日記の始まり
――わたし、樋山紅葉は超のつくほどの無口だ。
別に喋るのが嫌いなわけじゃないし、何にも考えてないわけじゃない。単に口数が極端に少ないだけだ。怒っているわけでもないし、ただボーっとしているわけじゃない。
……なんだかちょっと愚痴みたいになってしまった。
わたしが無口な理由はいくつかある。
一つ目は、誰かに話しかけられたとき、自分がどう反応していいかわからないということ。
話しかけられた言葉に対して、答えを考えている間に話が進んでいくから、わたしの考える言葉が増えていき、結果的に何も言葉が思いつかないまま話が終了してしまう。簡単に言えば、単にとろいだけかもしれない。
二つ目は、すぐに自分の世界に入り込んでしまうということ。
わたしには、ずいぶんとのめりこんだ趣味がある。それは絵を描くことだ。
晴れると自分のスケッチブックと鉛筆を持ち外へと出歩き、気に入ったものがあれば描き出す。雨の日は自室のカンバスを前に絵の具を載せていく。それがわたしの好きなことで、毎日描きたいものの事を考えている。その間は何を話されても反応することができない。
三つ目は、そんな自分に馴れてしまったこと。これが一番の理由だ。
口数の少ない生活になれてしまい、自分から言葉を発することをあまりしなくなった。何か言葉を出す前に身振り手振りで現すことのほうが増えてしまったのだ。
以上のことからわたしは、あまり喋ることがない。
それと、ついでに言えば外見も地味である。
黒髪のロングヘアーで、縁の太い赤い眼鏡。度が強いために小さい目がさらに小さく見える。身長も百五十台半ばあたりで特徴もない。ただ、わたしはそれが案外気に入っている。
こんなわたしだが、高校で美術部に所属していて、去年の秋にはれて部長となった。
今でも、わたしよりも百合子や琴羽のほうが適任だと思っているのだけど、わたしが部長になった理由にはある経緯がある。今回このノートにはそのことについて書いていこうと思う。