表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

はじまりの森~古参プレイヤーの戦い方~


 フィフティスで買い物を終えた光は久方振りに上機嫌だった。

 ここ最近知らない間に悪名が流れてたり色んなものを失った反動か、ちょっとした事でも嬉しくなる程に彼の幸せボーダーラインはかなり低めに設定されていた。

 何が起こったかと言うと武具屋の店主が靴をおまけしてくれたのだ。尚いつ店主の好感度フラグを立てたのか光は良く分かってない。

 貰った物は性能として何ら特別な能力は備えてはいないものの、靴は足の守りを上げるだけではなく、スタミナ消費の減少や悪路での速度低下緩和など地味ながらも重要な防具である。

 通常のゲームみたいに数値だけでは測れない装備の代表格と言えよう。


 そんな貰った靴を履いたサンダルクの現在の見た目は普通の初心者装備とは少し異なる。

 初心者特典の装備が無いのは当然として、現在の装備は次の通りだ。


 まずは武器として背中側の腰に下げたショートソード。

 刃渡り四十センチ程度の店売りの品で、こちらも特に目を見張るような代物では無い。

 靴も初心者としては珍しい部類だか、装備するプレイヤーもいるのでそこまではといった感じだろう。

 ただし鎧だけが少し異質だった。

 鎧の名称だけ見ればレザーアーマーである。特別な効果が付与されている訳でもない、なんの変哲もない革の鎧。

 しかしサンダルクのレザーアーマーは本来あるべき肩当てや腰当て部分が取り除かれていた。


(オーダーの小技、また使うとは思わなかったけどね)


 種明かしはカウンターにあるオーダー表。

 これは既存の防具になんらかの手を加える注文表でもある。ただし手を加えると言ってもオリジナル武具を作ったりするものではない。

 今回のサンダルクのように防具としてのパーツを減らしたり、逆に増やしたり、または部位ごとで変えたりといった具合に色々と組み合わせる事が出来るのだ。


 サンダルクが部位を減らした理由は二つ。

 一つは単純に値段が下がると言う点。

 もう一つは体の可動域を増やしたかった為だ。

 減らしたため防護範囲は減ってしまったものの、代わりに体の動きを阻害するものは無くなっている。

 また以前の装備に近しい感覚で動きたかったと言う理由もあった。


 そして浮いたお金を使って光は道具屋でベルトとポーションを数本購入。

 ベルトは服についているものでは無く、ポーション瓶を保持する作りになっている。まるで試験管を詰め込むような作りだけに、現代人から見ればガンベルトみたいな形状になっているのが特徴だ。

 インベントリにしまっておけばいいのでは、と言うプレイヤーもいるが、今まで一人で戦ってきた光からすれば道具を取り出す手間が増えるのはあまり好きではなかった。

 とは言え外に着けたら着けたで何かの拍子に割れたりする可能性もある。

 ゲームなんだからそこはシステム的にどうにかしろよ、と思わなくも無いが、リアリティーを求めるなら仕方ないとその辺りは割りきっていた。

 一長一短、取捨選択はゲームの醍醐味なのだから。



 ◇



 無事初心者程度には武具を揃えたサンダルクは再び『はじまりの森』へ戻ってきていた。

 相変わらず周囲はクリーム色の帽子とマントを装備した初心者パーティーで溢れている。

 とりあえずサンダルクは一人である利点を活かし、彼らと関わらないように位置を変え討伐と採取を進めていった。

 ステータスとしては周囲のキャラクター達とほぼ同じであるサンダルクだが、今まで培った知識と経験から他のプレイヤーに比べ動きがかなり洗練されていた。


 例えばこの森は主に獣系のモンスターが多数生息している。

 その中の一体にホーンラビットという角のついたウサギがおり、このモンスターはプレイヤーに向かって突撃する攻撃を繰り出してくる。

 初心者であれば盾で防いだり避けた後の隙を使って攻撃をするのだが、サンダルクはその突撃に合わせカウンターで剣を振るうことで一撃で仕留めていた。

 相手の攻撃に合わせタイミング良く放ち大ダメージを与える【カウンター】と言うスキルがあるが、サンダルクのカウンターはスキルではなくただの経験則から来るプレイヤースキルだ。

 本来の【カウンター】と違いテクニックであるため、この攻撃に対するダメージ倍率は無い。しかし急所である首を飛ばす事で、サンダルクは疑似【カウンター】を成立させていた。

 マニュアルカウンターと呼ばれるこのテクニックは一対一における有効戦術として確立され、今なお有志により様々な研鑽がされている。


 そしてソロ狩りを続けること一時間。

 出てきた敵をマニュアルカウンターの一撃(クリティカル)で仕留め次の敵へと向かう。

 基本ソロ狩りのサンダルクは経験値を一人占め出来る上ハイペースで戦った結果、1だったLvはあっという間にこの森で戦える上限付近のLv9まで上がっていた。

 初心者向けダンジョンであるためLv10までの制限があるこの森は、それ以降は経験値は溜まりはするもののLvが上がらないと言うなんとも不思議空間である。

 更にLv10のキャラクターがこの森を出ると以降は入れない仕組みになっていた。


 サンダルクもこの森の卒業間近であり、次の行き先をどこにするか決め始める時期である。

 小休止がてら森の中の切り株に腰をかけ、光はこれからの事を考え始めた。

 前回通りをなぞるのであればフィフティスとセカンダルの定期便護衛や荷物運搬などのクエストがある。だが全く同じ道を歩むのもどうかと思っていた。

 前回はソロとは言えこの世界を楽しめた反面、生き急ぎすぎていた節もあった。その為今回はもっとゆっくりとこの世界を探索しても悪くはないかもしれないと感じていた。

 とりあえず例の件のほとぼりが冷めるまではなるべく大人しくし、落ちついたところで再び行動を開始しよう。頭の中でその様な予定を組み立てていた光であったが、突如声を掛けられては強制的に意識が引き戻される。


「おい、そこの貧相な装備をしたやつ!」


 突然の大声にビクリと体が軽く跳ね慌てて周囲を見渡す。

 するとそこには金髪のキザっぽそうなイケメンロン毛男と、銀髪のいかにも粗暴ですよ系の男が何故かサンダルクの方へゆっくりと歩み寄ってくるのだった。



~Tips マニュアルカウンターとスキル【カウンター】の違い~


マニュアルカウンターはプレイヤースキルの為、ダメージ補正やMP消費、特別な修得条件はありません。

扱い的には他のゲームならばフレーム回避、ディレイキャンセルのようなテクニックの一つになります。

作中で光が使っていますが、彼意外でも使える人はそれなりにいます。

ただし自キャラクターの動きの限界と相手の攻撃モーションを知る経験と知識が必要になります。


スキル【カウンター】は逆に修得条件、MP消費、攻撃に対するダメージ補正があります。

またシステムによるスキルの一つの為、【カウンター】成功時には変な体勢からでも自動で繰り出すことが可能です。

しかしフルダイブの特性上、自キャラが自動で動く事に抵抗感があるプレイヤーも多く、発動条件を細かく設定している人も見受けられたりします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ