中年男性が出ていくのを耳にする。それから目の前のディスプレイに集中する事にした。




「よし、今日はこの辺にして寝るか。」

「そうですわね。」

幾つかのクエストを終わらせたところで、解散する事にした。もうすぐ深夜零時が近付いている事に気付いて。

「そういえばわたくし、この地で住む場所がありませんわ・・・」

気付いたアリシアがそう言って落胆した。

本当にどういう設定なんだろうな。他の奴にもアリシアは付いているんだろうか?パーティ組んだらイベントが発生するとか?分からねーな。

「俺の部屋を使っていいぞ。どうせログアウトするし。」

「そ、そんな真似、出来ませんわ!それにろぐあうとなんて聞いた事ないですわ、一体それと貴方の部屋になんの関係があるんですの。」

発言からするにプレイヤーじゃないよな、こいつ。

「いや、しばらく部屋を使わないって意味なんだが。」

「だとしても、殿方の部屋を使うのは嫌ですわ。」

我が儘な奴だな。

「だったらアヤカの部屋でいいんじゃね?」

「お断りですわ。」

即答かよ。どうせログアウトして使わないだろうが。

「他に無いんだから我慢しろよ。どうしても嫌なら野宿だな。」

「バートラント家の娘が野宿などとは・・・仕方ありませんわ。使ってあげてもよくってよ。」

随分と上から目線だな、おい。

NPCの分際で生意気な。


呆れつつも部屋に案内して、俺は今日のプレイを終了した。

自分で闘う感覚は新鮮でなかなか面白い。特に武器を振るなんて、現実じゃ出来ないから結構楽しめる。

(こりゃ、明日も楽しみだ。)

ベッドに横たわって、そんな事を思いながら俺は眠りについた。

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