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12.嫌な意味でその眺め、壮観

-イズ・クーレディア大陸 リュステニア王国 ユーレリア地方 プーリオル 飲食店街のとある店舗-


「店長ぉ・・・」

そばかすのある、若干あどけなさが残っている顔の少年が、困ったように店の主を呼びながら近付いていく。

「どうしたライネス、またなんかミスでもしやがったんじゃないだろうな?」

「そこまで抜けていませんよ!」

肉料理をメインに提供しているブラムオードという名前の店、そこの主は訝しむような表情で少年、ライネスに問い掛ける。その声は、少しばかり諦めが混じっているような気さえ感じてしまいそうな声だった。

ライネスは憤慨するように腰に手を当てると、言い返して頬を膨らませて見せる。

「昨日足が縺れてテーブルから片付けた皿を落として割ったのは誰だったかな。リバル工房で作っている銀の模様が入ったいい皿だったんだがなぁ。」

主が顎に手を当て、思い出す素振りで口にするとライネスは目が泳ぎ始める。

「一昨日、掃除中にブラシの柄が棚に引っ掛かり、バランスを崩して別の酒が並んでいる棚に突っ込んで酒瓶数本落としたの誰だったかな。蒸留酒でも15年もののいいやつが混じってたんだがな。」

さらに目を閉じて唸るように言う主の言葉に、ライネスは顔を横に反らして視線を床に落とした。

「一昨昨日、後で容器に移そうと思っていたコーヒー豆が入った袋を蹴飛ばして床一面にぶちまけたなぁ。ミールベル産の良い豆で高かったんだよなぁ。」

天井に遠い目を向けながら主が言うと、ライネスの頬を流れ出た汗が伝い始め、床に滴り落ちる。

「四日前・・・」

「すいません!もう勘弁してください、抜けてないなんてもう言いまぜん、自分を良く言いずぎまじだ・・・。」

ライネスはついに床に膝を付き泣き崩れながら土下座の姿勢になった。

「そうか。分かってくれたか。で、今度は何をやらかしたんだ?処分は聞いてから決めてやるから言ってみろ。」

仏のような微笑みをライネスに向け主が問いただす。目はこれっぽっちも笑ってはいないが。それを聞いたライネスはばっと立ち上がると力強い目を主に向けた。

「違うんです!僕じゃないんです!」

「誰でもミスは犯すから、そう言いたい気持ちは分かるがな。でも嘘はやっぱり良くないぞ。」

「本当なんですってば!実際に現地を見てくださいよ!」

ライネスは主に縋り付きながら懇願の目を向ける。

「わかったわかった、見てやるから取り合えず離れろ鬱陶しい。」

主は言いながら、足に縋り付くライネスを蹴り剥がした。


「これは・・・」

「おかしいですよね。」

お店の地下倉庫に移動した二人が、その光景を目にして怪訝な顔をする。主も目を細め首を傾げるばかりで言葉が続かない。

「在庫の確認をしようとしたらこの状態だったんです。」

「確かにこりゃ、お前の仕業じゃねぇな。」

「そうですよ。」

「お前がやろうとしたら、山が全部崩れるからな。」

「酷い・・・」

折り重なるように重ねられた木箱は、上に行くほど数が少なくなる山形に積み重ねらている。その一番下の段に、ぽっかり空いた空洞を見ながら主は言った。

ライネスがどうとかではない、自分でもこの状況を作るのは無理だと思ったからだ。根菜や葉物、果物を含め色んな食材や調味料が入った木箱、それが積み重なっている一番下だけ抜くことなど。

「一体どうやったら抜けるんだ・・・」

「え、僕ですか?」

「お前の抜け具合の話しじゃねぇ。木箱の話しだ。」

「あ、そうですね・・・」

箱自体の重さもあるが、床に引き摺った後すらなく消えているのが解せない理由だ。加えて言うなら昨夜、主は在庫の存在を確認して、倉庫に鍵を掛けて就寝に付いている。

鍵が壊された形跡もなく、予備の鍵も存在しない。にも関わらず木箱が無くなっている。しかも一箱だけだ。一番下の段の一箱のみを、痕跡も残さずどうやって取り出したのか。

主にはいくら考えても思い当たらなかった。

「どうやった?」

「いや、僕じゃないですから。」

「分かってる、言ってみただけだ。こんな事をお前が出来るなら、うちの店の損失はもっと軽い。いや、それどころか収益上がってるわ。」

「うぅ・・・」





クエストLV1-4

闇イノシシ1体討伐 【BOSS】

闇夜からの使者1体討伐 【BOSS】

火竜の子供1体討伐 【BOSS】

凍槍の狼1体討伐 【BOSS】

街道のごみ掃除FAINAL


ボスラッシュじゃねぇか。中に一体新規のモンスターが混じってるな。

だがその前に。

(街道のごみ掃除ってなんだよ。しかもFAINALって・・・)

本当にごみ掃除だった時もあるクエスト。クエストを受けるとどっかの街道にごみが発生して、それを片付けるだけのクエストだ。意味が分からない。

残り2回は小型の魔物退治だったものの、FAINALとか表示されている時点でいい予感はしない。このボスだらけのクエストに混じっているんだ、ろくでもないごみに違いない。


「楽しみですわ、こういうのを待っていたんですの。正直、採集や雑魚退治は面白くありませんもの。」

クエストを見てアヤカはテンションが上がっているようだが、それをやらないと武器は作れないだろうが。そして付き合わされる俺の苦労も考慮してないだろうな。

「内容から察するに、LV1のクエスト集大成って感じじゃないか?」

ボスだらけだし、FAINALとかあるしな。

「言われてみればそうですわね。一度倒した相手がほとんどですし、ボスばかりですわ。」

ここで材料集めればよかったんじゃないか?

そう思ったが、装備を作らないと厳しい戦闘になりそうな気もするな。勝てるには勝てるだろうけど、それよりせっかくだから装備作りたいし、楽もしたい。

作ったところで楽になったかと言われれば微妙だが。

多分、俺自身のゲームスキルが足りてないんだろうな。


それはいいとして、凍槍の狼か。火竜素材で出来た片手剣の紅蓮が効果的な気はする。当然ながら、アヤカの

焔円舞が出来るまでも付き合わされたので、アヤカの太刀も有効だろうな。

それを見越しての配置かもしれないが、制作側の意図が分かるわけでもなし、考えてもしかたがないか。分かりやすいゲームは分かりやすいんだけどな。


「早速、この凍槍の狼というのに行きますわよ。」

そうだな・・・

「っていきなりかよ!」

「他のボスは既に戦いましたわ。勝てるのが分かっているのですから、面白みがありませんわ。」

言いたいことはわかった。

でも俺はいきなり行きたくない。後で苦労するか最初に苦労するかの違いでしかないと思うけど、最初はいやだなぁ。

「ウォーミングアップも兼ねて、他のからでいいんじゃねぇか?楽しみは最後にとっておいてさ。」

適当な事を言ってみるが、通じるかどうか。

ちなみに俺は、楽しみは最後にとっておく派だが、凍槍の狼が楽しみかと言われれば、それはまた別の話しだ。

「なるほど、一理ありますわね。」

よし、乗ってきた。

「LV1の最後となれば、確かに楽しみを最後に残しておくのも一興、ですわ。」

「だろ。」

となれば、俺としてはおさらいとして闇イノシシからがいいんだけどな。街道のごみ掃除はいつでも、なんとでもなりそうだし。

「では、一番つまらなさそうなごみ掃除からですわね。」

・・・

極端だよな。

まぁいいか。とりあえず凍槍の狼からってのは避けられたし。


「しかし、見たことのない生き物ばかりですわ。ユーレリアには大きなイノシシも火を吐くトカゲもおりません。この場所はいったいどれだけ離れた場所なのでしょう・・・」

相変わらず付きまとっているアリシアが、何処か不安気な表情でそう言った。ユーレリアとかいう場所を思ってか、その言葉に覇気もない。

このNPC、人間味がありすぎて怖いんだが。むしろ人間にしか感じない。それだけAIが進化したって事なのか?俺にはわからない。

もう一つ、このNPCは何故俺らに付いているのか?俺に付いているのか、アヤカに付いているのか。他のプレイヤーにも似たようなNPCが付いているのか。

例えばNPCだった場合、アリシア本人に聞いたところで答えは得られないだろう。


「アリシアは何時まで此処にいるんだ?」

とは思っても気になるので、普通に聞いてみる。

「帰り方が分かるまでどうしようもありませんわ。知らない土地、知らない人ばかり。たまたまあなた方に出会って話しを聞いて頂きましたから、同行させて頂いているのですわ。」

だよな。何も変わらないよな。

そういう設定なんだろうな。

「邪魔・・・なんですの?」

そう疑問を口にしたアリシアの目には、不安が浮かんでいるように見えた。

「いや、そういうわけじゃない。単に気になっただけだ。」

「足手まといにならなければ、私も問題ありませんわ。」

アヤカの発言は余計だった。

「アヤカには、言われたくありませんわね。」

やっぱり。

アリシアの不安は何処へやら、既にアヤカと睨みあっている。俺から見ると、同族嫌悪?

「やめろ・・・」

ったく、しょうもない。

『ユアキスには関係の無い事ですわ!』

・・・ぉお、綺麗にハモったな。それくらい息が合っていれば、俺も戦闘で楽が出来るんだけど。ハモった事が気に入らず、また睨みあっているあたり、無駄な希望だな。

「続けるなら俺一人でクエストに行くぞ・・・」

相手にしてらんないから、俺はさっさと行く素振りをした。いや、素振りじゃねぇ、面倒だから本当に一人で行こうかと思った。

「聞き捨てなりませんわね。」

知るか。

「貴方は野盗か何かですか?とても紳士の振舞とは思えませんわ。」

黙れ。

アヤカもアリシアも好き勝手言ってくれるが、煩いので無視して街の出口へと向かう。


街の出口まで来ると、しっかり付いてきた二人には何も言わない。俺が損をするだろうからだ。

「さっそくクエスト受けるか。」

「ええ。」

システムデバイスから街道のごみ掃除FAINALをタップして受注する。

クエストの詳細は受注後にわかるんだが、FAINALは本当に嫌な予感しかしない。

「闇イノシシの子供200体退治・・・ですわ。」

をい!

多すぎだろ!

「うわ、かったるすぎる・・・」

「すべてのクエストを完了しなければ、先へは進めませんわ。」

分かってるけどさ。

「ただ、200は多すぎだろう。」

「闇イノシシの子供なら私も、ユアキスも一撃。つまり、一人100回武器を振れば完了ですわ。」

竹刀や刀を現実で振っているアヤカにとっては大した数じゃないかもしれないが、雑魚相手にただただ攻撃ってのも怠い。エフェクトの範囲に居れば複数体巻き込めるから、100回も必要なさそうだが、1体ずつだったからかなり面倒だな。

やっぱろくなもんじゃなかった・・・

「どうせやらなきゃならないしな、行くか。」

まぁ、言ってもしょうがないので、重い腰を上げるように俺たちは出口を出た。


クエストの詳細は、メルフェアの街から北西にある静閑の森へ続く街道、その道中に森から大量の闇イノシシの子供が溢れてきたってとこだ。

溢れんなよ。


「壮観ですわ。」

静閑の森へ向かっていると、遠目からでもそれは分かった。街道とその周辺を埋め尽くす黒い塊。それが蠢いているのが見える。

「いや、気持ち悪いだろ・・・」

決して壮観なんかじゃねぇ。


「おいおい・・・」

近付くにつれ感じていた違和感が、傍まで来てはっきりと分かった。そいつらは闇イノシシの子供に紛れ、座り込んでいたんだ。

「楽しくなって来ましたわ!」

隣では太刀に手を掛け、不敵に口の端を上げるアヤカ。

俺は全然楽しくねぇよ。

立ち上がったそれらは闇イノシシだった。混じってるなんて聞いてねぇよ。

「クエストは子供の退治だ、無理に相手にする必要はないぞ。」

って聞いてねぇ・・・

太刀を構えたままアヤカは既に、闇イノシシに向かって猛進していた。

「ユアキスは雑魚と遊んでいなさい!」

うるせぇ。

言われなくてもそうするわ。残っているクエストでも闇イノシシは戦う必要があるわけだし、ここでまで相手にする必要はない。

(闇イノシシも子供も火が弱点だ。作った紅蓮の効果、早速試してみなきゃな。)

俺もそう思うと、剣を構えて群れに向かっていく。

さぁLV1-4、開幕だ。


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