20.おかげで楽になった、制作
闇イノシシでアクセサリーが一段階進んだはいいが、次は凍槍の狼か・・・めんどくせぇ。武器の方は氷墓竜だけだからいいものの。
今までさぼって来た付けだな。そこまで拘らなくてもクエストに支障がなかったってのもあるんだろう。
そこに来てのオルデラだ。
うまいことやってくれるよ。
一度ログアウトした俺は、ネットの情報をいろいろと調べてみた。さすがにいろいろ違和感を感じてしまうと、気になってしょうがない。
別にゲームがやりたくなくなったわけではない。
(なるほど、俺だけじゃないっぽいな・・・)
闇イノシシがやたら強かった事に関しては、ちらほら情報が出始めているようだ。ただ、どうやら強くなるのは闇イノシシに限った事ではないらしいが。酷いのはそこそこ進んでいる奴が、闇イノシシの子供に殺されたとかもあった。
(運が良かったのか悪かったのか、俺はたまたま当たったんだな。)
いや、まったく嬉しくないが。
そんな事を調べている間に、公式にも情報が上がっていた。情報って程のものでもないが、現在起きている事象の報告が複数ある事から、調査・確認に入るという内容だった。
不具合に関しては修正パッチの配布、同時にサーバーのメンテナンス作業も行う可能性があるとの事だ。って、サーバーメンテナンス入ったら、その間ゲーム出来ねーじゃねぇか。
せめて夏休み前だったらな、学校に行ってる間に終わってくれと思うが、生憎と昨日で終わってしまったから、今メンテ入られると俺が暇になる。
安全?に遊ぶためには必要な事だから、それは我慢するとして。もしメンテになるんだとしたら、今のうちに素材集めしといた方がいいな。
ちなみにアリシアに関しての情報は一切見つからなかった。あんな不信なNPCが居たら、話題になっててもいい筈なんだが、まったく情報が無い。
そうなると、アリシア自体の存在が怪しい。まさか俺らだけに見えてるとか、ないよな?
名前の色がプレイヤー文字だから、俺らのパーティだって思われてる可能性もあるが、装備が特殊なんだよな。じゃぁ、アリシアは周りからどう見えているんだろう?
今まであまり考えて来なかったが、ふとそんな疑問も湧いてくる。
なんか疑問だらけだな。頭を使うのはあんま得意じゃないから、とりあえず放置でいいか。考えたところで結論に辿り着ける気もしないし。
(何もわかんねーし、晩飯でも食って再開するか。)
アヤカもタッキーも晩飯だろうか、二人ともログアウトしていた。居たら強い敵に出くわしたか聞いてみたかったんだが、また今度だな。
まず、凍槍の狼からだな。
それが終わったら、二人に手伝ってもらって氷墓竜に行けばいいか。
「こんばんは。」
「うぉぅ!」
考え事をしている時にいきなり話しかけられ、吃驚して変な声を出す。
「あ、驚かせてすいません。」
この件、昼間も在ったような気がするな・・・
声のした方を振り向くと、女性キャラが立っていて、名前は雪椿姫と表示されていた。あぁ、これが悠美のゲームキャラか。
黒髪のセミロングに、大きな目に瞳は、今日見た悠美と大差ない作りだ。
「いや、考え事をしていただけだし。」
そういう時に話しかけられると驚くが、別にそれだけの事だ。
「まさかあいつの友達が、同じゲームをしているとは思ってなかったな。」
それよりも、ヒナの友達が今目の前に居る事の方が驚きだ。さすがにこれを言うわけにもいかないよな、どんな悍ましい事を言われるか分かったもんじゃない。
「私もです、ゲーム好きってのは聞いてましたが。」
「どうせろくな事を言ってないだろう。」
「そうでもないですよ。」
雪椿姫は軽く否定すると、微笑んでみせた。それが何を意味しているのか、まったくわからん。
「何を狩りに行くんですか?良ければ一緒に行きたいのですが。」
「あぁ、凍槍の狼。素材が欲しくてさ。」
「私は何時でも行けます、ユアキスさんの準備が出来次第でいいですよ。」
発言からするに、余裕そうだな。
「さんはいらない。ってか出来れば付けないでくれ。ところで雪椿姫は何処まで進んでるんだ?」
「了解です。今、LV9-8を攻略中ですね。」
なに!?
「俺より進んでる・・・」
いや、それなりにショックなんだけど。俺はゲームがうまいとは言わないが、それなりに出来る方だと思っている。だが、目の前の妹の友達は、そんな俺よりも進んでるという事実に。
「いろんな人に手伝ってもらったので、私の実力ではないですよ。」
雪椿姫はそう言うと苦笑した。例えそうだとしても、あのオルデラを倒している事には変わりない。
「ユアキスはどの辺です?」
「憎たらしいオルデラに全滅させられたとこ。」
「あら。私も二回、やられてますよ。」
そうなのか。やっぱりオルデラは強いんだな。
「ってか、俺なんかに付き合っていいのか?自分のクエストやった方がいいだろうに。」
「知らない人とやるの、疲れるんです。それと、たまには息抜きも必要かなって。」
「俺も今まで接点ないだろ。」
「でも友達の兄ですから、慣れれば断然気疲れが減るかと。」
言いたい事は分かる。俺もタッキーとやってる分には全然気兼ねしなくていいいからな。一緒にやる奴がいるなら、知らない奴とやる必要もないし、気が楽だ。
「じゃぁ、悪いけど手伝ってもらおうかな。」
「はい。気にしなくていいですよ。」
「よし、早速行くか。」
俺がそう言うと雪椿姫は頷き、二人で街の門へと向かった。
凍槍の狼はメルフェアから北東に位置する、フアーヘヴ雪原に生息している魔物らしい。その雪原へ続く、ノルヘイド林道に出現するのを倒すのがクエストだ。
「雪椿姫は弓なんだな。」
「はい。そう言えば、雪椿姫が長かったら、適当に呼んでもらってもいいですよ。」
マジか。実はちょっと面倒だったんだ。とは言えないが。
「んじゃ、姫でいいか?」
「はい。」
助かった。ユキツバキとかちょっと言いづらい。
「ユアキスは片手剣なんですね、もっと重量のある武器を想像してました。」
「あぁ、動きやすそうだったからな。」
そんな雑談をしながら林道へ向かった。姫はあまり活発な方じゃないから、前に出て武器を振り回すより、遠隔攻撃武器の方がいいという事で、弓を選んだらしい。使い勝手がいいらしく、もう他の武器を使う気にはなれないらしいが。
俺もずっと片手剣だが、雑魚相手なら他の武器を試してみるのもいいかなと、多少考えたりもした。ただそれも先に進んでやる事に余裕が出来てからだなと思っている。
特に今は、それどころじゃない。
「着きましたね。」
凍槍の狼は歯を噛み締めるように閉じ、それでも開いた口角部分からは白銀の吐息が漏れている。
「嫌なんだよなぁ、動きが早くて。」
まだこちらに気付いていない狼を見て、出来ればあんまり戦いたくない魔獣だなって改めて思う。
「ですが、今なら気にする相手ではないですよ。」
そうなんだけどさ、もし闇イノシシみたいな事になったらなぁと不安になる。
「そう言えば、やたらと強い雑魚に出くわした事は無いか?」
闇イノシシで思い出したやたらと強い敵、アヤカやタッキーに聞こうとは思っていたが、俺達より進んでいる姫の方が知ってそうな気がする。って事に気付いて聞いてみる。
「え?何の事・・・って気付かれましたね。」
「後にしよう。」
「はい。」
こっちに気付いた凍槍の狼は、戦いの合図として空に向かって咆哮を放つ。林道の脇の林からは、雑魚の雪狼が5体ほど湧いてきた。
(そういやそうだった、この雑魚も鬱陶しいんだよな・・・)
凍槍の狼の尻尾が霞んで膨らんでいく。まるで吹雪を閉じ込めたように尻尾部分を氷雪が渦巻いている所為だ。咆哮の終わった凍槍の狼は、その場で真上に跳躍、空中で前転して尻尾を振ると、氷で生成された槍が俺と姫に向かって飛来する。
(ほんと、近接には鬱陶しい攻撃だ。)
俺は狼と距離を詰めながら回避、姫は距離を取って弓を構えた。
着地した狼に抜刀攻撃をしようとしたが、四肢を撓め始めたので真横に跳躍する。高速で凍槍の狼が俺を居た場所を貫くように突進していく。凍槍の狼が抜けた後には、地面から氷の槍が追い掛けるように天を突いていった。
(危ないやつだな・・・だが、まだ追い掛けられない。)
凍槍の狼は突進から前足で着地し、突進の勢いで前足を軸に尻尾を回転させながら跳び上がる。
(ここだな。)
全方位に撒き散らされる氷の槍を、俺は飛び越えながら距離を詰めた。
(この後、攻撃後の硬直が出来る。)
だが、凍槍の狼は着地する前に爆炎と共に吹っ飛んだ。横目で姫が矢を放ったのが確認出来たので、あれが弓の攻撃なんだろう。
いろいろ聞いてみたいがそれは後にして、俺は吹っ飛んだ凍槍の狼に追撃を掛けるために駆け出した。
「いやぁ、楽だった。雪狼も相手してもらって悪いな。」
俺が凍槍の狼と戦っている間に、雑魚を散らした挙句、凍槍の狼の行動を妨害するようサポートしてもらった。
なんか、いいとこ無いな俺。
楽でいいけどさ。
「どういたしまして。サポート向きなんですよ。お次は何行きます?」
「氷墓竜なんだが、いいか?」
「任せてください。」
姫は右手の拳をぐっと握りしめて笑顔で答えてくれる。頼もしい限りだ。ヒナもこれぐらい可愛げがあったらいいのに。って本人には絶対言えないけどな、死亡フラグ立つから。
ってか年下に甘えるのってなんか気が引けるんだがなぁ。本人が気にして無かったとしても、俺の自尊心がな・・・。
まぁ、いいか。
「ところで、その弓って火属性なのか?」
「いえ、基本的に弓自体に属性は無いです。矢をどうするかですね。」
「ふーん。」
いろいろ聞いてみたが、要約すると矢に付加効果があり使い分けるらしい。銃と似ているが、弓には回復効果を持った矢は無いそうだ。ついでに、基本属性や通常の矢は制限が無いらしいが、強力な矢は持てる数が決まっているらしい。
便利っちゃ便利だが、矢を準備するのが面倒くさそうなんで、俺には向いてないな。
弓のサポートが絶大だったおかげで、氷墓竜もさして苦せず倒し、俺と姫はメルフェアに戻ってきた。これで目標の武器が作成できる。
【白蒼剣アーズレイア】
完成!
「おめでとうございます。」
「いやぁ、姫のおかげでマジ助かった。」
「ただいまぁ。」
丁度そこへタッキーが戻ってきて、ついでにアヤカもすぐに合流してきた。
「おぅ、おかえり。」
「うん、ってか誰?」
「この娘は誰ですの?」
集まった二人はすぐに姫の存在に対し誰何の声を上げる。まぁ、そりゃそうだよな。
「えぇ、ずるいよ。手伝ってもらって終わってるなんてさ。」
一通り自己紹介も終え、現状を説明するとタッキーが不満を口にする。
「これからタッキーを手伝うんだからいいじゃねぇか。結果として準備時間が短縮されたわけだし。」
「まぁ、そうだけどさ。」
「これで、オルデラへの借りが早めに返せますわ。」
思わぬところで装備作成が進んだんで、オルデラとの再戦も早まった。戦闘狂?のアヤカが不敵な笑みを浮かべるのも分かる気がする。
「え、三人なのですか?」
会話を聞いていた姫が疑問を挟んでくる。
「そうだけど?」
「私、六人パーティで挑んで、負けたんですが・・・」
「えぇ!?」
マジか、オルデラってそんなに強ぇのか・・・。タッキーも驚いた後に不安になったようだ。
6人でダメだったわけだろ、俺らその半分じゃん。装備を見直したらなんとかなると思っていたが、ならなそうな気がしてきた。
「ここで意気消沈してどうしますの?やってみなければ分かりませんわ。」
まぁ、アヤカのいう事もわかるけどさ・・・
「あの、良ければ私をパーティに加えてもらえませんか?」
俺とタッキーは目を合わせて頷く。アヤカにも確認しようとしたが、アヤカは姫を品定めするように睨みつけていたので無理だった。いや、さすがに失礼だろが。
「僕はいいよ。ってかむしろお願いしたい。」
「俺もだ。」
あとはアヤカだけなんだが・・・
「私も構いません。どこぞの田舎令嬢に比べれば遥かにましですわ。」
と、意見が一致したので姫に加わってもらう事に決定した。しかし、相変わらず酷い言いようだな、本人は今風邪で苦しんでるんだが。
「ありがとうございます。出来れば、今後も参加させて欲しいです。足並みは合わせますので。」
「え、いいの?」
タッキーが嬉しそうに聞き返す。それは俺も同じだ、単純に戦力増は嬉しい。
「お願いされては、仕方ありませんわ。」
お願いするのはこっちなんだけどな。
「ありがとうございます。これから、宜しくお願い致します。」
姫が加わった事で、タッキーの武器素材集め、紅陽竜もあっさり終わってなんとか【アルヴィエッタ 朱】が完成。
アクセサリーは作り終わっていたから、これで装備品の準備は整った。
「いよいよですわ。」
「ああ。」
「そうだね。」
やっと再戦の準備が整った事で高揚するアヤカの言葉に、俺とタッキーは頷いた。




