プロローグ〜一冊目のノート〜
皆様はじめまして。樋山紅葉です。
小説絵日記は私の処女作となります。読みにくい部分が多々あるかもしれません。
それでも温かい目で見守ってもらえたらと思います。
『短編連作小説』、『青春ミステリ』として書いていきます。殺人等はまったくございません。
年末の大掃除、それは一年で積み重なったものを綺麗に片付ける。そういう行事だ。しかし、この行事には大きな魔物が潜んでいる。
毎年この掃除をやらずに過ごしてきたわたしだが、大晦日にもなると、さすがにその重い腰を上げて、今年こそは掃除をすることにしたのだ。
一人暮らしをはじめてから早三年。住み慣れたこのマンションも相当な雑貨で埋め尽くされてきた。その姿は見るも無残で、わたしはよくこの部屋で暮らしていたものだと、しみじみと思う。
あまりの汚さにわたし一人ではどうしようもなかったので、今日は親友にも来てもらい手伝ってもらっているが、これは失敗だったかもしれない。彼女はスパルタ精神を剥き出しにして、先ほどから掃除について厳しくわたしに言いつけているのだ。
「ほら紅葉、そんなものはいらないからちゃんと捨てなさい!」
「……いや、でもまだ着れるし」
「そんなこと言ってたらきりがないでしょ!それにそんなよれよれのTシャツなんていつ着るのよ、それでもあんたはほんとに華の女子大生? 美大生だからって作品ばっかり綺麗にしないでもっと自分自身も磨きなさい」
先ほどからこんな様なやり取りが繰り返され、わたしがまだ使えるかもしれないと思ったものは、ことごとくゴミ袋に吸収されていく。あ、またひとつ……。
言葉勝負に弱いわたしはすぐに負けてしまうのだ。
そんな彼女の言葉を受けつつ、洋服類を綺麗に片付け終わったわたしは、かなりの量を捨てられてしまった洋服たちへの未練を隠せないまま、次に本や書類の片付けに入る。
実家から持ってきた画集や漫画、それから学校の教科書や今まで描いてきたものが詰まっているスケッチブック。様々なものがある。ふとわたしは手に取った青いスケッチブックを開いた。はじめのページに描かれていたものは懐かしい光景。三年前に卒業した校舎の絵だった。青空をバックに、グラウンドから描かれた古臭い校舎の手前にはまだ蕾のままの桜が描かれていて、所々に咲き始めそうに綺麗な桃色の水彩が載せられている。
懐かしさと未熟だったことへの恥ずかしさを胸に、次のページを開く。
「ねえ紅葉、これも捨てて……ってあんた何してんのよ?」
部屋の反対側で問いかける親友に、無言でスケッチブックを最初のページを開いて向ける。懐かしいものを、見つけたの。
「うわ、懐かしいわね〜。私たちの母校じゃないのそれ」
わたしはこくりと頷き、そして次のページもめくってその絵を見せた。そこにあったのは左右のページに分かれた奇妙な二枚の絵のコピーだった。
白い薄靄のバックには青色が入れられている。同じような青空を描いた二枚の絵がそのページにあった。
「あ〜、それも懐かしい!」
その絵を見たわたしの親友、柿谷百合子は感嘆の声を出した。
「それにしてもよくそんなもの持ってたわねー、あれ、でもその絵って何の意味があったんだっけ?」
「……忘れたの?」
「うーん、いや、ちょっと待って。なんかこのあたりまで出かかってるんだけど」
百合子が喉を押さえながら考え始めてから一分が過ぎようとしたころ、いい加減答えを言おうかと思ったが、わたしは一つ思い出したものがあった。本棚の一角に積み上げられたノートの山に手を伸ばす。
(確かこの辺にしまった気がするんだけど……。あ、あった)
わたしは一冊のノートを取り出した。茶色い表紙には『隠されたもの〜先輩からの挑戦状〜』と書いてある。……我ながら、ずいぶん恥ずかしいタイトルだな。
そのノート表紙を百合子のほうに向ける。
「ん、なあにそのノート?」
私は彼女に手招きをしてこちらに来るように促す。散乱した私の私物の上を足場を縫うようにして歩いてきて、百合子はわたしの横に座った。
「で、何なのよいったい」
まあまあ、と言うようにわたしは彼女の肩を叩いてから、そのページをめくった。
ノスタルジアと言う、大掃除の魔物が口を開いた瞬間だった。