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3.突然現れて迷子、新婦

アーケルスリア大陸は比較的大きな島で、その島の南端にあるメルフェアの街が大陸で一番大きな街になっている。

同時にメルフェアは、大陸における人間の敵、魔獣に対しての最大の拠点でもある。

大陸北部から現れる魔獣に対して、侵攻を食い止めるべく拠点としてメルフェアは存在し、魔獣討伐のために雇われ派遣されているのがハンター、つまりプレイヤーという設定だ。

ハンターにはもう一つの仕事があり、それが魔獣の住む地の調査だ。魔獣と戦えなければ、その地に踏み込むことが出来ないため、同時に課せられる任務となっている。

メインクエストを進めていくと、大陸北部の奥へと進んで行けるようになると説明を受けたが、奥に行くほど魔獣の強さが増していくとも言われた、まあゲームとしてはよくある話しだ。


この大陸が魔獣に占有されてしまうと、更に南に存在するオルメドゥリス大陸へ侵攻してしてくると言われている。オルメドゥリス大陸は人が住む最大の大陸であるため、是が非でもアーケルスリア大陸で魔獣を食い止めたい。その為、プレイヤーがメルフェアに集められているわけだ。


闇イノシシの出現ポイントは、静閑の森の入口付近から、ちょっと中に入ったところらしい。

メルフェアからは北西に向かったところに森の入口がある。マップにも受注クエストの表示はあるのでそれを見ながら向かってもいいわけだ。

「って、何処に行くんだ?」

街を出て反対方向に行こうとしたアヤカの行動に疑問を投げる。

「クエストですわ。」

いや、向かっている先に目的地は無いからな。

「そっち、逆方向なんだけど・・・」

「そうですの?適当に歩いていると、イノシシが現れるのかと思ってましたわ。」

んなわけあるか。クエスト情報に出現場所はちゃんと書いてある。

「あのさ、クエスト内容をちゃんと確認したのか?」

「ええ。イノシシの子供を10体殺すのが目的ですわ。」

殺すって言うと物騒に感じるな。

「そうじゃなくて、居る場所とか、他の情報を。」

「見ていませんわ。」

それで、どうやってクエストを進めるつもりだったんだ・・・。

しょうがない。

「システムデバイス。」

俺はメニューを開いてクエスト情報を表示する。クエスト画面の左半分にノルマが表示され、右半分に情報が表示されている。この右半分を見ていないんだなって思って、アヤカに見せる。

「ここに書いてあるだろ。森に向かわないといけないんだ。」

「そこまで見ていませんでしたわ。」

おいおい。俺が一緒じゃなかったらどうするつもりだったんだ。

「では早速参りましょう。」

分かった途端、森に向かって歩き始めたが、この先大丈夫だろうかと不安になる。

いや、俺が気にする事じゃないか。


「私、ゲームには疎いものでして、助かりますわ。」

道中、アヤカがそんな事を言って来た。やっぱお嬢様か?普段ゲームしないなら、なんでDEWSなんか始めたんだろう。ゲームしない奴にとっては敷居が高いんじゃないか?

「疎いのに始めたのか?」

「私、家では剣道と居合を嗜んでおりますの。流石に太刀は刀ではないため、居合は出来ませんがイメージトレーニングのつもりで始めてみたのです。」

剣道と居合。それで太刀ってわけか。

だけど、イメトレならゲームじゃ無くてもやる方法はいくらでもある。それこそ通常のHMDで、仮想敵との対戦も可能だ。DEWSである必要は無い。

「それに、ゲームもしてみたいと思ったのです。このゲームでしたら、自分の身体で体験しているような感覚を、味わえると思いましたわ。」

なんだ、俺と似たような理由か。

現実で剣を振るなんて事は出来ない。やるとしても道場で竹刀を振る程度だろう。それに比べ、DEWS内だったらゲームだし、気兼ねする必要無いもんな。


「よし、着いたな。早速探すか。」

森の入口に着いた俺は、左腰に下げている剣に手を掛ける。

(緊張するな。)

実戦は初めてになる。まだチュートリアルでしか魔獣の相手をしていないから。相手の動きを見て、隙を付いて攻撃を叩き込む、俺に出来るか不安だ。ま、やってみるしかないか。

「いましたわ。」

森に入って直ぐ、アヤカが声を上げた。俺の視界にも子イノシシが3対映っている。

「よし。まずはおさらいからだ。」

俺は腰に刺さった剣を鞘から抜く。鞘から引き抜き始めた時点で鞘は消滅するから、抜刀の技術が必要ないのは楽だ。

自分の膝丈も無いイノシシの突進を横移動で避けて、背後から近づく。基本のコンボ、袈裟斬り、左払い、突き、切り上げと4連続攻撃を入れる。

うわ、血が飛び散るエフェクトは慣れないな。地面に散った血の跡は、魔獣が消えるのと一緒に消えていく。

アヤカを見ると、同じく突進を避けて背後から抜刀と同時に唐竹で一撃・・・。

両手武器だけあって、雑魚は一撃か。俺なんて四発だったのに。

アヤカは更に低姿勢のまま、太刀を低く持ちあげると、横方向への払い斬りを放つ。アヤカに向かって突進していたイノシシがその一撃で倒された。

げ・・・

なんか俺の出番を感じない。

「軽いですわ。次に参りましょう。」

こっち見たアヤカが、少し微笑みながらそう言った。その顔は、目尻が多少上がっている事など感じさせない可愛らしさがあった。

「あ、ああ。」

その顔に思わず目を逸らして頷く。

(なんで俺が目を逸らしてんだ・・・)


イノシシ自体は森の入口付近を歩いていただけで、直ぐにクエスト完了となった。他の雑魚も居たし、採集ポイントなるものがフィールドで光っていて、それを多少集める事も出来た。

俺も幾つかのコンボを試してみて、なかなか操作しやすいと思えたんだが、太刀を振るうアヤカに比べれば見劣りしてしまう。主に攻撃力。

その分、攻撃後の硬直が片手剣に比べて長いのだが。

「慣れませんわ。重量はいいとして、攻撃後の硬直時間がなんとならないかしら。」

いや、あれだけ振れれば十分だろ。

「早く硬直短縮のスキルや、効果が付いたアクセサリーが欲しいところですわね。」

「クエスト情報は見ないのに、そういう事は知ってるのかよ!」

思わず突っ込んでいた。

ゲームには疎い、クエスト情報は見ない、それなのに何故スキルやアクセサリーについては知ってるんだ。おそらく進めていかないと出て来ないだろうに。

「チュートリアルで言っておりましたわ。」

そういう事か。武器ごとのチュートリアルで、そういう説明があるんだな。

そう言えば、片手剣もあったな。

細かい話しは先に進んでからでいいやと、その時は聞いたがいまいち覚えていない。必要になったら覚えればいいかと思ったんだ。

まあ、それはそれとして。

「とりあえず、クエストの完了報告に行こうか。」

「えぇ、そうしましょう。」


クエストの条件を満たした俺とアヤカが、メルフェアの街に向かって歩いていると景色に異変を感じた。異変て言っていいのかは不明だが。

森と街を結ぶ路の横、草原の上が少し歪んでいるように見えた。ゲーム内なのでそんな事があっても不思議ではないとは思うんだが。

(バグか?それともイベントか?)

「不思議な景色ですわね。」

俺が立ち止ってその光景を見ていると、アヤカもそれに目をやりそんな事を言った。景色が歪んで見えるなんて現実では起こりえない。

呑気な発言だなとは思ったが、確かに不可思議な状況だ。


その歪みを見ていると、歪みは中心に向かって渦の様に収束しているようだった。大きかった歪みは中心に吸い込まれるように、だんだんと小さくなっていく。

最終的には点になって消えてしまった。

「なんだったんだ・・・?」

と、疑問を口にした瞬間、渦が戻るように急速に解放され、その中心から純白の服を着た女性が現れて地面に落下した。

なんだ、やっぱりイベントか。

「変わった催し物ですわね。」

「そうだな。」

と、返事をしたが違う気がする。名前の表示が青色だ、しかも読めない文字。イベントで出て来るNPCなら白文字じゃないのか?

ゲームを始めたばかりなので、その辺の判断はまだつかないか。


現れた金髪の女性は、ウェディングドレスのような服を着て落ちてきた。その所為か、眩暈に襲われたような仕草をすると地面に手を付く。

助けるイベントかもな。

「行ってみよう。」

「新たなクエストかしら?」

俺とアヤカはその女性に駆け寄り近付いて行く。


「おーい、大丈夫かぁ!?」

俺が大きな声で呼びかけると、女性はこちらを振り向いた。その顔は困惑と怯えが混じっているように見えた。

近くに行くと、怯えて後ろに退がろうとするので、俺は足を止める。

「なぁ、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

聞いてみると、何かを喋っているが、何を言っているのかまったく分からない。

(おいおい、翻訳出来ない言語があるのか?)

「言葉が分かりませんわ。」

アヤカも同じようで、首を傾げてみせる。


どうするよ、これ。イベントやクエストだとしても、言葉が分からないんじゃな。待てよ、これで一度街に戻るとクエスト発生とかありそうだな。

「一度街に・・・」

『翻訳言語が追加されました。』

え?

街に行こうかと思った瞬間、突然頭の中に、その声は響いた。それより、言語が追加されたって?リアルタイムアップデートは当たり前の事だが、イベントだとしたら事前に用意してるもんだろ?

「あの、先程から何をおっしゃっておりますの?」

「うぉっ!?」

「あら。」

女性の言っている事が急に分かって吃驚してしまった。言語追加されたと言っても、いきなり聞き取れると驚くっての。

「いや、大丈夫なのかと思ってさ。」

「あら、言葉が分かるようになりましたわ。」

どうやら向こうも会話が出来るようになった事に驚いている。

「体は大丈夫なのですが、此処が何処かお分かりになります?」

何処も何もゲームの中なんだが。

「アーケルスリア大陸のメルフェアって街の近くなんだが。それしか俺にも分からない。」

「現地の方では無いという事ですか?それよりも、リュステニア王国へはどう行けばよろしいかしら?」

リュステニア王国?

ゲーム情報を確認するがそんな地名は無い。困った表情で聞いてきているが、答えを与えられそうにはない。もしかすると、街に行くと新しいイベントでも出るのか?

「このゲームにそんな地名は無いな。」

「現実にもありませんわ。」

世界地理なんて知らねぇ。ただ、アヤカの発言からすれば、やはりゲーム内に存在する場所なのか?

「そんな・・・ユーレリアにどうやって戻ればいいの・・・?」

崩れるように地面に手を付いて、女性は項垂れた。

「と、とりあえず街に行けば情報があるかもしれない。行ってみるのはどうだ?」

このまま放置してもおけないし。一応聞いてみる。

「そうですわね。連れてってくださいますか?」

アヤカもそうだが、この女性も喋り方がアレで、苦手だ。

「ああ。ところで、名前はアリシアか。」

言語が追加されたおかげで、頭上に表示されている名前も分かるようになったので読んだだけなのに、ものすごい勢いでアリシアは驚いた。

「な・・・何故名乗ってもいませんのに、お分かりになるんですの!?」

そういう設定なのか?

「自分は名乗りもせずに、人の名前を、しかも呼び捨てとは一体何様ですの!」

いや、そんな事を言われてもな。ゲーム内でそこまで気にしなくてもいいだろうに。

「名乗るも何も、頭の上に表示されてるじゃん。」

俺は自分の頭の上を指さしながら言った。アリシアはまたも驚愕して硬直する。

「も・・・文字が、浮いているなんて、おかしいですわ・・・」

「まぁ、ゲームだからな。」

「ゲーム?先程も言っていましたが、それはなんですの?」

めんどくせー。プレイヤーの振りしたAIなのか、嫌がらせなのか分からないけど。

でも、何故か本当に知ら無さそうな演技に見えるんだよな。

「時間が勿体ないですわ、街に向かいながらでも会話は可能ではなくて?」

「ん、ああ、そうだな。取り敢えず街に向かうか。」


アヤカの提案で、俺とアヤカは困惑するアリシアを連れて、メルフェアの街に戻る事にした。


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