はじまりの森 ~再会と遭遇~
「そうだ、そこのまともに武具も揃えれないお前だ」
『はじまりの森』にいる以上似たような装備だろ、と内心で反証しようとした光だったが、彼らの装備を見てその意見を飲み込む。
彼らの装備は帽子とマントこそ初心者特典のものであったが、それ以外の武具は明らかに初心者が用意出来るような物ではなかった。
見慣れぬ意匠の武器と防具から恐らくは鍛冶スキル持ちの作品、また初心者である彼らが装備できる時点で武具としては装備条件の無いタイプと光は推察する。
(……知り合いが先にいたタイプか)
友人か先輩後輩か、リアル関係は不明だが恐らく使わなくなった物か初心者でも使えそうなものを融通してもらったのだろう。
周囲の他のプレイヤーと見比べても彼らの装備はあまりにも豪奢だった。
「見たところ金もなくパーティーにも誘われないのだろう。荷物持ちで良いなら加えてやるがどうだ?」
「遠慮はいらねーぞ、戦いは俺達に任せておけばいいからな!」
そんな彼らから出てきた誘い文句に思わず光は唖然としてしまう。むしろ初対面でここまで上から言えるのは凄いと半ば呆れるしか無かった。
とりあえず彼らの申し出は受けれないとして首を横に振り拒否の意思を示す。
正直光は他のプレイヤーとまだまともに話せる自信など無い。そしてそれ以上にこのタイプの人間が苦手だったからだ。
「……まさか俺達の親切心を断るとは」
「いや、もはや構う必要もないだろう。荷物持ちは他で調達するぞ」
(成りきり……だよね?)
流石に素の性格ではないよな、と一抹の不安を覚えつつも、とりあえず事なきを得たことに光は内心ホッとする。
早く離れろという願いが届いたのか、そのまま離れそうな二人に内心ガッツポーズを送る。
だがそうは問屋がなんとやらと言わんばかりに更に別のプレイヤーが男たちの後ろから姿を表した。
「ショウゴさん、ジェシルさん。どうかしました?」
木の影から姿を見せたのは男たちと一緒にいるのが不思議なぐらいの純粋そうな蒼髪の少女。
何か騙されたのかな、とついつい邪推してしまうのはいけないことなのだが、光としては苦手な分類の男達にどうにも良い感情を持てないでいた。
「あぁ、なんでもない。この人が一人だから仲間にと思ったんだが断られたとこだ」
「へ、勿体無いことしたな」
ジェシルと呼ばれた銀髪の男が羨ましいかと言いたそうな嫌みたらしい笑みを浮かべるも、話す事が苦手な光からしたらさほど羨ましいと言う気持ちはない。
いや、正確にはパーティー組めて普通に話して楽しめるのは羨ましいが、その相手が女の子だから羨ましいと言うことは無かった。
「ショウゴ、ファルナ、あっち行こうぜ。……おい、どうした?」
ふと光が気づくとファルナと呼ばれた女の子がサンダルクの目の前までやってきていた。
小柄なキャラクターに設定したであろう蒼髪の少女は、何かを確かめるようにサンダルクの顔をまじまじと見つめている。
「……えと、な、何か?」
彼女の行動の意味が分からず裏返りそうな声を必死に抑えて何とか尋ねると、その瞬間彼女は満面の笑みを浮かべポンと柏手を打つように両手を合わる。
「やっぱり! あの、あの時はありがとうございました!」
「……?」
あの時、と言われても光は何の事かさっぱり分からなかった。
そんな困惑の表情をシステムは忠実にトレース。サンダルクが同じ様に困惑顔をしていると、ファルナは手に持っていた武器を見せてくる。
それは男達に同様、初心者が持つにはやや不相応なフレイルと言う棒にチェーンが着いた武器だ。
そしてその持ち手の部分には造ったキャラクターの名であろう【サミー】と銘が彫ってあった。
「………………あ」
フレイル、サミー、初心者の女の子。
そう、確かにサンダルクはファルナと以前出会っていた。
つい先日の事なのに身の回りに色々ありすぎたせいですっかり忘れてしまっていたが、ここに来てようやくその事を思い出す。
「あの時の……」
「はい! こんなに早く見つけれて良かったです。あの、良かったらこの後……」
「はいストーップ! 今は俺らと組んでんだから後にしてくれないかなぁ?」
ぐい、とサンダルクとファルナの間にジェシルが割り込み二人を引き剥がす。
ファルナは何か言いたそうな表情をしていたものの、現在の彼女はショウゴのパーティーの一員のためその言葉をぐっと飲み込んでいた。
「わかりました……。あの、でも最後にちょっとだけ……」
可愛い子の懇願されては悲しき男の性かショウゴやジェシルも口をつぐむしかない。それを見たファルナはOKと受け取ったらしく、再びサンダルクの前へとやってきた。
そして彼女は【ブック】の魔法で探索者の本を取り出すと何かを操作し始める。
まだまだ慣れぬ初心者らしい手付き。自分もこうだったなぁと光がその様子を懐かしんでいると、不意にファルナの後ろを小柄の何かが通りすぎていくのが見えた。
目端で通りすぎたものを確認すると同時、その反対側からガサリと言う枝葉の擦れる音が光の耳に届く。
「お待たせしました。これ私のフレンドカード――」
現れた小窓に目もくれず、サンダルクは左手を伸ばしファルナを思い切り突き飛ばす。
いきなりの事にファルナが何故、と驚愕の表情に染まるのも一瞬のこと。
何故なら目の前では突き出されたサンダルクの左腕が何者かによって消し飛ばされていた。