洗濯日和(8)
「わかった」
「え?」
唐突にわたしが漏らした言葉に、みんなが目を丸くする。しかし、わたしはそんなことも気にせずに言葉を続ける。
「動機、わかったよ」
「ウソ!」
百合子が声を大きく跳ねさせる。
「い、いったいなんなの。あのおっさんの動機って?」
「大人が、というより人にとってものすごく大事なもの、つまり、お金だよ」
「お金?」
みんなが口をそろえてオウム返しする。
「ああ、ごめん。えーと、どこから話したらいいかな」
頭の中に渦巻いてる情報をひとつひとつ、棚の中にしまうように綺麗に整頓する。新聞部。花川君。事務のおじさん。そして副校長。色々な人に関わった事件だけれど、わたしはさっきこの一言がひっかかったのだ。
「えっとさ、事務員のおじさんの言葉、憶えてる? あの『新入部員がたくさん入ったらなんかおごってもらいな』ってやつ」
「うん、憶えてるよ。そういえば、あのときもうひとつ変な言葉を言ってたね。戦争とかなんとか」
琴羽の疑問にわたしは大きく頷く。
「そう、そこ! それが答えなんだよ」
「はあ?」
百合子が眉をよせ不満の色をあらわす。
「つまりね、部員がたくさん入った部活動の顧問には、なんか賞金でも出るんじゃないかな?」
みんなが沈黙する。琴羽は口許に手を持ってきて何かを考える仕草。百合子は空いた口が塞がらないといった感じで、九条君と有沢さんも、ぽかんという擬音が似合いそうな顔をしている。
自分が突拍子もないことを言っているのは良く分かっているつもりだけど、いろいろ考察した結果、わたしはこの結果に辿り着いた。
わたしはこう考えた。
まずひとつめ、生徒指導部が禁止しているにも関わらず、派手な勧誘を促す新聞が発行されたこと。これは間違いなく、副校長が関わってないと出来ないことだ。つまりは先生が主犯である事は決定する。
ふたつめ、さっきも書いているけれどその動機はお金。これは、事務のおじさんの言葉が答えになった。『戦争』と『部員がたくさん入ったらおごってもらう』という言葉。前者が部員争奪、後者が賞金のことを指しているんじゃないかとわたしは思う。そうでなければ、何がメリットで絵を隠すなんて事をしているか分からない。
わたしがその考えをみんなに伝えると、琴羽が切り返してきた。
「ちょっと紅葉ちゃん、今、隠すって言わなかった?」
「うん、だからさ、さっき百合子と琴羽が言ったとおりだよ。絵はこの学校から持ち出されてない。多分、校長室とかあまり使わない小会議室とかにおいてあるんだと思う」
わたしの考えが正しかったら、多分小会議室だと思う。あそこはなくなったふたつの絵からそんなに遠くない位置にある。鍵が開けられる事はあまりないし、隠し場所には最適だろう。
「それとね、近いうちに絵が帰ってくるはずだよ」
「ええ?」
全員の驚愕の声が部屋中に響き渡る。あ、なんだかちょっと楽しい。もしかして名探偵ってこんな気分を毎回味わいながら推理しているんだろうか。
出張でいなかった校長先生が帰ってくるまでに、事は全てが終るだろう。これは校長先生には、ばれてはいけない話なはずだ。もしこの一件が校長の耳にはいってくれば不正とみなされ、その賞金もなくなってしまう。
ここまでわたしが話すとみんなが沈黙した。しかし、その空気は死んでいるように重いものではなく、全身から力が抜けるような脱力感がその場を満たしていた。
それでも相変わらず、こんな空気を破るのは百合子だった。
「……あたしたちはこの二日、そんなことに振り回されてたの?」
「そう、いうことになるのかな」
「でも紅葉ちゃん、本当にその考えあってるのかな?」
「そうだよな。もし違ったらまた考え直しだぜ?」
「なにか、確認方法はないでしょうかね?」
みんなの問いにわたしは笑顔を作る。大丈夫、そう言うと思ってちゃんと考え付いたことがあるんだから。
わたしはみんなに顔を寄せるように手招きすると、ぼそぼそとその考えを伝えた。
「――みんなわかった? この方法には早起きが絶対条件。多分、明日か明後日あたりが勝負だから、この二日間は早寝すること」
「了解よ。……これでもし、絵が戻ってこなかったら紅葉をどうしようかしら?」
「うーん、そうだねえ、私達四人に何かおごってもらおうかな」
意地悪な笑顔を浮かべる百合子に、琴羽がその答えを出す。
それはあんまりだ。とも思うけれど、心配には及ばないよ。この考えは絶対あってる。
……それでもやっぱり心配だから、明日はお金を少し多めに持っていこうかな。