洗濯日和(2)
山名高校新聞 号外
盗まれた絵画、教師陣も絵の行方知らず!
本日未明、昇降口前の卒業生寄贈作品の桜の絵がなくなるという事件が起こった。
この作品についての説明は先日、美術部がしたので新入生の皆さんも知っていることだろう。まさしくその作品の一つが無くなったのだ。
我、新聞部の調査によると、桜の絵は昨日の放課後午後四時頃までは確認されており、本日一番に出勤した用務員の方が本日午前七時にはもう無くなっていたと言う話である。そして教員の方々の話によれば、手入れのために業者に出したわけでもないそうだ。
つまり、犯行は昨日の放課後に行われたと考えられる。
犯人の狙いはなんなのか? 新聞部はこの真相についてこれからも調べていこうと考えている。
著 花川 良平
「ふざけんじゃないわよ!」
放課後の美術室。部員が全員で落ち込んだ空気の中、百合子は校内新聞を机に叩きつけながら叫んだ。
「先輩達が残した作品よ? 山名高校三年間の最後の思い出に残した絵なのよ? それが盗まれるってどういうことよ!」
「まあまあ百合ちゃん、少し落ち着いて。まだ誰かに盗まれたって決まったわけじゃないよ」
琴羽が百合子をなだめる。その大きな目は少し落胆の色を見せている。
しかしそんな琴羽の言葉に、九条君の口から現実が叩きつけられた。
「いや、盗まれたって話だぜ。もう教員達も動いてる。……ただ、警察沙汰にはならないみたいだな」
「ちょっと、それどうしてよ!」
「ああもう、ちょっと落ち着けよ百合子先輩。俺も聞いた話なんだけどな、教員達はこの事を隠蔽する気でいるみたいだよ。もともと寄贈作品は卒業生が学校に所有権を渡したものだから、校長が盗難届けを出さないといけないんだけど、それをしない方針が職員会議で決まったらしい。
どうやら嫌な噂がたって、来年の受験生が減らないようにしたいみたいだけどな」
学校に所有権がある。悪い話を広めたくないから警察は呼ばれない。九条君の言葉に全員が絶句した。
そんな馬鹿な話があってたまるのか。あれは先輩達がみんなのために残した絵なんだ。溢れそうな憤りを理性で押さえつけるように、わたしは拳を握り締めた。
流れる沈黙。それを破ったのは琴羽だった。
「学校側も馬鹿なことをするね。いくら警察を呼ばなくても人の口には蓋は出来ないのに。……でもこれで、私達には仕事が出来たんじゃないかな」
「……そうよね、あたし達がやらなきゃいけないよね」
「えっと、仕事……ってなんですか?」
わたしと、おそらく九条君も思った疑問を有沢さんが代返した。
琴羽は手のひらを何かを言いたそうにしている百合子に差し出し促した。それと同時に百合子の顔が笑顔になる。その口から出た言葉に、わたしはもう一度絶句した。
「あたし達で犯人を探し出そう!」
「は?」
声を漏らしたのはわたしを除く視聴者三人だ。何故か琴羽も目を丸くして百合子の事を見ている。
「ちょっとまって百合ちゃん。私は校外にこの話が広まるようにしようって話そうとしたんだけど」
琴羽の言いたいことがなんとなく分かった。多分、校外で噂になれば学校側もこの話を無視できなくなる、という考えだろう。その考えにはわたしも賛成だけど、百合子は水を注されたような不服そうな顔をした。
「そんなことしても無駄よ。うやむやに話を濁してやり過ごすに決まってる」
「……確かに、そう、かもしれないな」
九条君が百合子の考えに賛同した。有沢さんも何か九条君の反応を見てから賛成するように首を縦に振る。唯一琴羽だけが納得いかないような顔をしている。
そんな琴羽に百合子は続けた。
「これは美術部の問題。琴羽、この事の決定権は……」
そこで言葉を切りわたしを見る。琴羽も、いやみんながわたしを見る。
なんだか、前にもこんなことがあった様な気がする。今の状況は、前のときよりもかなり重要な事な気がするけど。
わたしは一度俯いて考える。
犯人を捜すことは賛成だ。あの絵は学校の所有物ということになっているけれど、先輩の、美術部の所有物でもあるはずなのだ。
でも、危険が伴うんじゃないかとも思う。
わたしは意を決した。
「わたし達で犯人を捜そう。でも、もし危険なことがありそうだったらすぐに琴羽の言った通りの行動に移す。いい?」
わたしの言葉に真っ先に賛成したのは百合子だ。
「了解! さて、じゃあ早速行動開始よ!」
そう言うと勢い良く立ち上がり、美術室を出ようとする百合子。その背中に琴羽が声を掛ける。
「……行動って、何かあてがあるのかい百合ちゃん?」
振り返った百合子は強気を見せる笑顔をしていた。
「こういうことはまず情報収集。最初に行くには一番情報を持っていそうな奴のところに行くのが得策でしょ?」